#011「オハヨウ」
@キッチン
真理「おはようございます、修羅さん」
修羅「おはよう。ハアー。みんな早いね」
不動「寝癖くらい直してから来い、口に手を当てろ、脇を掻くな」
弥勒「一度に指摘しても覚え切れませんよ、不動さん」
大日「今朝は、よくお休みだったようですね」
修羅「いやいや。それが、遅くまで眠れなかったから寝不足だよ。今日はオイラも、マリちゃんに仕事のイロハを教えなきゃいけないんだからさ」
真理「今日の指導主任は、修羅さんなんですね」
大日「そうですよ。あと、弥勒くんも」
弥勒「は、初めてなので、至らないところが多いと思いますが、よろしくお願いします」
大日「指導する側が硬くなってはいけません。肩の力を抜いて、いつも通りに振舞えば良いんです」
修羅「そうそう。自然体が一番!」
不動「お前は、もっと緊張感を持て」
真理「フフッ。お願いしますね、修羅さん、弥勒さん」
*
修羅「フワー。このキッチンにも、食器洗浄機を導入して欲しいな。現世には、機械にセットしたら、自動で洗ってくれる機械があるんだろう?」
真理「ありますよ。でも、高価ですし、場所を取る代物なので、わたしの家にはありません。それに、こんな大皿は入らないと思いますよ。ハワワ」
修羅「オッ。オイラの欠伸がうつったな。そういう風に無意識に真似ることを、ミラーニューロンっていうらしいぜ」
真理「へー。朱に交われば赤くなる、ですね」
修羅「そうそう、そんなところ。だからさ、マリちゃん。オイラと一緒のときは、一生懸命に働こうとしなくて良いし、改まった態度をとらなくても良いから、もっと気楽に、フランクに話してくれよ」
真理「怠け癖が付くと嫌なので、遠慮します」
修羅「グサッ。たまに、矢のような指摘をするよね。――でもさ、マリちゃん。フーさんは常識外れの体力お化けだから、まともに付き合うとヘロヘロになるってことだけは覚えておいたほうが良い。昨日のスパルタは、まだ序の口だから」
真理「見てたんですか?」
修羅「見てなくても、だいたい想像が付くよ。かつての自分だもの。繰り返すけど、オイラと一緒のときは手を抜いて構わないからな。見つかっても、オイラが唆したって言って泥を被るし。オイラは、叱られたり怒られたりすることに慣れているから、痛くも痒くも無い。――その食器は、下の引き出しの三段目だから」
真理「(ひょっとしたら、弥勒さんにも、同じようなことを言ってるのかもしれないわね。)お気遣いだけ、ありがたく頂戴しておきます。――ココですね?」
修羅「そう、ソコ。飲み込みが早くて助かるよ。――それじゃあ、今度は別館に行こうか」
真理「ハイ」
修羅「やっぱり、二人でやると捗るなぁ。料理をツマミ食いした廉で、何度か皿洗いを一人でやらされたことがあったんだけど、なかなか終わらなくてさ。しかもフーさんに、誰も手伝うなって意味で、背中に『刑務作業服役中』って紙を貼られたんだ。やりすぎだよ。沸点が低すぎる」
真理「たしかに、少し気が短いところがありますね」
修羅「そうだろう?」
真理「でも、修羅さんを立派なホテルマンにするためなんだと思います。愛の鞭ですよ」
修羅「オイラは褒めて伸びるタイプなんだけどなぁ」
真理「アラアラ。――さて。無駄話は、これくらいにして、別館に行きましょう」
修羅「もうちょっとダラダラしてたいところだけどな。オイラの失敗談と、それに付随するフーさんからの暴言暴動の話は、まだまだ続きがあるんだ」
真理「終わってから、ゆっくり伺います。なので」
修羅「ハイハイ、行きますよ、女王陛下」