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第11話

住所を元に辿り着いたのは、事務所でも工場でもなく大学の前だった。


「ここ………?」

もう一度スマホで住所を確認してみる。

間違いでは無さそうだ。

サイトの通りなら、サプリの運営元がこの大学の中にあるということになる。

ーーー



門の前には、大学名が刻まれた石碑があった。

見慣れない名前だが、少なくとも潰れた施設には見えない。人も普通に出入りしている。


ただ、違和感があった。

学生の雰囲気が、妙に静かだった。

騒がしいわけでもなく、かといって落ち着いているとも違う。

視線が合わない。誰も、こっちを見ない。


俺は構わず中に入った。


構内は広く、案内図が立っている。

学部や研究棟の名前が並ぶ中で、ひとつだけ見慣れない単語があった。


「神経現象研究棟」


思わず足を止める。

スマホの画面に表示された住所と照らし合わせる。

番地も建物番号も一致していた。


「……ここだろ」


歩き出す。

奥へ進むにつれて、人通りが減っていく。

さっきまでいた学生の姿も、いつの間にか消えていた。


研究棟は、キャンパスの端にあった。

新しい建物ではない。むしろ古い。

だが、手入れはされている。使われていない廃墟ではない。


入口の横に、小さなプレートがあった。


「神経現象干渉研究所(NPI)」


聞いたことはない。

だが、サイトの“暗い日曜日”のロゴと、妙に似ていた。


自動ドアの前に立つ。

反応しない。


一歩、近づく。

その瞬間、背後で声がした。


「サイトの方ですか?」


振り向くと、白衣の男が立っていた。

いつからそこにいたのか分からない。


「そのサイト、見たんでしょう」


男は俺のスマホを見ていた。

画面はロックしていたはずなのに。


「サプリを買いに来たんですよね」


否定する理由もない。

俺は、うなずいた。


男は少しだけ笑った。


「安心してください。ここで売っていますよ。」


男は振り向かずそのまま奥へ進んでいく。

意外にも普通の部屋だった。

頑丈なドアでもなかった。厳重な鍵もかかっていなかった。


「奥へどうぞ」

といいながら、男は奥にあるデスクの椅子に座った。

パイプ椅子を開き、座ってくださいと言った。


白衣の男は、ポケットから小さなケースを取り出した。

透明なカプセルが、整然と並んでいる。


「これが例のサプリです」


思っていたより、普通だった。

怪しさはない。むしろ拍子抜けするくらいだ。


「……本当にこれで夢に入れるんですか」


「“入る”という表現は正確ではないですね」

男は軽く首を振る。

「安定した状態で、同じ夢に留まれるようにするだけです」


よく分からない。

だが、引き返す気もなかった。


「いくらですか」


「一粒1000円です」


やっぱり高い。

俺が少し顔をしかめると、男は気にした様子もなく続けた。


「安い方ですよ」


「……は?」


思わず聞き返す。


「研究費、いくらかかると思います?」


男はケースを閉じながら、淡々と言う。


「この手の研究は、被験者管理、脳波測定、同期実験、全部込みで軽く数千万は飛びます。

 それも、成果が出る保証はない」


「……それとこれと、関係あります?」


「大ありです」


即答だった。


「普通の研究は、論文を書いて終わりです。

 でもこれは違う。使って初めて成立する研究なんですよ」


男は一歩だけ距離を詰める。


「データが必要なんです。現実じゃなくて、“夢の中の挙動”の」


嫌な言い方だった。


「じゃあ、これ……」


「ええ。販売でもあり、実験でもある」


さらっと言い切る。


「大学の予算だけじゃ足りませんしね。

 だから外に流してる。回収も、こっちでやってます」


「回収……?」


「ログですよ」


男は当然のように言った。


「どこで、どのくらい滞在して、何を見たか。

 個人差が大きすぎるんで、数を集めるしかない」


喉が少し乾く。


「……それ、同意とか」


「買う時点で同意してますよ」


笑っていないのに、笑っているような声だった。

ーーー


ふぅ………

久しぶりに煙を吐いた。

俺は、コンビニ裏で煙草を加えていた。

お金がないと煙草を買うのを控えていたがこんな高額だとどうでも良くなってきた。


それに、俺にとって煙草は精神安定剤のようなものだ。片手に持った紙袋は少し重い。


10個買ったので1万円か。



時間感覚はザックリだが、もう前回の夢から8時間以上は経ったのは明らか。今俺は死んでいない。



つまり一旦は安全な訳だ。


もう夢世界へ行かない方が良いのは分かってる。

そりゃ死んだら元も子もないからだ。

だが、そのための薬を買ってしまった。


あと1度くらいは行くべきではないか?

それに、夢世界に行かないにしても、少なくともアイツに挨拶してからだ。


俺は自分の家へ向かった。



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