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エスカドス戦記  作者: ひび割れた埴輪
盗賊騎士
19/32

18 予兆/暗殺計画

 クメイト達が密偵として活動し始めて早九か月が経過していた。つまり俺がこの都市へきてから、丸一年経ったということになる。


 このところの密偵活動は、順調すぎるほど順調である。途中何度かピンチはあったが、結局のところ身バレすることも、勿論誰かを欠くこともなく成果だけを積み上げることができている。


 彼らが加入してからというもの、邪道を働く盗賊の検挙ペースは明らかに跳ね上がった。反対に凶悪な犯罪の発生件数は大幅に少なくなっており、それが街の治安向上という形でも目に見えて表れてきているように思える。

 最初は彼らの存在を煙たがっていた騎士達も今ではすっかりクメイト達を信頼し、プライベートでも彼らと行動を共にすることさえあるほどだ。

 もっとも全員というわけにはいかず、一部には平民の、元盗賊と同じ仕事をすることに未だに文句をいうプライドの高い騎士サマもいるにはいる。まあ、彼らのような人間はどこに行っても一定数はいるんだろう。盗賊にもいい奴がいるように騎士にだって嫌な奴はいるのだ。

 どちらかといえば第五騎士団はアルス様の直属が長い部下でできた人間が多いため、そんな連中むしろ少ない方だと思われる。


 俺も近頃は何度か捕り物で活躍することが出来たり、前より自由な時間も作れるようになってきたため趣味でもある剣術の稽古を増やすことができたりと、非常に充実した日々を送れていると思う。

 今でも、悲惨な境遇を抱えているがために止むを得ず外道な働きに手を染めているような盗賊を騙し、取り入り、騎士団に突き出すということがあった時にはいたたまれない気持ちを感じることはある。が、それは覚悟したことではあるし、その陰で確かに救えている人もいるのだから自分の中で折り合いはつけられている。


 そんなところを差し引くにしてもこんな生活も悪くない、などと思い始めていた、王都にきて二回目の春。

 盗賊界隈の水面下では、ある計画が持ち上げられていたのだった。


「若、今ちょっとよろしいですか? ここんとこちょっと気になる話が回ってやして。おやっさんが店にきた連中から仕入れてきた話なんですがね」

「クメさん、いい加減に若はやめてくれよ。もう15にもなったことだし、そもそももう盗賊団の若じゃないでしょ」

「いいじゃないですか、盗賊じゃなかろうと若は若ですよ。ところでそのおやっさんが聞いたっていう話なんですが、へぇ、最近はおやっさんの店にもあの馬鹿共が何も知らずに足繁く通うようになりやがってね。まあ連中のアジトも結構つぶれて難儀してるとこに匿ってやったりクスリだしてやったりしてるから、それは当然なんですがね。おやっさんもようやく旦那や俺達の役に立てるってよろこんでましたよ」


 クメイトの親愛がこもったその言葉にちょっとグッとなる。でも若は恥ずかしいからやめてほしいんだけどな……。

 それにしても、ボウセンの店もトラップとして有効に機能し始めたか。このところあまり顔を出せていなかったが、それでも確かに来客は増えているような感じはあったかな。

 それは喜ばしいことなのだろうが、俺達のたまり場としても馴染んだあの店がゴミ共のたまり場になってしまうのは、少しだけ悲しさも感じる。


「ふーん。まあおやっさんが喜んでるなら、よかったな。で、話って何」

「何でも、あいつらの中である計画が持ち上がってるってんで興味ある奴に声を掛けてくれってことでしてね」

「ある計画って?」

「それが、何とあのアルスの旦那を暗殺しようって話らしいんですよ。いや、全く、あいつらも懲りないでもんですよねえ」

「……うーん? アルス様を暗殺かあ? そりゃ一大事ではあるけど、正直またかっていう感想が先にくるな」


 いや実際追い詰められた奴は何してくるかわからないから、とても余裕なんてこいていられないんだけど。

 ただ、アルス様を暗殺しようとする企画そのものはそこまで驚くようなことではない。


 最近の騎士団の活躍は俺達の密偵の働きというのも多分に貢献しているのは間違いないが、それを構築したのも含めて元を辿ればアルス様の手腕によるところが大きい。

 彼と彼の鍛えた団員の戦闘能力含む警備騎士団としての実力、頭脳、人脈、そして神の寵愛をも一心に集めているかのような勘の冴えと幸運。

 これらを兼ね備えたアルス様がいるがために、騎士団は盗賊達を日に日に追い込んでいけているようなものだ。

 勿論盗賊達も詳細はともかくそれを悟っており、俺が騎士団に参加してからの短い期間の内にも数回は暗殺が試みられたことはあった。

 勿論全てあっさりと撃退され未遂に終わってはいるが、中にはアルス様本人ではなく周りを狙った嫌がらせに近いような事をしてくるケースもあり、今まで被害がなかったからといってそんなに楽観していい類の話ではない。


「でも、敢えてまた大勢に声を掛けてそれを計画するっていうのなら何か特別なアテでもあるのかな。もしかして、とんでもない凄腕もいるっていうギルドにでも声をかけて飛び切りの暗殺者を雇ったとか?」

「さあ、生憎まだ具体的なことは何も聞いてませんで……。まあどのみち旦那なら俺達が心配しなくても問題ないんでしょうけどね。ただその集まりってのを逃す手はないでしょう?」

「いや、実際全然油断できるような話じゃないよ。俺もアルス様が暗殺者如きにどうこうできるとは全く思わないけど、やり方次第で周りの人が巻き込まれるようなことも考えるとそうも言ってられない。無理にでも混ざり込んで、少しでも情報を集めないと。確かにそんなに無暗やたらと声を掛けて回ってるなら、全く繋がりがない邪道派と接触する絶好機でもあるしな」

「決まりですね。そうなるだろうと日時はもう押さえてあります。日はもう三日後なんだそうです。

 実際行くのは俺と若として、念のため騎士団の旦那衆にでも、あ何ならリムル嬢ちゃんにでも変装してついてきていただきやすか?」

「いや、変に怪しまれるほうが不味いし、とりあえず話は伝えておくにしてもその場まで行くのは俺達だけでいいんじゃないか。リムルはそういうの得意じゃないしね」

「わかりやした。それでは三日後、御一緒しましょう。若、その場では屑共が不快なこというかもしれませんが、辛抱ですよ」

「それをいうならクメさんの方がだろ。今日の話ってのはそれだけ?」

「へい。久々に若と共同作業できますねぇ。騎士の旦那衆もよくしてくれてはいますけど、やっぱり気心知れた人との方が安心できますわ。じゃ、これからちいと顔出さなきゃならんところもありますんで、不作法ですんませんが今日のところはこれで失礼しやす」

「わかった。色々大変そうだけど、頼りにしてるよ。騎士団への連絡は俺の方からしとくようにする」

「助かります。じゃ、また後日……」


 ふむ。まだわからないが、ちょっと忙しくなりそうだな。早速騎士団に連絡した方がよさそうだ。

 場合によってはクメイトが言っていたように応援を頼んだ方がいいかもしれないな。だが騎士の皆さんはどうも所作が綺麗すぎて直接の接触には向いていないんだよなぁ……。


---


「ふむ、アルス様を暗殺か。この期に及んで強気なことだな。」


 その話をリムルに伝えたときの感想はこの通りだった。

 彼女も全くアルス様を心配している様子はない。まあ当然といえば当然か。連中が何をやってきても生き残る可能性が最も高いのが標的であるはずのアルス様だからな。

 まだ俺達が巻き込まれて死ぬほうがある気がする。


「全く。でも奴らだって馬鹿じゃない、今までやって何回か失敗してるのと同じ轍を踏むとは思えないんだよな。何か、例えばギルド連合あたりから凄腕の暗殺者を雇ったとかって可能性ないかな」

「うん? ……まあ無いとは言い切れないだろうが……私はギルドの人材については全くといっていいほど無知なことだし。しかし話に聞く限り、アルス様を打破しうるの力をもつ可能性があるような、ギルドの幹部連中が今更そんな暗殺に力を貸すとは思えないな。幾らギルド連合の戦士が凄腕揃いとはいっても、それ以外のちょっと腕が立つ程度の人間では、何人でかかろうとあの人はどうにもならないでしょう?」

「そう言われるとそうだよな。うーん、じゃあやっぱり毒殺とか人質とか、あるいは見せしめとかかな……」

「正面からぶつかろうとするよりはその方があるだろうな。

 しかし、毒殺はともかく人質や見せしめか……。それは確かにアルス様も一番対処に困るかもしれない。流石に関係者全員の使用人あたりまでは目が届かないだろう。

 わかった。今後案件が増えて人手が必要になりそうなことも含め直接報告するようにしよう」

「お願いします」

「……君も直接いって報告したらいいのに。その方がアルス様も喜ぶ。最近ソラがあまり部屋まで寄り付かないとお嘆きになっていたぞ?」

「い、いや、最近は騎士団の人ともうまく連携がとれるようになってきたし、なるべく押しかけてアルス様の手を煩わせないようにと……。リムルもマメに通ってきてくれてるし、つまらんことで関連を疑われるのも嫌だし」

「だが剣術の稽古で近くには行っているんだろう? 何ならこれから一緒にどうだ? 今日ならダリル様に見ていただけるかもしれないぞ。彼も君を評価しているしな」


 う、ダリル様のしごきはともかく、リムルと一緒に稽古というのは非常に魅力的だ。

 本来なら何を押してでも行くところなのだが……。


「非常に魅力的な提案なんだけど、実は昨日ブラントさんにボコボコにされたせいで体がギタギタなんだ。それだけならともかく明日も鍛錬することになってるから今日はちょっと……この後巡回も頼まれてるし……。

 でもやっぱ行きたい……行こうかな……」

「いや、それなら今日は休んでおいた方がいいな。しかしブラント様か。気に入られたものだな。少し意外だ。彼が気に入るのは、もっとこう、ゴリゴリしたタイプかと思った」


 リムルと二人で解決した例の一件以来、彼女との距離は格段に縮まった気がするな。こうして少し砕けた話もできるようになった。

 元々話自体は合うのだし、素直にうれしい。

 思いっきりぶっちゃけたけど嫌われなくてよかった……。

 リムル益々可愛いよリムル。


「まあ確かにそういうイメージはあるけど。でもこれが意外と合うんだよなぁ……。やっぱり単発を強化しながら出入りしてのヒット&アウェイがいいみたいだ。闘気の鍛えの方針も合ってる」


 まあ、どんなスタイルだろうと闘気さえ強くなればなんとでもなるんだがな。

 単純に今までの俺はそこのところの認識が甘かったというのはある。

 最近は団の人に勝てる立ち合いも少し増えてきて、ちょっとは実力に自信がついてきた。


「ふむ、成程な。彼もまた自分に足りない伸ばすべきところというか、更なる高みを君に見ているのかもな。それに成果も確実に出ているようだ。纏っている闘気が違ってきた。私も負けてはいられないな」

「ミラージュの立ち合いとの相性は全く改善されていないんだがな……」


 それが最大の懸念点だ。リムルとの立ち合いで全然相手にならないようなことは避けたいのだが。虐められるより虐める方が好きです。

 彼女はその言葉に少し笑うと挨拶もそこそこにその場を離れた。

 この後は言っていた通り報告に向かうのだろう。その前に武器屋に寄ってるんだろうけどな。次はもっと金を貯めていいものを買うつもりだと言っていたからな。

 今頃剣を愛でる天使が武器屋の親父の前に降臨しているに違いない。俺、生まれ変わったらきっとリムルの剣になるんだ……。


「さて、俺もちょっと休んだら頼まれた巡回にいくとするか……」


---


 三日後。

 俺はクメイトとともに盗賊達のアルス様暗殺計画が話し合われるという場所へと来ていた。

 場所はある郊外にある盗賊一味のアジトで、地下にあるバーを貸切にして行われるようだ。

 この場所で集会が行われるときいてまず確認しておいたが、店自体は開けた場所にあり周囲をそれと悟られずに包囲するようなことは難しい。今日この場を抑えてしまえれば楽といえば楽だったのだが。

 もっとも証拠もなければ現行犯でもないので少しやり方に問題があるか。


 店の前で見張りをしていた盗賊の一人は俺達を知っていたため、特に何事もなく店に入ることができた。

 店の中には既に二十人近い数の人がいる。同じ団からは精々二、三人来るのがいいところだろうし、十組ほどの盗賊団がこの場にいるとみてよさそうだ。


 クメイトと目でそのことを確認していると一人、この中で最も歳がいってそうな男が話しかけてきた。

 クメイトと同年代か、やや上くらいだろうか?

 正面に座っていたことをみると、もしかするとこいつが発起人なのかもしれない。要注意だな。


「クメイトじゃねぇか。話には聞いちゃいたが、ようやくお前もカビくせぇ旧式のツトメをやめてこっちへ鞍替えしたのか。どうせこうなるっていうのに相変わらず鈍くせぇ連中だぜ、古いのはよう。」


 クメイトはその言葉にムッとしつつも言葉を返す。


「周りがこんなになっちまっちゃあ、こうでもしねぇと食っていけねえんでね」

「何だ、一丁前に怒ったのか? でもまぁ、おめぇはまだ利口だぜ。昔ミドファやドレファにいつもくっついてた連中は、未だにのろくせぇ仕事やってるやつばかりだからな。

 あんなにトロトロ仕込みなんていれてたら、その分騎士の糞共にもかぎつけられるって事さえ未だにわからねぇんだ。やった後にだって足がつきやすいに決まってる。人数かけて適当に金もってるやつのところへ押し込んでから見てたやつ全員殺しちまって口を封じるのが一番なんだよ。死人に口なしってな」


 ……ちょっとじいさん信仰入ってるクメイトじゃなくてもイラっとくる奴だな。

 その御自慢のやり方のせいで警備が段違いに厳しくなったがためにお前らはこんな集会を開くほど追い込まれてるんだけどな。

 だが、今はまだこいつと揉めて追い出されるようなことになるわけにはいかない。今にも掴みかからんような顔をしているクメイトの上着の裾を密かに引き、宥める。


 クメさんや、ここは我慢じゃよ。


 どうやらその意図は伝わったらしく、何とかクメイトの表情に落ち着きが戻る。

 クメイトは一旦こうなればもう大丈夫だ。そもそもじいさん絡みじゃなきゃクメイトはそう簡単に血が上るような男じゃないんだけどな。

 

「お前は貧弱もいいとこだから俺達のやり方にゃついてこれねぇだろうが、鍵を破ったりだの金を見つける腕はなかなかだからな。俺のところにくりゃ下っ端でつかってやるぜ?」

「そのときにゃあ、お願いしますよ」

「へへ、立場ってのがわかってるじゃねぇか。……ところでそっちの餓鬼は何だ?」

「この子はミドファお頭のお孫さんで、ずっと堅気で生きてきたんだが最近になってこの道に入ったんだ。歳の割には腕が立つしこの計画とやらに役に立つこともあるかと思って連れてきたんですよ」

「ミドファの孫ってことは、ドレファの子か!? ……そんなのがいたとはな。

 笑えるぜ、あのミドファの孫が新式とはよう。だがそんな乳くせぇ餓鬼が何の役に立つって?」

「おまえさんだってミドファお頭やドレファ若頭の腕っぷしは知ってるでしょうよ。この子はあのお二人以上だよ。それにまだこの道が短いからいい顔してるし、あの悪魔にも近づけるかもと思ってね」

「けっ、大したことねぇよあんな奴ら。……だが餓鬼を囮にでも使うってのはいいかもしれねぇな。

 ……よし、思ったよりすくねぇが、大体集まったようだしそろそろ始めるか。クメと餓鬼はそこに座れ」


 そういって男、クメイトに聞くとグスタキオとかいう変な名前らしい、は元座っていた正面の席にもどると、早速仕切り始めた。


「皆の衆、今日はよく集まってくれた。早速だが、本題に入らしてもらおう。今日集まったのは他でもねぇ、最近俺達の稼ぎを各地で邪魔に邪魔してくれてる、あの金髪の悪魔をどうにかする方法を話し合うためだ」


 揃ったという場の顔ぶれを、改めて観察する。見たこともある人間も何人かはいるが、ほとんどは初見だ。まだこんなにクメイトでもコネを持ってないような連中がいたんだな。

 こいつらはおそらく団の中堅程度のメンバーだと思うが、闘気から判断する限り流石に邪道での仕事を行うだけあって平均の戦闘力レベルはそこそこ高いように感じられる。

 最近かなりパワーアップした今の俺なら二、三人くらいなら問題なく対処できるとは思うが、それ以上の大人数を相手取るとなると武装次第にもよるが自信はない。

 ……もっとも、俺を含めたここにいる全メンバーでアルス様に挑みかかっても10秒は持たないと思うが。


「しかしグスタの旦那よう、どうにかって言ってもどうにもなるもんじゃないですぜ奴は……」

「半年くらい前だったか、B級相当だとかいう、流れでやってたあのバステオ先生でも雇ってた連中含めて瞬殺されちまったって話だしよう」

「うむ。幸い奴自身はこの王都以外で動くことはあまりない。俺達も奴を避けて地方をメインにしていくしかあるまいて」


 盗賊達もそう思っているのか、それぞれに弱気なことを口にする。

 しかし、暗殺について話し合うと聞いていたが、方法論から話していく流れか?

 伝わっていないところがあるのか、それとも俺達のところにきた話に尾ひれがついていたのか。

 いずれにせよ今王都を根城にしている盗賊が地方に散らばるということになってしまっても厄介だな。


「そういうわけにはいかねぇ。地方とここじゃ一回の稼ぎが段違いだ。でかい家はみんなこっちに本拠を構えてやがるからな。あの悪魔が仕切りだしてからは地方だって楽じゃあねぇ。南の方の連中はギルド連合から面倒くせぇ傭兵引っ張ってきてたりしやがるしな。

 一々そんな連中を出し抜いてやらなくちゃならねえのに、一回の稼ぎが小さくちゃ割に合わねぇ。

 第一あの、人を舐め腐った貴族あがりのボンボン騎士どもにいつまでもでかい顔させてられるかってんだ」

「そうはいってもよう、奴は無理なんだよ。今までだっていくつかの団がそれぞれに奴を何とかしようといろんな手を試してきたが、皆やりきる前に捕まって返り討ちよ。毒を盛ろうにも警備がきつくて近づけやしねぇ。戦って倒すなんてもっての他だ」

「ふん。そりゃあてめぇらの腕とやり方が悪ぃんだよ」

「何ぃ? じゃあてめぇのところなら倒せるっていうのかよ? さっきも言ったが奴はB級含む連中が10倍の人数で掛かったって……、」

「慌てんなよ。何も俺達だけでやろうってんじゃねぇ。奴が戦闘のプロってならこっちも相応の奴を雇えばいいのよ。このご時世だ、腕が立って金を出せばなんでもやるってのはそこら中にいくらでもいるぜ」


 やはりそういう話か。正面からというのは意外だが、確かにアルス様相手だと半端な毒では効かないし、毒を盛れるような立場や位置まで取り入るのも難しいというのは正しい。

 だが、リムルが言っていたようにそんな話に乗る奴らを集めて正面から戦争しようとしても結局何にもならんぞ。


「そんなゴロゴロしてる奴で殺れるならそもそも苦労しねぇよ。なんか具体的なアテがあるってのか」

「そいつがあるんだよ。とんでもねぇ凄腕を呼びつけるアテがな。そいつは正に金次第でなんでも殺してのけるって一部では有名でな。

 なんでも、昔ミンガラム王国の騎士団長の一人さえ一太刀で殺してのけたって話だぜ」


 ……胡散臭い話だな。本当かよ。

 ミンガラム王国は世界で唯一ザフィアス王国に匹敵する規模の軍と領土を持つ国だ。

 当然そこの騎士団長ならば一角の人物であるのは間違いなく、仮にその話が本当ならその暗殺者が只者ではないというのは確かだろう。

 だがそれだけに簡単に信じられる話じゃない。話してるのがこのゴミなら猶更だ。


「それが本当なら確かに可能性はあるがよ。信じられねぇな。それに、そんなアテがあるなら、どうしてさっさと殺らない?」

「そこで今日の相談だ。そいつは今言ったように腕が立つがその分べらぼうな額の報酬をふっかけるって話だ。勿論多少は押し込む気ではいるが、そんな奴相手だとどこまで値切れるか知れたもんじゃねぇ。だからここにきてる団から依頼をするための出資を募りてえのよ」


 ふうん、暗殺を依頼するためのカンパね。

 そんな眉唾な話のために自分に金を預けろとは虫のいいというか、調子のいい話だ。

 だが周りの連中はあまりそういうことは気にならないらしい。自分達が人を騙すというか、陥れることを生業にしているというのにそんなに簡単に信用してしまっていいのか。

 いや、そんなところで同業の恨みを買って生きていられるような広い世界ではないということか。


「ふん、そういうことか。幾らずつだい?」

「そうさなぁ……、銘々の団で金貨100、いや200ってとこだな」


 ……こりゃまたまた随分な額をいってきたもんだな。

 大体いきなり額が倍になるってどういうことだよ。ちょろまかす気満々にしか見えないぞ。


「金貨200枚ずつよこせだと!? ふざけたことぬかしてんじゃねぇぞ! 大体それだけ払ってあっけなく失敗でもしたらどう責任とる気だ! ええ!?」

「事実そんくれぇの額を要求されるんだから仕方ねぇだろ。そんな失敗の心配がいらねぇような相手を選んで頼もうってんだからな。

 それともてめぇらみてぇな貧乏盗賊団には200でも苦しいか? 特にクメ、お前みたいなつい最近まで鈍間な仕事やってたような連中は今じゃたったの金貨100ぽっちでも集められねぇんだったか?」


 ちっ。自分の事を棚に上げてマジでうざいなこいつ……。

 200が安いというなら3000でも4000でも勝手に自分で集めてみろってんだ。

 盗賊がこんなんばっかりなら捕えるとき1ミリも心が痛まんですむんだがな。


「金貨200くらい、明日にでも耳揃えてもってきてやりますよ」


 そんなあからさまな嫌味にも、クメイトはさっきと打って変わって冷静だ。彼はもう完全に密偵としての仕事に徹している。

 彼がこうしているとうのに俺が無駄に熱くなってどうする。つまらんことばかり考えていないでしっかりしないと。


「そうか? よし、つい最近までノロやってたクメがこうなんだ。まさか他の奴らができねぇとは言わねえよな?」

「ちっ、馬鹿にしやがって。わかったよ、出せば文句ねぇんだろ。だが金に換えるのに五日はかかるぜ」

「かまわねぇよ。先方だってまさか全額前金で渡せなんていいやしねぇさ。

 明日ここで会うことになってるが、そん時には、まあ500あれば多すぎるくれぇだろ。とりあえず立て替えてはやるが、持ってこられるやつは明日までにもってこい。

 おい、クメ、てめぇも言ったからには200ちゃんと持って来いよ」

「わかりましたよ」

「それとドレファの餓鬼。おまえにも仕事がつくかもしれねぇからな。お前も明日19時にここへ来い。遅れんなよ」

「わかりました。19時ですね」

「よし。じゃあ今日は解散だ。何、金さえ払えばお前らは安心して待ってるだけですぐに仕事がダンチで遣り易くなるんだ、安いもんだろ」


 その声に盗賊達は立ち上がり、ブツブツと文句いいながら退室していく。

 思えばグスタキオと、主に会話進めていた盗賊以外はおそらく端役なのだ。

 口を挟むこともできず勝手に出資が決まってしまったことに対する不満と、団にどう説明するかを不安に思っているのだろう。


 さて、俺もこうしてはいられない。

 この会合の内容報告は後にするとして、今は一旦ここを離れるふりをし、何とかあのグスタキオとかいう奴だけでも後をつけアジトの場所をある程度つかんでおきたい。

 この近くは視界が開けており、こちらも顔を知られているのだから簡単ではないが、やるだけの価値はある。

 おそらく街中へ向かう方向であるだろうし万一見つかってもそこまで問題はあるまい。


 そう決めて俺はクメイトと共に足早に店を後にした。

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