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リーネの冒険~異世界の女の子と入れ替わった俺のTS娘生活~  作者: RCAS


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街道護衛依頼

 街道護衛の話を持ち帰ったその夜、俺たちは三羽雀亭のパーティー部屋で向かい合っていた。

 

「改めて街道護衛依頼について確認します。隊商の王都までの往復を護衛する。期間は大体三週間。生活費は全部隊商持ち、護衛の報酬は日当で冒険者一人につき小銀二枚」


 リゼがメモを読み上げる。

 俺とリゼは事前に聞いて納得しているが、ハルトたちはどうだ?


「森の討伐の報酬は、四人で分けても毎回銀貨一枚以上になってるよな? それから見れば随分と少ない」

「そうよね。毎日討伐依頼を受けるわけじゃないけど、それでも少額よね」


 数字だけ見れば、兄妹の疑問はもっともだ。


「はっきり言おうか。ただ金を稼ぐだけなら、討伐依頼を受けるほうがいい。生活費を隊商が持ってくれるとしてもね」

「てことは、理由があるんだよな? 聞かせてくれ」


 ハルトが真っ直ぐこちらを見る。エステルも黙って頷いた。


「簡単に言えば、伝手ができる。ずっとグレインフォールに籠っていても先が知れるからね。ただまあ、先のことを考えて上を目指すってのは、今の私たちにはまだ早い気もする。……でも、機会があるなら挑戦したい。詳しいことはリゼから説明して」

「はい。これは『街道の守護剣』から誘われた依頼なのですが、その依頼主が――王都商業組合所属の隊商頭、ロブ・ヘルマンです」

「王都の商人ギルドの人か……それにヘルマンって?」


 ハルトの問いは聞き覚えのある名前だからだろう。

 実際それは、無関係じゃなかった。


「レーベン村の村番のヘルマン殿を覚えているかな? あの方の甥っ子らしい」

「……本当か?」

「本当だよ。ヘルマン殿経由で『鍛鉄の剣鉈』の名が、そのロブさんに伝わっているらしくてね。だからレオンさんが私たちに声を掛けてきたってわけ」

「農村巡りをした意味があったってわけね。これが冒険者には名声が必要って理由かぁ」


 エステルがしみじみと言う。

 ゲームでよくある『名声』ってパラメータ――あれが現実でもちゃんと仕事している、ってわけだ。


「伝手ができるってのはそういうこと。この街道護衛を成功させれば、今度は商人に対して私たちの名が売れる。そうなれば王都や他の街道の情報も商人の伝手から流れてくるようになる。中位パーティーを目指すだけならグレインフォールに籠るのもありだけど、それ以上を目指すなら、信用稼ぎは避けて通れないからね」


 森で獲物を狩っているだけでは、その先がない。

 グレインフォールのそこそこ強いパーティーで終わるか、それ以上に手を伸ばすか。

 その境目になる依頼だ。


「リーネは野心的な言い方をしますが、正直に言えば……『鍛鉄の剣鉈』はまだ上を目指す段階にはありません」


 リゼが静かに釘を刺す。


「ですが――グレインフォールの外に目を向ける時期であるというのは確かです。本気で上を目指すにしても、しないにしても、仕事の幅を広げるという選択そのものに間違いはないでしょう」

「なるほど」


 ハルトが腕を組み、エステルも真面目な顔で頷く。

 大枠の認識は、これで揃った。


「私としては当然受けたいと思っているよ。王都ってのも気になるしね」


 個人的な事情もある。

 グレインフォールの本屋ではとうとう見つからなかった『空想魔術読本』。

 その手掛かりを求めるなら、王都に出る意味は大きい。


「最後に確認。私とリゼは受けるべきだと思っているけど、ハルトとエステルはどうかな? リゼの言う通り、上を見る時期ではないからね。勇み足ってのは否定できないよ」


 まだグレイマウルの単独討伐も達成していない。

 そちらを優先する、という判断も十分あり得る。

 ……が、どうやらこのパーティーは揃って積極的な性格らしい。


「俺は賛成だ。街道護衛の話はレオンさんから聞いているからな。森で狩りを続けるのも嫌いじゃないけど、もうちょい視野を広げたい」

「私も賛成。教会では下働き程度のことしかやっていないとはいえ、私も聖職者のはしくれ。もっと色々な町に行って、その教会と交流する。見聞を広げるには持って来いだからね」


 ハルトとエステルの同意も取れた。

 となれば、あとは決定を言葉にするだけだ。

 リゼに視線を送ると、彼女はこくりと頷いた。


「『鍛鉄の剣鉈』は、街道護衛の依頼を受けます。出発は明後日の朝。『街道の守護剣』の下に付く形で隊商に同行する――これでいいですね?」


 全員が頷く。これで決まりだ。

 もし戦うことになったら、相手は盗賊――人間と戦うってことだ。

 本当に、人間と戦えるのか? 不安はあるけど、それはその時にならないと分からない。


 ――分からないからこそ、やってみる価値があるってもんだろう。


 そう思いながら、俺たちは準備と確認を続けた。



 

 隊商出発の日。

 空がまだ薄暗い時間帯に、俺たちは城門前へ向かった。


「ふあぁ……」


 エステルが欠伸をかみ殺し、ハルトは肩に槍を担いで大きく伸びをする。

 リゼはいつも通りの鉄面皮で、俺もそこまで緊張があるわけでなく自然体。


 門の前には、荷馬車が六台ほど並んでいる。

 布をかぶせた荷台、鈍い目をした馬。その脇には樽や麻袋、木箱が規則正しく積まれていた。

 人だかりの向こうで、『街道の守護剣』のレオンたちの姿も見える。


 俺たちに気づいたレオンが、手を振った。


「来たな! こっちこい。依頼主との打ち合わせだ」


 近づくと、口髭をたくわえた中年の男――隊商頭のロブ・ヘルマンが待っていた。


「『鍛鉄の剣鉈』だね。レオンたちだけでなく、ギルドからも話は聞いている。王都まで頼むよ」

「任せてください。魔獣との戦いで慣らした腕前を、存分に振るってみせます! ……と、勇みたいところですが、対人戦闘の経験はありません。その際には『街道の守護剣』の指示に従います」


 ロブは誰にでもにこやかに話すタイプに見えるが、親族に騎士がいる商人だ。

 余計な見栄を張るより、今の実力を素直に言っておいた方がいい。


「ふむ……自負はあるが、経験に裏打ちされた自信はない。故に先達に頼るところは、しっかり頼ると来たか。レオン。なかなかいい子たちじゃないか」

「そりゃあ、俺たちが認めた奴らだ。そこらの駆けだしや成り上がりとはわけが違いますぜ」

「働きを見ないことには信頼はできぬ――が、信用はできそうだ。伯父貴の話が確かなら、すぐにその信頼も勝ち得そうではある」


 顔は笑っているのに、目の奥は油断なく光っている。

 ああ、そういうタイプの人ね……でも、そっちの方が依頼主としては好ましいか?


「護衛の方法については、レオンたち『街道の守護剣』に一任する。だが、この隊商はそこらのものとは違い、腕自慢の商人が多数いてね。前衛は自分たちで守る。冒険者は中段と後ろを頼みたい。三台目と最後尾周辺の様子を見ていてくれりゃいい。あとは宿場町優先で野営は極力避ける。……質問は?」

「荷の中身は? 物々しい護衛が必要な理由を、まだ聞いていません」


 俺の問いに、ロブは指を折って答えた。


「穀物、塩、布、酒。あと王都向けの注文品がちょっとな。どれもが盗賊が喜びそうな代物だ」

「それはまた……護衛が必要なわけですね」

「だろ? 特にグレインフォール産の岩塩は人気が高い。盗賊団の規模や取引ルート次第では、巨額の富を生むピンク色の粉だ。狙わない手はないだろうな」


 魔獣の肉の粥を、なんとか食える物にまでしてくれる魔法の粉――グレインフォールの岩塩。

 日本で手に入ったピンク色の岩塩より、明らかに旨い。異世界だから成分が違うのかもな。

 それがこの街の特産であり、盗賊にとっても垂涎の的だ。


「それは守らねばなりませんね。失ったら大損だ」

「その通り。失敗したら君たちの報酬も消え失せる。頑張ってもらいたいところだな」


 ロブはそう言って、再び隊商の面々に指示を飛ばし始める。

 ここから先は、レオンとの打ち合わせだ。


「さて、じゃあ護衛について詰めていくぞ。俺たち『街道の守護剣』は――」


 護衛パーティーは二つ。

 レオン率いる『街道の守護剣』と、俺たち『鍛鉄の剣鉈』。

 基本方針は、斥候を出して早期に敵を発見し、そもそも襲撃させないこと。


 森の討伐でも斥候役だったフィンは、対人斥候も得意だという。その目と足を最大限に使う。

 俺たちは当面、『街道の守護剣』の下についてレオンの指示に従う。まずは正しい動き方を身体で覚えろ、というわけだ。

 それだけ期待されている。ここでヘマはできない。


 やがて、城門がゆっくりと開いた。

 軋む音と共に、外の光が細い筋になって差し込んでくる。


「通って良し!」


 門番の怒鳴り声が響き、荷馬車が順番に動き出した。

 中段には『街道の守護剣』。最後尾を、俺たち『鍛鉄の剣鉈』が挟むように歩く。

 森の討伐と違って、殿に全戦力を置く必要はない。


 盗賊は全てを奪うために護衛を皆殺しにするわけじゃない。手の届くところをさらって、さっさと消えることもある。

 だから最後尾の馬車には、全体から見れば価値の低い荷が多く、それでいて盗賊が手を出すには十分な価値の品も混ぜてあるらしい。

 トカゲのしっぽ切りと言えばそれまでだが、これが隊商の生き残り方なのかもな。


「さて、行きますか」


 進み始めた最後尾の馬車に歩調を合わせる。

 後ろを振り返れば、槍を握り直したハルトと、杖を持つエステル。そのさらに後ろで、リゼが殿を抑えている。

 城壁を抜けた瞬間、空気が変わった。


 街の匂いが背後へ遠ざかり、土の匂いと、まだ冷たい風が真正面からぶつかってくる。

 一本道に伸びる街道。踏み締められた土と、その両側に広がる草地。

 開けた地形。どこからでも襲えるし、どこへでも逃げられる場所。

 さて、この街道護衛任務。うまくこなすことができるかな?

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