#012「フットウ」
@リネン室
真理「シーツとカバーは、二枚ずつで良いんですよね?」
修羅「そうそう。そのまま、この台車に乗せて」
真理、リネン類を台車に乗せる。
真理「他に、ここから客室に持って行く物はありますか?」
修羅「ウーン。たぶん、これで良いと思う。足りなければ、オイラがひとっ走りするし」
真理「ひとっ走りしなくて済むように、よく確認してください」
修羅「ハイ。(これじゃあ、どっちが指導してるんだか分からないよ)」
*
@ボイラー室
真理「露天風呂は四十五度にするんですね。熱すぎませんか?」
修羅「熱ければ、蛇口から水を足してうめることができるようになってるし、パイプを通ったり、湯船に溜まってるあいだに、少しずつ冷えるから、ちょっと熱いかなと思うくらいで丁度良いんだ。ぬるいから熱くしてくれと言われることはあっても、逆は言われたことが無い」
真理「フーン。皆さん、お熱いのがお好きなんですね」
修羅「そう言われると、色好みのように聞こえてくるなぁ。まぁ、間違っちゃいないけど。ミーくんと女湯を覗こうとしたこともあるし」
真理「まぁ、不潔だこと」
修羅「言っておくけど、先に思い付いたのは、オイラじゃなくてミーくんのほうだからな」
真理「エー。本当ですか、それ?」
修羅「ホント、ホント。ミーくんは、あれで結構、ムッツリくんだから。客室に忘れられてた現世から持ち込まれた卑猥な雑誌を、こっそりベッドパッドの下に隠してるんだぜ? ――それで、板塀の隙間から見えないかと思ってたら、飛んできた洗面器が蟀谷にジャストミートしてさ。星が飛び去ったあとに振り返ったら、フーさんが両手に脱衣籠を構えて仁王立ちしてたんだ。挟み込んで、フン縛って、湯船に沈めてやろうかって脅されながら、露天風呂の周囲を追い掛け回されてさ。とんだ温泉卵未遂事件だよ。しかもミーくんは、いつの間にか逃げ果せてたし」
真理「アハハ。不動さんは、日頃の行いから犯人を割り出したんでしょうね」
修羅「濡れ衣もいいところだよ。ストレス解消のサンドバッグ扱いじゃないか」
真理「因果応報ではありませんか。そのストレスの根本は、修羅さんの失敗にあるんでしょう?」
修羅「ウグッ。痛いところを突くね。荷物運びの入れ違いにしても、帳簿の計算間違いにしても、日誌の記入忘れにしても、故意にそうしようと思った訳じゃないというのに」
――オッと。ちょっと厳しいことを言いすぎたわ。表面上は気にしてない風に装ってても、奥底では悩んでるんだったわね。
弥勒「指導中、失礼します。そろそろ、受付業務についてお教えしたいのですが」
修羅「そうか。それじゃあ、バトンタッチだ。しっかりやれよ、むっつりミーくん」
弥勒「ナッ。何を急に、そんなこと」
修羅「慌てること無いだろう。――そうそう。昨日の夜のことなんだけどさ」
弥勒「ワー。それは、言っちゃ駄目です」
真理「昨日の夜、何かあったんですか?」
修羅「あのあと、脱衣所から部屋に戻ったら、ガッ」
弥勒、修羅の脇腹に肘鉄。
弥勒「さ、さぁ。フロントに行きましょう」
真理「えっ、えぇ。――大丈夫ですか、修羅さん」
修羅「平気、平気。オイラのことなら、気にしなくて良いから。(覚えておけよ、ミーくん。先輩にダメージを与えて、タダで済むと思うな)」




