富山 蛍(2)
「…何しに来たんですか?」
軽い仏頂面を見せる、富山蛍。
「何しにって、遊びに来たんだよ!!」
対してにっこにこな岡山桃子。
「私、岡山さんと遊ぶ気なんて無いんですけど」
「そぉ? アタシは蛍と遊ぶ気満々だよ!」
「…帰ってくれませんか?」
「え? これから遊ぶのに何で?」
「だから私はあなたと遊ぶ気なんて…」
「よぉし! じゃあまずは悪のアジトの制圧ごっこからかな!」
「……」
会話のキャッチボールを試みて、グローブを着けている蛍に対して、桃子は何故かテニスラケットを持っている。
「……はぁ」
会話の濁流に思わず溜息を吐く蛍。
会話のキャッチボール…いや、会話の総合格闘技って所か。
そんな感じの噛み合わなさを感じている俺。
先程富山家のインターホンを押したら蛍ママが出てきて。
本来ならプリントを渡して終わり、だが今回の目的はもう1つあって。
現在進行形で不登校(気味)を決め込んでいる蛍を、学校へ登校させるべくの説得だ。
故に蛍ママには
「蛍を救い出すべく、ヒーローとして推参した次第です!」
と、桃子のヒーローゴリ押し会話術を使い、こうして蛍の部屋へと上げてもらったのだ。
「さあ蛍! きびだんごあげるから一緒に鬼退治へ行こうッ!」
「…鬼退治って何ですか」
「鬼退治、それはっ…え、えーっと…」
「……」
「えーっと…そ、そう! 鬼退治! 鬼だよ鬼!」
「だからその鬼って何ですか、鬼退治ってどこ行くんですか、きびだんごだけって何ですか」
「あっ、えーっと…」
「…はぁ。岡山さんって相変わらずノリと勢いだけで生きてる感がありますよね。もうちょっと理性と知性を身に付けた方が良いかと」
蛍のストレートな速球。
「理性? 理性ならあるよ! お腹空いても1時間は我慢出来る!」
しかし桃子はひるまなかった。
「……」
蛍の眼光は険しかった。
…本題からのズレっぷりが南海トラフの断層並みになってきたのを感じてきたので、
「…なぁ蛍」
不毛な会話のキャッチボールに終止符を打つべく、俺動く。
「…何?」
若干冷めてる瞳な蛍。
「…もう学校には米合先輩はいない。だからさ、学校…来いよ」
「……」
米合長職。
去年まで学園にいた先輩。
何度も言うが、蛍は今現在進行形で不登校気味な生活を送っている。
風邪や病弱なワケでもない。学園に馴染めていないワケでもない。イジメがあるワケでもない。
そう、イジメがあるワケでもない…今現在は。
去年…蛍はその米合先輩にストーカー染みたイジメを受けた事があり、幾分現場が学園だった故に、学園に行くとトラウマで嫌な意味でドキドキしてしまう、との事。
本来なら今年3年として在学予定だった米合先輩は、蛍イジメの件が発覚し、学園や親からの指導、そして裏では彼の同級生である高知先輩からの制裁もあり、昨月転校して行ったのだ。
「もうアイツはいない。大丈夫だから、学校来いよ蛍」
蛍の負った傷の大きさは計り知れない。
けど、みんな待ってるのだ。学園で。
「…でも」
そっと視線を伏せ、部屋の隅のベッドに腰掛け、動かなくなる蛍。
「私…」
その声も、心なしか小さく…
「…大丈夫だよ蛍! また何かあったら、アタシが正義のヒーローとして悪を成敗しちゃうから!」
ふと。
今までヒーローだ正義だと叫んでいた桃子が、ベッドの座る蛍の前へ。
桃子も事情は知っている。
だからか、ちょっと真面目になってる。
「…来いよ蛍。伊吹も宙も、新ちゃんも秋田さんもみんな待ってるぜ」
「アタシもね!」
晴天のような笑みを見せる桃子。
割とクールな富山蛍。
その天敵…というが、間逆な性格をしている岡山桃子。
蛍相手の切り札と言ったのはこの事。
何に悩む数々の少年少女も、桃子の晴天のようなさっぱりした笑顔を見ると、悩みなんかどっかいってしまうのだ。
「…お、岡山さ…んんっ。ほ、本太郎がそう言うなら」
そっと、視線をこちらに上げる蛍。
「…分かった。ちょっと考えてみる」
「…そうか」
その言葉を蛍の口から聞けただけで、目的は達成出来たようなものだ。
明日はクラスの全席がきっと埋まる。
隣の桃子はにこにこだった。




