ふて寝の朝にございます修正版
なんだかんだ夜中まで真ちゃんをなだめていたが、真ちゃんのやる気は日本の景気を下回る勢いで仕方がないのでそのまま一晩放置したのが悪かった。
翌朝、居眠りから目覚めたらハンモックの上に人間サイズの芋虫が揺られていた。
モスラスと言う最大五メートルになるキャタビラー(芋虫)の中身をくり貫いて作られたという二メートル位の長さの寝袋だ。
みた目通りに虫の皮でしかないのだが、クマや魔狼の爪や牙ならばしばらく防いでくれる優れた防御力。
厚く柔らかい素材として知られ、硬さで弾くような盾や鎧には向かないが、職人が薄く精製した物が鉄鎧の裏地や関節部分などにも使われている。
運良く傷つけないで一匹丸ごと仕留めたソロの冒険者は、コレをテントのかわりにして眠ると聞いた二人が人数分を仕留めてくれた逸品だ。
モスラスは成長しても、芋虫のままなので見た目が芋虫にしか見えない幌をつけた馬車なんかも存在する。
さて、芋虫はいいとして真一が閉じこもってしまっていたんだけど、懐かしいもん使ってんなーとしか思わなかったオレは“薄情者”なんでしょうかね?
経緯からしたら、普通の反応だと思われませんか?
―大人げない
◇
「さて健さんや、ご飯が終わったらお話ししたい事があります」
「ん?いきなりどうした。」
朝からいつものように皮鎧を着て食事をする健に、オレはどうしても言わなくてはならない事があります。
「あんまり時間ないから食べながらでいいよ。」
健は自分で粥をよそいながら先を促す。
時間がないといっているその通りに、空が白み始めもうすぐ地平線から太陽が顔をだす。
今日は、いつもよりちょっと時間が遅めだから、健の焦りようも理解できないでもない。
雨や曇りの日を除いて、太陽が見える日は、日の出が集合の合図にしているから、今から二人でゆっくりと相談をしている時間がないのは確かだから、食べる手を止めずに健に話を聞いてもらうことにする。
「うん…、真ちゃんが芋になったままだよね?」
「芋…動かないから確かに虫じゃないな」
リヤカーにつないだハンモックの前に寝袋にしていた巨大な芋虫の皮。それに籠もったままの真一を指差したままオレは言葉を続ける。
「今日は、真ちゃんに留守を任せて「却下」レが一緒に行こうかと思うん「却下」ど「却下、大事な事なんでもう一度。却下だ。」
「はうぁぅっ」
“今日は真ちゃんに留守を任せて俺が一緒に行こうかと思うんだけど”と言ったんだけど、やはりというか健はオレが討伐に参加するのは望まないらしい。
でも、健はそんなに過保護ではありません。
「だけど、真ちゃんがアレでオレが行かないとなると、健は魔の森を一人で歩く訳でしょ?」
「あ、ソッチの心配か」
「うん、サポ必要になならないかなと」
草原ならまだしも、冒険者が恐れベテランでさえ万全を期して踏み入るのが魔の森だよ?
酒場でも魔の森にソロで入る人間は、余程腕に自信あって実力がある人間か、実力もなく金に困って一攫千金を狙うただの馬鹿(自殺志願者)のどちらかだって言ってるくらいだし。
言い方は悪いけど、確かに頭が回る人は絶対に近寄らないし、ましてや足を踏み入れる事はないんだし、間違いじゃないし冒険者が酒場でその話をするときはふざけていても目が笑ってない。
それだけ危険な場所として認識されている所に、今日は真一抜きで行くんじゃないかって事だよね。
はっきり言って健なら全然問題ない。オレでさえ一般的な収納量有限のアイテムボックスがあるし、健と真一はゲームで言うインベントリだとかストレージ的な物が制限なしの無限収納サイズだもの。
どんな大きさでも収納できるから、魔物を倒した後解体しないまま何匹でも収納出来てしまうはず。
一般的なアイテムボックスは百キロ入るかどうか。
魔狼なら一匹あたり60~80キロで一匹入るのがやっと。
それ以上の個体は人力で運ぶしかないから、アイテムボックス持ちが稼ごうと思ったら解体して売り物だけ持ち帰るしかない訳だ。
初めから大物を狩る頭で狩りに行くときはアイテムボックス持ちが沢山ついてくらしい。
なのにソロでそれ以上を軽々しく収納なんかして(しないだろうけど、健だと途中で面倒くさくなってやりかねないし)そんな事が誰かに見られたりしたら絶対目立っちゃうからこその“冒険禁止”“ついでにないだろうけどソロ狩り禁止”て言ってたじゃん?
「ああ、そりゃ普段からソロだったらさらに目立つんだろうけどさ、普段から二人なのも、周りからは多分似たようなもんじゃないかな。
この辺りだとコンビとかトリオくらいのグループも結構あるし相方がケガしてソロっぽい感じになってる人もいるから大丈夫じゃないか?」
でも、それらがチーム組んで動いているって話なんだからその辺りの事情を察して?
「それに、このあたりなら、オレ一人で全然問題ないからなぁ」
「…そりゃそうだろうけど、そんな心配はしてないから困るのさ」
強さに関してだけなら一人で最深部に挑んで無傷で帰ってこれるのだろうとは思う。
それでも、冒険者のマナーとして洞窟や森に入る際には、ロープみたいな必要な物を持って一人以上で挑むのが鉄則でしょ?
穴に落ちた時に、もう一人が無事ならロープを垂らして助けてもらったり、街や他の冒険者などの第三者に助けを呼びに行かせるなりできるもの。
二人で落ちたとしても一人で落ちた時よりも助かる確率は高いとかなんとか。
穴が深すぎたら転落死か諦めろだったかな。
だから、腕があっても人数が一人以上出ないと入ろうとはしないようにと言うのがギルドが口を酸っぱくして注意している訳だ。
慣習みたいなもので、ベテランほど人数を増やす傾向が高くて、人知れず“行方不明”になるのはまだ日が浅い“新人”が多いらしいよ。
因みに、登録が新人と言う意味でないらしく、腕に覚えのある流れの冒険者も知らない土地で依頼を受ければそうなる事もあると言う、勿論人を集めても運が悪ければそうなる事はある。
この世界に万全はあっても完全はないって事だね。
人数だけで生き延びられるなら増やした方が無難だよ。
さて、“そう”でなくてはならないのだが、それでもオレを森に入れたがらない理由にも見当がついている。
「だいたい、そんな事言って影ちゃんを森の中に連れて行ったりしたら、みんな(・・・)して(・・)花を咲かせちゃうから(・・・・・・・)自然の営みがおかしくなっちゃうのではないのかね?」
健はそう言ってタライの中に茶碗と箸を入れて立ち上がる。
…そうなんだよね。森では何故にか花を咲かせ狂い咲き、草花を掻き分け逃げ惑う魔物達は、オレらの中では最早風物詩(?)になっている。
草原だっても着ているローブを脱げば狂い咲くのだろうさ。
―原因は不明。
オレがアイテムボックスと呼ぶ収納先は、どうやらオレの髪の毛らしき物が関係しているようだから、其処に起因する何かがオレや周囲に影響を起こしているらしい。
「…ダメかな?」
「可愛らしく上目づかいしてもダメなものはダメ。」
もともと健がほうが上背があるから普段から自然と健を見上げる形になるので常に上目づかいになってしまう。
だが、オレ自身が狙った訳ではないのでそれは不可抗力で言いがかりと言うものだよ。
―たまに、狙って可愛らしい仕草をする事もある。
もちろん、その場合は冗談を交えてやるから、オレはオカマやネカマと言う奴ではないと思われる。
むしろお鍋かオレ女。その気になればワタシと一般的な女性に類する言葉を使えなくもないが、仲間内でそんな事をする気はないし外でだってする気はない。
仮面の時のオレに至っては年齢不祥の怪しい法師。
大丈夫木ノ下影丞はまだまだ“オレ”を貫いて生きていける気がするよ。
「じゃあ、今日は休もうよ」
「いや、今日はどっか足りないグループに入れてもらうから問題ないよ」
食べ終わった健はそう言いながら立ち上がる。
「これから先の事を考えたら、並みの人の狩りを見てらしさを学ぶのも結構必要だろうし、行ってくるよ」
ぐうの音もでないとはこの事か、ステータスが強くて狩りからケンカから危険がないからオレたちはいつまでも素人のままなんだよな。
「…と言うのは建て前で、真ちゃんの事はお前に任せたっ!」
「おいコラまてや健っ!!」
聞き捨てならない言葉を言い残し健が本当に走り去る。
リーダーのくせに逃げよった、本気でスネてる真ちゃんの機嫌をオレ一人でどうしろとっ!?
本気と書いてマジと読む。
ちくしょうっ!マジでおぼえてやがれっ!!
◇
数時間後、昨日小さなグループから、頼まれた“留守番少女”影法師様がテントに眠りに来なくて、気になったスリガゼルの女性は、もし法師様が寝ているようならそのまま入り口付近を見張ろうと思いながらテントを訪れた。
しかし、テントの前に食器は出しっぱなし。
心配ではあったが、スリガゼルのメンバーはもし寝ているようならそのまま入り口付近を見張ってあげようかと思いながらそっと中を覗きこんだ。
そして、みてしまった。いままさに少女を飲み込もうとしているモスラスが入口に這いよらんと蠢いている予想外の事態に、たまらず悲鳴を上げた。
聞きつけた騎士達がすぐさま応援に駆けつけて、中身“達”は年上の冒険者の集団により天の岩戸から引きずり出され、説教をたくさんされました…まる
ちなみに、オレもオバチャン達におこられました。
―悪気はなくても悪趣味過ぎると。
普通は芋虫の皮を加工もせずにさのまま使う事は有り得ないそうです。




