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ペタンを見せて、空の上で

 ペタンがくぉんと鳴いたのを見たジュナイさんハハッ!と笑った。

僕は良くわからないので思わずぽかんとした。

今のペタンの何が面白かったんだろう。


「あの、何か面白いことありました?」


 僕がそう尋ねると、ジュナイさんはこほんと咳払いして笑いを収めた。

そしてペタンの方を見つめながら笑った理由を教えてくれた。


「いや、実はそのペタンに心で語りかけたんだが全部受け流されたよ。それで返って来た返事が狐みたいな鳴き声とはね」

「え、それってペタンがジュナイさんを無視してたってことですか。す、すいません!」

「いや、気にしていないよ。この様子だとそのペタンはもう人語を解して、思念に乗せて話すこともできるんだろうな」

「本当ですか?」

「そうじゃないと説明がつかないからね。多分俺を無視したのは初めて話す相手は主人と決めてるんだろう。守護獣の主としてはコレを責める事はできないよ」

「そうですか……あの、ペタンはもう人の言葉がわかるのに、僕が言葉を受け取れないのは……?」

「君の方の思念の受け取りの習熟度の問題だな。君はどの位その子の気持ちがわかるかな」

「ええと、気持ちかどうかは解らないですけど、ペタンがこうしたいとか、今こんな状態っていう感覚を受け取ることは出来ます」

「ふむ。君達は本当に早熟なようだね。そこまで行っていれば言葉になった思念を受け取るまでもう少しだ。がんばりなさい」

「は、はい!」


 僕は頑張ればもう少しでペタンと話せることに浮かれていたので気づかなかったけど、ジュナイさんはこの時凄い真剣な目で僕を見ていたらしい。

後でお父さんに聞いた話だけど、ジュナイさんの口元は笑みを浮かべていたけど、目はまったく笑っていなかったらしい。

思えばこの時既に僕に対する審査は始まっていたんだと思う。


「さて、それでは夜分にすまないが君の守護獣の体格操作、見せてくれるかな」

「騎士様、いくらこの辺りが比較的平穏な地域とは言え、この時間から村の外に出るのは……」

「ああ、アダンさん、でしたね。父君としての心配がごもっともですが、我ら守護騎兵は夜の間を渡る経験も一度や二度ではありません。どうか俺を信頼してご子息を預けていただけませんか」

「失礼ですが騎士様の守護獣は広場のあの……?」

「ああ、スイーグルムと言ってね。夜目も利くし、羽ばたくのに実に静かな良い守護獣だよ。鳥とは言え闇夜の中でも盲獣やただの獣は見落としはしないよ」

「アダン。解るな」

「……息子をお願いします。騎士様」

「承った。それでは行こうか、ユート君。ペタンも連れてね」

「はい、お願いしますジュナイさん」


 少し姿勢を楽にしながらも、騎士らしいしっかりとした雰囲気を纏っていたジュナイさんにお父さんが頭を下げて。

僕はすぐ傍を通るジュナイさんに肩をぽんと叩かれて、外に向かうのに続く。

今回は村長さんもお父さんも着いて来ないようで、僕とペタンの二人きりでジュナイさんに自分達の力を見せないといけないみたいだ。


 外に出るとさっき見た大きな鳥がペタペタと歩み寄ってきて、ジュナイさんにくるくると鳴きながら大きな頭を擦り付ける。

ジュナイさんは何も言わないけど、ぽんぽんと少し硬そうに見える羽毛を撫でるとその鳥……多分さっき言っていたスイーグルムかな……はすとんと足を腹毛の中に埋もれさせて体勢を低くする。

主であるジュナイさんは尾羽側からするすると登って行くんだけど、正直僕はどうすればいいか解らないわけで。


「すいませんジュナイさん。スイーグルムの背中にはどう乗ればいいですか?」


 そう質問した瞬間、僕に始めてペタンからのものじゃないと解るイメージが送られたのを感じる。

羽毛は簡単に抜けないからしっかり掴んで背中の鞍まで登って行く、というイメージ。

思わずペタンに、今のイメージを送ってみると、帰ってくるのは空白のイメージ。

多分コレはペタンは知らないよという事だと思う。

という事は……。


「あの、守護獣って主以外にも思念を送れるんですか?」

「お、スイーグルムから受け取ったか。筋がいいぞ。そうだ、守護獣に主が言いつければそういう事も可能だ。まぁ、受け取る側にそれなりの才能が求められるがね」

「そうなんですか……」

「良し。じゃあ俺から説明しなくても解るな。登っておいで」

「はい。今行きます」


 送られてきたイメージどおりに肩の上にペタンを乗せて、スイーグルムの縦に長い背中に翼を避けるように横に廻した皮製の太い帯で留められた縦長の鞍の近くまでは登れたんだけど。

鞍には既にジュナイさんがいるわけで、どうしようかと思っていたら、鞍に前かがみで座っていたジュナイさんが僕の方を振り向いて、ぐっと力を入れて鞍と自分の間に僕達を入れてくれた。


「よし。ペタンをしっかり抱えているんだ。ユート君の体は俺がしっかり支えてあげるから」


 そういうとジュナイさんは僕のお腹に左腕を廻して、空いた右手でスイーグルムの首の方へと伸びる綱を握った。

ジュナイさんがそんな風に準備を終えると、スイーグルムは静かに大きな翼を動かし始めた。

激しく動かしているはずなのに音を立てずに風だけ動かす不思議な翼に乗って、僕達は徐々に空へ向かって飛び上がっていった。




 暗くて良く解らないけど、周囲を照らすのは月と星の明かりだけの暗い草原の真ん中に降り立ったスイーグルムから、ジュナイさんに促されて僕は腕の中をペタンを肩に乗せて見た目の硬さからは想像できない柔らかな羽毛を掴んで地面に降りる。

ジュナイさんはスイーグルムに乗ったままで、僕を通してペタンにやってもらいたい事を伝えるみたいだ。


「ユート君。ペタンを今朝のようにここから4日の位置にある領主様の街からも見えたように、ペタンを大きくさせてくれないか」

「解りました。ペタン、途中は自分の好きな大きさになっていいから。僕らも村も潰さない距離を取ってから自分に出来る限り大きくなって。ジュナイさんが止めるように言ったら思念を送るから、行っておいて」


 ペタンは僕の指示を受けて、くぉんと一声鳴くと金の毛並みを月光で輝かせながら駆け出すと共に徐々に大きくなっていって。

家より大きくなった所でそのまま駆けて行き、そのうちぽつんと点のようになった。

そこからペタンが膨らむ感覚を送ってきて、見る間にペタンは大きくなり始める。

ジュナイさんはそれを見て最初は関心した様子で見ていたけど、徐々にその顔は呆れたようなものになっていって……最後に僕を止めた時には僕の事をなんだか変なものを見るような目で見下ろしていた。


「君の力は良く解った。これは御領主である我が主イルニアッド様にご報告して、君を守護騎兵団か守護魔道師団に成る為の援助をせねばならないだろう」

「えと、僕は守護魔道師団に入れますか?」

「君が望んで……領主様の元である程度の礼儀作法、読み書きを覚えたらね」

「読み書きと、礼儀作法って」

「二つの団に入る人間は基本的に裕福な人間……つまり貴族や豪商で、君は平民だ。礼儀がなっていないと苦労するぞ」

「えと、良く解らないです」

「まぁそんな縮こまらないでいい。人と話すときに相手を不快にさせない術を教えてもらう程度に考えればいい」

「そんなものですか」

「そんなものだ。要するに、今君が学ぶべき事は小さな村だけでなく、広い世界で通じる知識だ。その試練に耐える気はあるか?」

「あ、あります!守護魔道師団になれるなら、やります!」


 僕の熱の篭った声に、ジュナイさんは満足げに頷いた。

そして僕の両肩に手を載せると、はっきりとした口調で言ったんだ。


「では、帰ったらすぐにでもご両親に説明するように。君はもはや守護を担う二つの団どちらかに所属する他道は無い、という事をね」


 僕は守護魔道師団になれるのが嬉しくて、その時は気づかなかったけど。

後から考えれば、強力な守護獣を持つ人間が国に属さないなんていうのは、偉い人が皆恐れる事だって後から気づいた。

村長さんのペタンに対する警戒心は当然の事だったんだ。

500年前の国潰しの守護獣ギュラフォックス。

その脅威は、長い時を経ていまだに偉い人達の間に強すぎる守護獣への警戒心を抱かせる。

よくよく考えれば簡単に解るそんなことも、この時の僕には解らなくて。

村に戻ったら夜を徹してお父さん達を説得したんだ。

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