男(健)の戦い
誤字脱字など一部修正しました。
「すぴー」
「…寝ちゃってるね」
いつの間にか影丞が壁に寄りかかったまま眠っている。
その寝顔は限りなく穏やかで雅美ちゃん同様警戒心などみあたらない。
影丞はまだしもあちらで寝ている雅美ちゃんはどうして彼処まで無防備になれるのか、真一に至っては昼間のうちに“無害認定”までされてしまったという、信頼なのかそれとも手当たり次第に手を出していたというクラスメイト達が酷すぎたのか、なんとも複雑な気持ちらしい。
「この時間じゃ仕方ないか」
壁際で竈から離れたた場所とは言えかなり熱が伝わってくる。出来るだけ高温になるように竈の中には良質の炭を大量に投入してある。
白磁やガラス質に出来るとは思えないが弥生時代の土器程度の強度さえあれば何回かどんぶりを楽しめるはず。
さらにこちらはウナギを食べる文化がないので取り放題だし毎日うな丼も可能だ。
うなぎはお重が必要だが、ウナギはないから機会があればまた用意すればいい。
「けど、こんな所(世界)で醤油を口に出来るとは思わなかったな」
「雅美ちゃんがレシピ知っててくれてマジ天使にみえたよ。
しかも、影ちゃんに任せたら一晩で出来てたからね」
もう、少し余韻を楽しみたかったとも真一が言う。
確かに、毎日毎月ゆっくりと熟成の過程を仲間で楽しみ感動を分かち合いたくもあったが、それらの過程をすっ飛ばしてる成長促進とかの効果が高い影ちゃんが周囲に与える影響力の半端なさに驚くどころかもう呆れるしかなかった。
しかし、醤油がある限りおれ達の絆は神鋼ですら引き裂く事はできないだろう。
醤油がなくて残念な気分になった経験のある納豆などの壁もクリアしたようなものだ。
「でも、炭で作った醤油擬きと本物は全然別物だったね」
「…苦労して探したんだけどなぁ」
世界に来て以来日本と同じ味を求めていた影丞へ、お礼の意味を込めたプレゼントのつもりだったのだが、こうなると二度と日の目を見ることはなさそうだ。
「後は出汁なんだが…」
「イワシなら干してるから炒り粉節くらいなら出来るよ」
「カツオ捕りてえけど浜にゃいないしな」
「シイラとブリらしき魚はあるけどカツオは食べないらしいから出回ってないね」
カツオはそもそも傷みやすい。朝漁に出て日中に戻るような漁しかしてないこのあたりでは港に戻る頃にはカツオなどは食べられない状態になるらしく出回る事すらない。さらに近海にいる魚の種類が違うからカツオ自体になかなかお目にかかる事が出来ないらしい。
「いっそ、漁師ギルドに依頼してみようか」
「あまり気が進まないけど、泳いでつきん棒してたんじゃ流石に無茶だよな」
削り節にするなら多少状態が悪くても引き取るくらいしてみてもいいかもしれない。
魚ならなんでも出汁を取れるのだから鯛出汁とかも試しもらおう。あさりにシジミの味噌汁もいいよな。
「冬にお雑煮もできるし」
「出汁がないと不味いからな」
だけど、ダシが決め手の日本食に鰹はどうしても必要になりそうだ。
影ちゃんならなんとかしてくれそうだが、港町辺りに出張するのもやむを得ないかもしれない。
日帰りでもなんとかなるが、醤油と味噌の誘惑に勝てそうもない。
…明後日以降だな。
料理を担当する影ちゃんには悪いけれど影ちゃんも嫌だとは言わないと思うし、冒険者としての仕事は忘れて食べまってやろう。
「お雑煮味噌汁、…その器」
真一の小さな呟きが部屋の中に響いた。
そうか、小皿や小鉢はあるが肝心の器《お椀》がない
お椀は本来は木製品だ。木材なら丸太のストックがあるし、だむならそこらの森から拾ってきてもいい。そうだ、オレたちなら彫るにも時間そうかからないはずだ。
「ここまできたらやるしかない…か」
真一が不適に笑う。
「ああ、それ(彫る)以外に道はない。使えそうな木材あるか?」
「桧とかより樫とかかな?」
「なんの木がお椀いいんだろうな?」
お互いイベントリの中を探し始める。
「先に、影ちゃんを向こうにつれてこうか、雅美ちゃんと一緒の所にいてくれれば安心だし」
真一が軽々と影ちゃんを抱えていくが、横抱きでもなく小さな子供みたいに後ろからお腹をに抱えていく辺りが影ちゃんの扱いが分かり易い。
…いや、よく見たら抱えてBACK-ON的なアレの体勢に見えなくもない。下心が全くないしても、もう少し影ちゃんの純潔を大事にしてやれ。(爆)
「竈は、ほっといてもその内なんとかなるだろ」
ポイポイ適当に炭を投げ入れて、大事な味噌と醤油がダメにならないようにイベントリに収容する。
「彫りながら漆の代わりになりそうなもんも探さないとならないんじゃ」
「乾かす時間ないし黒くなるまで焼き色つけてみるか、茶色いお椀は昔からあるんだしな」
「いいね、古民家の梁の如く燻してやろう」
男たちの戦いはこうしてさらなる加速をしてゆく。
夜明けはすぐそこに迫っている




