あれー?
「やっときたわね?」
開けっ放しだった宿屋の入口をくぐり抜けるとハニーブラウンの髪を肩口できりそろえた妙齢のお姉様マリアンさんがカウンターでお待ちなさっておられていた。
なんだろう、なんかあったっけ?とりあえず言える事は一つだけ。
「クマの肉ありがとうございます」
煮込み時間があるから夕飯になるらしいけど、ぺこりと頭を下げてお礼を言う。
「いや、エースケそれなんだがよ…」
大将がクマの内臓は呼び出しついでにあげるつもりだったのだと苦笑いしている。
そうですか…なんとまぁ、それじゃオレは約束をすっぽかしたと言うことなのか?
呼び出したマリアンさんがなぜか買い物行っちゃってるし、皮を剥がれ内臓なくなって空になったクマが見えてて気持ち悪くて解体終わるまで絶対宿はいりたくなかったから許してください。
「とりあえずごめんなさい」
キュルリとマリアンさんに向き直り再びぺこりと頭を下げる。うん、悪いことしたと思ったら頭を下げる。
これ基本。
「くぅ、頭を下げられば許されるだなんて大間違いよ。」
怒ってます?いや、確かにプンスカとしてはいるみたいですがさほど怒ってはいないみたいです。
「帰ってきたみたいだから、新しいお菓子の作り方教えてあげようと思ったのに。」
わぁお、それじゃあご飯食べた後で教えて貰いたいです。ぜひお願いします。
あれ?でも健から聞いた後すぐいったんだけどあの時にはすでに買い物に…。
「クマを見ていたらなんだかハチミツを使いたくなってしまったのよ。」
手提げ袋から蜂蜜入りの瓶を取り出してみせてくれる。
何の蜜かはわからないけど深い金色のハチミツだった。
「ハチミツ入りのクッキーとか一緒に作ろうとおもってたのに。」
うわ、それはほんとにごめんなさい。
深々~と頭を下げゆく。
「どうかご教授お願いします」
売り物は高くてたまらんので、おいしいお菓子作りを教えていただきたいのです。
「もう仕方ないわね。教えてあげるから、食べ終わったら二階で着替えましょうねー?」
マリアンさんが若干ウキウキした口調でいうのだけれど、着替えさせてもらわなくてもいいと思います。
「若干このままで…」
「料理やお菓子を作るのに半袖じゃダメ。女の子が可愛いらしい姿で作らないと美味しいお菓子は作れないものよ?」
いや、ワンピースでなく着流しとかみたいな和服を羽織って作業衣にしてるんだけど確かに汚れていない訳でも無きにしも非ずだけど、可愛くしても味に影響は出ないと思いませんか?
「…わかりました、食べたら着替えてきます。」
ワイン染めにしてみたらピンク色で使うのに勇気がいる割烹着があるから恥を忍んでそれ着てくればいいよね?
「どうせなら着せてみたい服がいくつ“も”あるのよ」
―“も”っ!?
マリアンさんがウキウキしてるんですが、やっぱり着替える必要ないんじゃないかと思いません?