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長屋

臭い物にはふたをしろというなら、オレは今日の記憶に蓋をしたい。


臭くはなかったけど、鰹節の様子を見るために朝一番で箪笥を開き、そこに何があるかを理解した瞬間オレの全身に鳥肌が立ったよ。

あろう事か箪笥の中はカビがみっちり詰まってやんの(はぁと)。


納豆節の方はと言うと、箱の中から鉄を叩くような音がしていた。試しにノックをしてみたら中からノックが返ってきた。


―中でいったい何がおきている。


しかも箪笥は海の家ごと健がイベントリに入れてしまった。

けど、あのサイズが収まるってどんだけ入るんだ、チートて正にコレの事じゃね?


誰かオレにもちーとばかし役に立つチートを下さい。そして影丞酵素は加減と言う物を学ぼう、切実に。



雅美ちゃんを拾って丁度十日になりますか。オレ(影丞)は今を大将の宿屋の食堂で長屋を借りる為の交渉をしていた健が肩を落としてテーブルに戻ってきた。


「長屋も部屋も空きがないんだって……ほら、部屋のカギ」


それでも、泊まれる部屋は空いてたらしいがテンション低いな。


「わかってると思うけど醤油と味噌がしばらく食えねーんだ」


そう言って憮然として頬杖をつく健。


誤解されがちな憮然という表現は、残念なとか失望している様であって、むすっとして怒っている表現では無いと知っているだろか。

何かに失望し諦めている無気力な誰かさんが隣に居るんだよ。だけどしばらくの間そっとしといてやろう。


「そんな理由で…」


雅美ちゃんも醤油がないだけでそんなにテンション下がるとは思わなかったらしくビックリしている。

異世界に来た日から醤油に飢えてたんだ、そんくらい多めに見てやって欲しい。しかし、雅美ちゃんの中で評価の下降線はどれだけ鋭角に下がっているのだろうか。


一度グラフにしてみてくれないか?


長家の方なら小さな竈もあるし気が向いたら料理も出来るけど、宿屋の部屋じゃ料理なんて出来ないからね。

長家を借りれるようになるまでしばらくは封印だ。

だいたい日本料理は出汁とかの香りが強いから匂いでわかるんだよね。味を広めようだなんて思ってないから街の中じゃ使うつもりなんかなかったから気がつかなかったよ。


「それに、あれどうしよう」


あれ?あれとはあれかね。


「うきゅきゅきゅきゅW」


「これ…」



、おまっ、人がいないからってピチピチさせんなよ。


恒例になりつつある姿で抱えられた幼女は、両手とヒレを必死にバタつかせおぶおぶしている。

街中でとれたてのブリみたいに抱えてる。

誰かに見られたらどうする気だ?


「きゅーい」


おぶおぶしながから健の腕からすぽーん抜け出した幼女が、そのまま空間へ潜り込んだ。どうやら自力でインベントリに戻ったらしい。


リリース失敗。あ~、でも“ひさびさの我が家(?)だ~”なんて思いながら健に運ばれてんだけど、借りてる人がいるんじゃ仕方ないね。

「空いてないなら、それでいいから部屋に行こうよ」


抱えられて来ただけだけど部屋で足延ばして座りたいんよ。


「そうですね、場所はどこですか?」

「影ちゃんがいつも泊まる二階の突き当たりの部屋だけど、部屋もベッドが二つあるし二人一緒でいいか?」


「ん、真ちゃんと健は?」


「ない」


…………は?


マジマジと見ていたら憮然と言うより沈鬱と言ったほうが正しそうな表情に変わる。


「…後で海の家に帰る。」


いやいやいやいや帰るじゃないでしょ、護衛(?)がいなくなってどうすんの。


「そうか。」


健が妙案を思いついたらしくパァッと明るい表情になった。


「いっそ、朝まで飲んだくれていれば…」


いや、“ここで泊まれる”とかね?酒場ならまだしもココ食堂だから!そんな無茶しないでリーダー。

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