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リーネの冒険~異世界の女の子と入れ替わった俺のTS娘生活~  作者: RCAS


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王都まであと少し

 あの赤髪の女性は、肩と腕だけで投げているわけじゃなかった。

 体をうまく使い、前へ押し出すように投げる――うまく言語化できないけど、そんなイメージだ。

 最後のリリースは、指先を使って回転を微調整しているようにも見えた。


「さて……どんなもんかな」


 再び『集中』を発動させ、さっき見た動きをなぞるようにゆっくりと構えた。

 肩と肘の力を抜き、軸はぶらさず、腰のひねりで前へ押し出す。

 最後の瞬間に、指先で軽く回転を乗せる――。


「……っ!」


 一本目のナイフが飛び、木の的の中心から、ほんの少しだけ外れた場所に突き立った。

 さっきより、明らかにいい。


「おお、やるじゃねえか」


 店主の声が耳に入るが、今の俺にはただのノイズだ。

 立て続けに二本目、三本目を投げる。


 どちらも中心は外したが、輪の内側にはきちんと刺さった。

 回転を制御して、刃先が立つ瞬間に的へぶつける――それが少しだけ分かってきた気がする。

 的当てと回転制御。それを同時にこなすのが、ナイフ投げの難しさか。


「……外れたか」


 最後のナイフも、しっとりと木に突き刺さった。

 だが、中央には届かず、ゲームとしては俺の負けだ。


 ――でも、こいつは使えるぞ。


 カウンターの前に戻り、射的屋のオヤジに声を掛ける。


「さっきの札に書いてあったけど、ナイフを買う場合は要相談なんだっけ?」

「おうさ。お嬢ちゃんは筋がいい。すぐに上達するだろうよ。何本ほしい?」


 あまり多く買っても無駄だ。所詮サブウエポンだし、持ち歩きにも限度がある。

 ベルトに下げるとして、両サイドに二本ずつ――四本でいい。


「四本欲しい」

「一本で小銀一枚だが、四本なら三枚にまけてやる。専用のベルトはどうだい? そっちは小銀一枚。全部で小銀四枚だな」

「物を見せて」

「ほら、これだ」


 オヤジが投げナイフとベルトを箱から取り出して見せてくる。

 ベルトにはナイフを収納する革製の鞘が下げられていて、取り外しができる作りだ。

 その一つを借りてナイフを抜き差ししてみると、動きはかなりスムーズだった。すぐ引き抜けるように、革の遊びがうまく取ってある。


 ベルト自体の品質もそこそこ良い。今使っているものから替えても問題なさそうだ。


「買うよ。はい、銀貨一枚でいいかな?」

「まいど! ここで身に着けていくかい?」

「そうさせてもらう」


 渡されたベルトを巻き、鞘にナイフを納める。

 うん――悪くない。


 射的ゲームも含めて、銀貨一枚と小銀二枚の出費だ。装備品として考えれば、高くはないが安くもない。

 ただ――投擲武器を持てば、戦術の幅は確実に広がる。今回の護衛では、人間を相手にするかもしれないからな。

 刃物を投げるだけでも牽制になるし、近接戦に入る前の崩しにも使えるはずだ。


「似合ってるじゃないか。いっぱしの冒険者に見えるぞ」

「これでもそこそこ稼いでる冒険者だよ私は。だからひょいっと銀貨を出せるわけだしね」

「そりゃそうだ!」


 軽口を交わし、店主に礼を言って店を離れた。

 腰には新しい重み。歩くたび、わずかにナイフの柄が揺れる。

 せっかく買ったんだ。ちゃんと練習して、使いこなせるようにならないとな。


 ただ、それはまた明日だ。

 空を見上げれば、夕焼けには早いが、色は少しだけ赤みを帯び始めている。

 町をぶらつける時間はもうあまりない。そろそろ宿に戻るべきだろう。


「さて、と……」


 明日からは、侯爵領にある魔獣の森の際すれすれを進むことになる。

 投げナイフの練習が終わる前に盗賊と遭遇、なんて展開は勘弁してほしいが――そうも言っていられない。

 全ては魔獣や盗賊の気分次第――そんなことを考えながら、指定された宿へと足を向けた。




 宿に入ってからの流れは、昨夜と大差なかった。

 用意された夕食を黙々とかき込み、軽く体を拭いて、それぞれベッドに潜り込む。

 昨日ほどの消耗はないが、明日の移動はそこそこ長いと聞かされている。夜更かしする理由もない。


「せっかく投げナイフを買っても、練習もなしに明日が本番になるかもしれないってのもなぁ……」


 灯りを落とす前、向かいのベッドからハルトがぼやく。

 買って来たナイフに一番興味を持ったのはハルトだった。

 武器を見て興奮できるのは、男の特権と言ってもいいだろう。


「それは仕方ないよ。使える手が増えたってだけで良しとしなきゃ」

「それもそうだな。でも、リーネが遠距離攻撃をできるようになれば、パーティーとしてはかなり強化されるってのも確かだ。リゼもそう思うよな?」

「ええ。現状では私とリーネの役割が被っていますからね。剣士としては私より数段劣る……それなら、別の役割を増やすほうが理にかなっています」


 辛辣だが、その通りだ。

 四人パーティーで役割が被るのは、あまり良くない。

 俺の精神操作については秘密だから、デバフ要員だと明かすわけにもいかないし。


「そのためにも練習が必要ってことでしょ? 早起きして朝に練習でもしたら?」


 エステルの提案はもっともだ。

 付け焼き刃でも、やらないよりはマシだろう。


「そうだね。今日はこれで終わり。明かりを消すよ」


 そう言ってランプを吹き消し、瞼を閉じる。

 眠気は薄い。だから、精神操作を使って無理やり意識を沈める。

 ついでだ――部屋全体に掛けておこう。睡眠導入剤代わりだ。


 そうしたら――部屋の空気が、確かに変わった。

 人に対して精神操作を使うのは、制限を課してきた。人の心を意のままにできるなんて、あまりにも都合が良すぎて自分の成長を阻害するからだ。

 あとは最低限の倫理という面もある。


 でも――こういう使い方なら、別にいいかもしれないな……。

 




 翌朝。

 ぐっすり眠れて目覚めも抜群! 空き時間を作って宿の裏手で軽くナイフ投げの練習をする。

 そして朝食を終えた後、『三輪亭』の時と同じようにテーブルの上に地図が広げられ、レオンが話し出した。


「今日の山場はここだ」


 指さされた先には、青く塗られた細い線――川が描かれている。

 そのすぐ脇を街道が並走し、北側に濃い緑で大きな森が塗られていた。

 街道は森と川に挟まれる形になっている。


「グリーフェンヴァルト侯爵領の中でも、特に大きな魔獣の森の一つだ。川と森が最も近づくあたりで、街道が森の際すれすれになる」


 川と森の線がほとんど重なって見える地点を、レオンが軽く叩く。


「ここが難所ってわけだね」


 俺の言葉に、レオンが頷く。


「魔獣が出てくるかもしれないし、盗賊が出てくるかもしれない。両方の目撃情報があるからな。どちらにも警戒しなければならん」

「護衛の方法は? 今までと同じでいいんだよね?」

「ああ。ただ、危険なのは森側だけだ。斥候はフィン一人で十分だろう」


 話すことは多くない。

 前回の隘路より単純だ。フィンが声を上げたら駆けつける――ただそれだけ。

 そうして朝のブリーフィングは終わり、俺たちはそれぞれ持ち場へ散っていった。




 グレンツを出てしばらくは、昨日と変わらぬ平原が続いた。

 だが、昼前に小さな丘を越えたあたりから、風景に水の気配が混じり始める。

 街道の脇に現れた川は、思ったよりも幅があり、静かに流れていた。


 ――森から敵が襲いかかってきたら、川を背にした背水の陣ってわけか。そりゃ難所にもなるよな。


 さらに進むと、今度は北側の森がじわじわと近づいてくる。

 ここからが本番だ。前回と同じように、フィンが森の中へ消えていく。

 今回はリゼは隊商の側に残り、一緒に行軍を続けた。


 緊張に張りつめた時間が過ぎていく。

 馬の蹄の音と車輪のきしみ、荷台の軋む音ばかりが耳につく。

 けれど――どれだけ歩いても、森の中から合図は上がらない。


 結局、何も起きないまま、難所を抜けることになった。


「……ふぅ」


 誰のものとも知れない溜息が、隊列のあちこちから漏れた。

 木々の壁が後ろへ遠ざかり、視界がぐっと開ける。ここから先は、緩やかな起伏が続く平野だ。

 その丘をいくつか越えた先に、次の宿場町の柵が小さく見え始める。


 そこから先は、街道もよく整備されていた。

 森の影も薄れ、盗賊や魔獣の噂も聞こえない。

 以後の道程は、警戒こそ怠らないものの、大きな波乱もなく進んでいった。


 何度も宿場町を抜け、いくつかの夜を越えて。

 太陽が頂上付近に位置する時間帯――俺たちは小高い丘の上に立っていた。


「あれが、王都アルトハインです」


 リゼが指さす先。

 地平線の少し手前に、低い霞のような輪郭が見える。

 

 ――王都アルトハイン。街道護衛の目的地。

 

 でも、それだけじゃない。あの都市には俺が求めているものがあるかもしれない。

 俺がリーネとなってしまったその元凶……空想魔術読本。

 その手掛かりが見つかるのか? それは、行ってみないと分からない。

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