僕は山を見たことが無い、でも山みたいなものは見たようだ
村長さんに、ペタンの守護獣としての力を見せるように言われた僕は、家族の皆と一緒に村の外に出た。
草原側の門を出たらペタンに皆を乗せられる大きさになってもらって、少し驚いた様子になりながら村から離れるように指示してきた村長さんのいう事を聞く。
ペタンの静かな駆け足で村が何とか見える、って言うくらい離れたら村長さんがそろそろいいだろうって言うから、ペタンの脚を止めてもらって皆降りる。
その後、村長さんは僕に更に指示を出した。
「いいかユート。お前の守護獣が体格操作が出来るのはラガムから聞いている。そういう守護獣はどの程度大きく成れるかでその力を示す事ができる。できるか?」
「はい。じゃあちょっとペタン、お願いだから、僕達を踏み潰さないように大きく成れるところまで大きくなってくれないかな」
僕のお願いにペタンは尻尾を振ってくぉんと鳴くと、全身を跳ねさせるようにドッドッと鈍い音を立てながら僕達から離れる。
村長さんがむむ、っとちょっと唸る。
お父さんとお母さんは大きなペタンの上に乗れて大満足なミーナがはしゃいでペタンを追いかけないように留めている。
「なんでー、もっとペタンにのりたい!おとーさん、おかーさん!」
「今はちょっとペタンの近くは危なくなるからだーめ。ほら、お父さんが抱っこしてくれるわよ」
「よしよし、大人しくしていようなミーナ」
「うー、おにいちゃんペタンー」
「すぐ済むと思うからちょっと待っててねミーナ。……ん、始めてペタン」
そろそろいい?と問いかけられたイメージが浮かんだので、こちらからもイメージをはっきりと返す為に言葉を出す。
すると大きかった身体が小さく見える距離を取ったペタンが。
みるみる大きくなって……その内村長がすっとんきょうな声を上げ始めたよ。
「待て待て!?どこまで大きくなるんだ、あれは!?まだ大きくなるのか!?」
叫ぶような質問に、僕はちょっと困りながら答えた。
「いや、実は僕も今ペタンがどのくらい大きくなれるのか解らないんです。ペタンはまだまだいけるみたいです」
既にペタンの大きさは……ちょっと比べる物が思いつかない。
すごく大きいんだけど、僕はそれを正確にどれと比べてといえない。
山やお城は大きいらしいんだけど、それが実際どのくらい大きいのか解らないから、ペタンとどっちが大きいかって言えないんだ。
ただ、ペタンの前脚が村を潰せそうなサイズになった時には村長さんが我に返って僕に向かって叫んだ。
「もういい!解った!お前の守護獣の力はわかった!確かにあれだけの大きさなら領主様に王都行きの援助をしていただけると思う!だから早く戻せ!」
「え、でもペタンはまだ大きくなれそうですよ?」
「馬鹿もん!もう十分だといったろう!いや、確かに精々村の半分の大きさにでもなれば領主様の方から迎えが来ると思いながらみていたが……これは予想外だ」
「あの、この場合どうなるのかな」
「……あのサイズだ。きっと遠くの村や町にもペタンの姿は見えたろう。領主様の方から確認の守護騎兵が来るかもしれんが……こちらからも説明役を送った方がいいだろうな」
「合格、ですか?」
「合格を通り越して国王様の認可を受けなければ危なっかしくてペタンを連れて歩けなくなるかもしれん。心しておけ」
「え、えぇ!?なんか凄く話が大きくなってるよ村長さん!」
「馬鹿もん!でかくなっとるのはお前の守護獣だ!さっさと縮めんか!」
村長さんからの、合格なのか良く解らない怒鳴られ方をしながら僕はペタンに思念を送った。
僕達から離れた時のサイズに戻って帰ってきてってお願いすると、大きな影を落としていたペタンがするすると縮んでいった。
よくよく見ると、ペタンが戻ってきてもミーナはあんまりにも大きくなったペタンにどぎもをぬかれたのか。
ぽかーんと口と目を開けてペタンを見ている。
お父さんとお母さんもさすがにさっきのはインパクトがあったのか、心ここにあらずみたいだ。
まぁ、僕も正直ペタンに感じるつながりが無かったら腰が抜けてたかもしれない。
守護獣から感じる絶対の安心感。
それが僕を立たせていた。
あの後、村に戻った僕達はそれぞれ自分のやる事をしに戻ろうと……したんだけど、村は大騒ぎになってた。
皆が皆ペタンの大きさに驚いて村長に何があったのか聞いて。
村長がそれに、僕とペタンの力を試していただけだから何事もなく大丈夫だということを言い含めた後。
それから、村に領主様からの偵察の守護騎兵が来るかもしれないから心に留めて置くように、と言っていた。
村長の説明に、大人の人達はすぐに仕事に戻っていった。
すぐに解散しなかったのは僕ら子供達で、凄い凄いと騒ぎになって。
大きくなったペタンに乗ってみたい!と凄い勢いで僕を囲んできたんだ。
それも、村長がもしあの大きさの守護獣から落ちたら危ないからと即座に皆に禁止令をだした。
皆、ぶーぶーと文句は言っていたものの、いつも厳しい村長さんがいう事なので、僕に大きなペタンに乗せてという子はいなくなった。
まぁ、その分ほどよい大きさのペタンにへばりつかせてって言うお願いは増えたんだけどね。
ペタンの毛並みはよっぽどいいのか、年長のレシヌお姉ちゃんも頻繁にペタンに張り付いてうっとりしているのを見る。
確かに、夜一緒に寝るときは気持ちいいけど……皆がペタンを好きでいてくれて嬉しいなぁ。
そんなわけで、皆が寄りかかってお喋りできるサイズになったペタンの傍で、皆からなんでペタンを大きくしたのかとか。
色々と話していたらその内日も暮れて、夕飯を食べに家に帰る時間になって、家に帰ってご飯を食べて。
後は寝るだけだなぁとあくびをした所で家の扉を叩く音を居間で聞くことになった。
お父さんが扉のつっかえ棒を外す前に誰か聞くと、お客さんは村長さんだった。
そこでつっかえ棒を外してお父さんが用を聞くと、もう領主様のところから守護騎兵の人が来ているから僕とペタンに来て欲しいって。
もう空には月がのぼり星が広がる遅い時間だったけど、守護騎兵の人は領主様からの使いで、事態を早く知りたがっているからと、僕は出てくるように言われた。
そんなわけで家を出た僕に、今回は今朝と違ってお父さんだけが着いてきてくれた。
お母さんはミーナを見なきゃいけないし、そもそもミーナは夕飯を食べた後はもう眠い時間だから。
途中、村の広場に佇む満月の様な瞳が夜の暗さの中でも輝いている鳥型の守護獣を横目に見ながら、僕達は村長さんの家に入った。
「ただいま戻りました騎士様。こちらの少年が本日巨大な姿を顕した守護獣の主ユートと、その守護獣ペタン。さらにこちらがユートの父アダンでございます」
「ああ、そんな気を使わないでいいよ村長さん。俺は下っ端だし」
「ご冗談を。風切りジュナイ様といえば領主様も重用する騎士様ではないですか」
「重用、ね。便利な小間使いなだけだぜ。と、それはそうと。俺はジュナイ。よろしくな、アダンさんにユート君」
生地の厚そうな緑色の上下の服の上に簡単な胸当てと手足を護る鉄製の小手とブーツをつけた、人の良さそうなお兄さんがお父さんと僕に挨拶してくる。
お父さんは深く頭を下げながら挨拶をして、僕の頭も手で下げて挨拶しなさいと促してきた。
なんだか解らないけど、そういうものなんだろうなと思って僕も挨拶した。
「始めまして騎士様。ユートです」
「どうもユート君。君の後ろに着いてきてる守護獣の事も紹介してくれないかな」
僕の少し後ろ、ペタンがちょこんとお澄ましして座っている方に視線をやりながらジュナイさんが聞いてくる。
ペタンはなんだかツーンとしているような気がする。
目を瞑って尻尾を立てて、目を瞑って耳を伏せている。
人間なら、あーあー聞こえなーいって感じ、かな?
どうしたんだろうと思いながら僕はペタンをジュナイさんに紹介する。
「ジュナイさん。この子が僕の守護獣、ペタンです。ほらペタンもジュナイさんに挨拶して」
僕の言葉に、ペタンはちらっと片目を開けてちらっとジュナイさんを見ると。
仕方ないとばかりに尻尾を下げて一声くぉん、と答えた。
あれ?なんかジュナイさんが凄くニヤニヤしてる。
どういうことなんだろう?
そんな僕の疑問を他所に、この夜僕は夢への道筋を手に入れることになるのだった。




