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ダーククリムゾン  作者: amo
ダーククリムゾン
9/16

魔造生命体

今回はだらだらと説明ばかりです。もう少し短くしたかったんですが、何分文才がなくて‥

 水夜の言葉で華田姉妹が言葉を失っている中、大護はあくまでもマイペースだった。


「で?今更迎えに来てどうしようってんだ?カトレア姫が失踪したのは、もう二十年も前だって聞いた事があるんだけどよ?」


「貴様が知る必要はない。カトレア様を誑かし、人間界に連れ出した元凶が‥!」


 敵意を露わにするルイスと大護の間に、水夜が割って入る。


「違う!大護と、この男と一緒にいたのは私の意志だ!人間界に来たのは、魔界での捜査網から逃げる為で、人間界に来た時にこの男の居候として暮らしてただけだ!」


 水夜はルイスを何とか説得しようとするが、ルイスは未だに刀を納めない。


 水夜の声で通行人も、刀を持ったルイスに気付き、野次馬を除いた人々は、巻き込まれないように遠巻きに通り過ぎていく。


「カトレア様。貴方には為さねばならない事がある。それを承知の上で、まだここに留まるというのなら、私は容赦致しません。」


 ルイスは脅しではないというように、魔力を刀に纏わせ、いつでも戦闘を開始できるように構える。だが、大護はそんなルイスを見ても、まだ呑気に構えていた。


「おいおい、いくらなんでもそりゃ横暴だろ?こっちは四年以上もお宅の姫を居候させてやってたんだぜ?お礼を言われこそすれ、恨まれるのはお門違いだ。」


 大護の呑気な態度にルイスは歯ぎしりするが、水夜の手前もあってか、大人しく刀を鞘に納める。


「‥‥確かに貴様の言う通りだ。行く当てもないカトレア様に衣食住を与えてもらっておいて、何の礼もないのは失礼に値する。済まなかった。」


 頭では納得しているものの、やはり心では割り切れないのだろう。ルイスの表情は苦々しげなものだった。


「だが、カトレア様が見つかった以上、どんな手を使ってでも魔界へと連れ帰らせてもらうぞ。」


「なっ!?私は魔界へは戻らん!このまま大護と‥」


「カトレア様。今回、私は少々手荒な手を使ってでも連れ帰って来いと命を受けています。抵抗するのであれば、御覚悟してください。」


「くっ‥‥」


 三人のやり取りを前に、ずっと口を閉ざしていた沙織は、やっと口を開く。


「みぃちゃん、魔界に帰っちゃうの?ま、また会えるよね‥?これでお別れじゃ‥」


 沙織の言葉に、水夜は辛そうに顔を背ける。そんな水夜を挟んだルイスが、冷たい目で沙織を見る。


「今まで魔界を空けておられたのだ。もう人間界へ来る事はない。」


 冷酷なルイスの言葉に、香織と沙織は顔を俯かせるが、大護は特に顔色を変えなかった。


「そうか。じゃあ、お別れだな、水夜。いや、カトレア姫か?」


「だ、大護‥‥貴様は‥なんとも思わないのか?」


「そうですよ!二人を見ていた時間は少ないですが、それでも二人がどれだけ強い絆で結ばれてるかぐらいは分かります!それなのにそんなあっさり‥!」


 珍しく声を荒げる香織だったが、それでも大護の表情に変化はない。ただ淡々と、機械的に言葉を返していく。


「強い絆?本当の名前を知ったのだって、ついさっきだぜ?」


「そ、それは‥‥」


「それに、何も隠し事してたのは水夜だけじゃねえんだ。」


 大護は口元を吊り上げると、不意に右手を右目に触れる。何をしているのか分からずに、ただ見ている四人の前で、大護は目からある物と取り出す。


「なっ!?大護‥‥そ、れは‥」


 大護が取り出したのは、緑色のカラーコンタクトだった。そして、そのコンタクトの後から出てきたのは、魔族特有の紅い瞳だった。


「俺は人間じゃねえ。人間と魔族のハーフだ。」


 両目の色の違う大護を見て、水夜と華田姉妹は言葉を失う。そんな三人の反応を見て、大護は呆れたように鼻で笑う。


「おかしいとは思わなかったのか?人間である筈の俺にしちゃ、魔力量が多過ぎだって。」


「た、確かに多いと思っていたが‥‥じゃあ、何故隠していたんだ?」


 大護の突然の告白に、驚きを隠せない水夜は、動揺して震える声を絞り出す。だが、そんな彼女の言葉を聞いて、大護は眉間に皺を刻む。


「何故、だって?お前は知らねえのか?魔族が人間を見下してる事を。彼岸の門をフリークゲートなんて呼んでるのがいい証拠だぜ。」


 その言葉を聞いて、水夜は顔を伏せる。


 大護の言う通り、魔族は魔力の少ない人間を見下す風潮があった。近代では人間界から科学技術を提供してもらっている為、表立った差別はなくなっているが、まだ魔族の多くは人間を見下している。


「俺の父親が魔族で、母親が人間だった。生まれは魔界だったんだけどよ、小さな頃はよく虐められたもんだぜ。下等な人間の血を引く半魔ってな。」


 自嘲気味に笑う大護に、誰も言葉を返せない。


 多くの魔族が人間を見下しているせいで、魔族と人間のハーフの数は少ない。だが、数少ないハーフには、差別のなくならない魔界では暮らし辛い。


 魔界の王も何とかそれをなくそうとしたが、それが出来たのは表面上だけで、親の言動や態度を敏感に感じ取った子供は、未だにハーフの子供を虐めている。


 そして、大護もそんな子供の一人だった。


「さっきは否定したが、俺が魔族を嫌ってるってのは間違ってねえ。」


「じゃあ、どうしてみぃちゃんの事を居候させたの?魔族が嫌いだったら、そんなことしない筈だよ!」


 沙織は大護の言葉が信じられず、言葉強めにそう問うが、大護はそれを聞いて顔を歪める。


「そんなの決まってんだろ?水夜に利用価値がありそうだったからだ。確かに甘い所は欠点だったが、それに目を瞑れるほどに魔力量が多かった。そんだけだ。」


 水夜でさえ見た事もない顔で笑っている大護に、沙織は言葉を失ってしまう。


 だが、水夜はその言葉を信じなかった。いや、信じたくなかった。


「嘘だ!じゃあ、何で力を見せる前の私に優しくしてくれたんだ!?それに、本当に魔族が嫌いなら、お前は犯罪者になってたはずだ!」


 水夜の言葉に大護は一瞬言葉に詰まるが、すぐにまた顔に笑みを張り付ける。


「お前に出会った時に言っただろ?金に困らず、ある程度安全に暮らしたかっただけだ。追われるのは苦手でな。」


 笑ってそう言う大護に、今まで黙っていた香織は近寄ると、大きく手を振りかぶった。そして、乾いた音とともに、大護の顔が横に触れる。


「大護さん、最低です‥!」


 僅かに涙ぐんだ目で大護を見上げる香織を見ても、大護は表情を変えない。叩かれても、ただ薄い笑みを浮かべるだけだ。


 これ以上何も語ろうとしない大護を見て、ルイスは話が終わったと判断し、水夜を連れて行こうと彼女の腕を取る。だが、水夜はそれを振り払う。


「わ、私は魔界へは帰らん!せっかく友人が出来たのに!せっかく‥‥人を守れる強さを手に入れたのに‥!」


 水夜はルイスから距離を置き、強い決意で自分を連れ戻そうとするルイスを睨む。


 だが、こんな状況を予測していたのか、ルイスは顔色一つ変えず、再び刀を鞘から抜き放つ。


「カトレア様。貴方に抵抗されることは想定しておりました。故に、この刀の刃は潰してあります。」


「‥っ!」


 ルイスの言葉に、水夜は大きく目を見開き、華田姉妹を不安げな目で見る。


「言葉の意味がお分かりいただけますか?この刀は、貴方以外を殺す事が出来るのです。」


 ルイスの言葉の意味が分からずに、困惑している華田姉妹だったが、水夜はそれを聞いて力なく項垂れる。それが抵抗を止める意だと理解したルイスは、刀を納める。


「では、参りましょうか。」


 ルイスは水夜の背中を押し、歩く事を促したが、その前に大護が立ち塞がる。


「おいおい。今まで我儘な姫様を世話してやったのに、俺には何の礼もないのか?」


 ルイスは明らかに敵意の込められた視線を大護に向けるが、それが正論だと判断し、仕方なく立ち止まる。


「何が欲しい?金か?それとも名誉か?出来るものであれば、何でもくれてやる。」


「そうだな。それもいいが、いくつか質問に答えてもらおうか。」


 大護は思案するように顎に手を突き、思いついたように顔を上げる。


「まず一つ、二十年も前に失踪した筈の水夜が、何でこんなに幼い容姿をしているのか。次に、魔造生命体とは何か。こんくらいは答えてくれよ。」


 ルイスは水夜の表情を伺うように彼女を見ると、水夜は顔を俯かせて頷く。


「いいだろう。この話を手切れ金だと思え。」


 大護が頷くのを見て、ルイスは仕方なく説明する事にした。

 表だって話が出来ないというルイスの提案で、大護達は請負所に戻ってきた。


「さてと‥‥ここなら他人に聞かれる事もねえし、そろそろ話してくれ。」


 大護の言葉に、ルイスは嫌々ながら頷いて見せる。


「事の始まりは、四十五年前に遡る。」


 こうして、ルイスの説明が始まった。







 今から四十五年前、水夜のもととなった人物、カトレア=ジューンが誕生した。この時、まだ魔界での医療が発展していなかったせいで、カトレアの母親は出産の負担で亡くなる。


 そのため、王室の血筋を引くのはカトレアだけとなったが、カトレアは生まれつき病弱だった。王は魔界でも選りすぐりの医師を呼び出し、片っ端から手を尽くさせたが、それも報われず十歳でカトレアは亡くなった。


 王室の血筋が途絶えて、新たな妻を娶るか、養子を取る事を迫られた王だったが、この時、人間界で研究が進んでいた技術に目を付けた。その技術がクローン技術だ。カトレアの死を隠し、カトレアのクローン体を作る事に思い至ったのだ。


 倫理的に反する、人体のクローンを研究するため、王は城の地下に研究者を集め、そこで研究をさせた。


 クローンを作る事自体は、早い段階で成功した。だが、ここで一つの問題が生まれた。魔族にとってかけがえのない魔力が、クローン体には備わっていなかったのだ。


 魔力を持たない魔族は、生命活動を行う事が出来ない。つまり、自力で生きられないのである。


 そのため、カトレアの細胞に他の魔族の細胞を混ぜる事にした。これで、魔力を持ったクローン体を作る事に成功した。


 だが、また新たな問題が発生した。クローン体に授けられた魔力は、所詮は他人の魔力であり、本人の意思で操るのが困難だったのだ。そのせいで、クローン体は魔力を常に放出し続け、すぐに魔力の枯渇、死亡に至るのだ。


 その欠点をなくすため、魔界でも魔力量が多い者の細胞を大量にクローン体の細胞と融合させ、魔力を自然放出しても、しばらく生き続けられるクローン体が作られた。


 これを生かし続ける為に、今度は魔力を外に逃がさない研究が進められた。この研究で発明されたのが、防魔法コーティングだ。


 クローン体の表面に防魔法コーティングを施す事によって、魔力の放出を抑える事に成功したのだが、ここでも問題が発生した。魔力量が多過ぎる事による副作用が現れたのだ。


 魔力を多く持って生れてしまった人間は、体に障害が現れる。それまで、その現象は人間だけだと考えられてきたが、その現象がクローン体に現れたのだ。


 ある個体は視覚を失い、ある個体は呼吸器を患い、ある個体はそのまま命を失った。


 この研究結果から、ある程度魔力は外に出さなくてはいけないという事が分かり、またその解決方法を探し始めた。


 この時に脚光を浴びたのが、人間界と魔界とで共同に研究が進められていた、彼岸の(フリークゲート)の次元の歪の安定化だった。


 いくつかの案の中に、歪曲玉という魔具を使うという案があった。だが、この魔具は一回の使用での魔力消費が多過ぎるという欠点から、なかなか実現しなかったのだ。


 研究者は、そこに目を付けた。普段は防魔法コーティングで魔力の放出をある程度防ぎ、体に負担を及ぼす一歩手前に、歪曲玉に魔力を込めるのはどうだろうかと考えたのだ。


 そして、それは上手くいった。両掌以外に防魔法コーティングを施して掌から魔力を放出できるようにし、そこから歪曲玉に魔力を込める事で、普段の魔力放出を抑え、魔力量の増大による障害も避ける事が出来た。


 こうして、カトレアからの死後十年、遂に魔造生命体No.32834、水原水夜が生まれたのだった。


 だが、完成したとされていた水夜にさえ、ある欠点があった。年老いる事がなかったのだ。


 魔族は人間とは違い、生命活動も魔力で行い、その生命活動による魔力消費によって老化する。つまり、体の内部で魔力消費する事によって、魔族は老化していくのだ。


だが、他人の魔力で生命活動をしている水夜の場合、それによる老化が起きないのである。


 その欠点が発覚したのは、水夜が作られてからしばらくしてからだった。発見が遅れたのは、ある条件下でのみ老化したからだ。


 その条件というのが、魔法を使うというものだ。


 他人の魔力を宿す水夜は、その膨大な魔力が暴走しないように、作られた当初は魔力のコントロールの仕方を覚えるため、魔法を多用していた。そのため、その期間は何の問題もなく体は成長していた。


 だが、魔力のコントロールを覚え、歪曲玉に魔力を込める以外に魔法を使わなくなってから、体の成長が止まった事で、ようやくこの欠点が浮き彫りになったのだ。


 そして、またその欠点を修繕するべく研究が始まった矢先、水夜が失踪したのである。失踪した当初は魔界全土で捜索が行われたが、何年も見つかる事はなかった。


 それでも探し続けていた王だったが、しばらくしてある時問題に気付く。もし水夜が見つかった時、何年経った今でも、失踪した当時のままの見た目の水夜を見て、不審がる者がいるのではないのか。


 倫理に反して造られたクローン体である水夜の事が知られれば、水夜を利用とする者が現れるかもしれない。


 水夜の事が発覚する事を恐れた王は、王室近辺の高位な者による捜索以外を取り止めた。その為、大々的な捜索を行く事が出来ず、人間界に行方をくらませた水夜の発見が遅れたのだ。







 ルイスの説明が終わると、請負所を沈黙が包み込んだ。

 説明を終えたルイスは、話は終わりだと立ち上がり、水夜も素直にそれに続いて部屋を出て行こうとする。だが、それを遮るように沙織が立ち塞がった。


「そこをどけ。説明は以上だ。貴様も知っているだろう?彼岸の(フリークゲート)が不安定なのは。歪曲玉に十分な魔力が供給されていないからだ。カトレア様には、王室の後を継ぐ以外にも、歪曲玉に魔力を込めるという義務がある。その為にも、早急に魔界へと帰ってもらう。」


 ルイスは進路を塞いでいる沙織を睨みつけるが、彼女はそんな鋭い眼光に怯まず、そこをどこうとしない。そんな沙織を見て、ルイスは刀の柄に手を掛けるが、水夜がその手を掴む。


「ま、待て!沙織に手を出す気か!?それは私が許さんぞ!」


「‥‥‥承知しました。カトレア様の友人に出過ぎた真似をして申し訳ありません。」


 大人しく引き下がったルイスだが、まだ柄から手を離していない。それでも、沙織がそこからどく事はなかった。


 水夜は彼女に身の危険が及ばないように説得しようとするが、それよりも早く沙織が口を開く。


「何でみぃちゃんは魔界を出てきたの?」


「‥!そ、それは‥‥」


 沙織の問い掛けに、水夜は言葉を詰まらせる。


「さっきの話は難しくて、あんまり分からなかったけど‥‥みぃちゃんは嫌な事があったから魔界から逃げてきたんだよね?それはもう大丈夫なの?」


「そうですよ、水夜さん。それに、魔界の人々の間では、水夜さんは四十五歳という事になっているんですよね?でも、見た目が幼いままの水夜さんは、きっとカトレア様として受け入れられない。どうやって魔界の人々を説得するんですか?」


 華田姉妹の問いに答えられない水夜は、口を閉ざして俯く。


「人間が魔界の問題に首を突っ込むような事はしない方がいい。」


 人間である香織と沙織が、魔界の姫である水夜を困らせているのが我慢ならなかったのか、ついにルイスは刀を抜き、魔力を放出する。


「『サンダ―ソード』。」


 魔力が電撃に変換され、ルイスの刀に纏わりつく。突然の事に驚いている水夜は、ルイスが刀を振るのを止められなかった。


 ルイスが刀を横に薙いだのと同時に、部屋の中心に赤い飛沫が上がった。


「おいおい、あんまり俺の仕事場汚すなよ‥!」


「貴様、邪魔する気か?」


 ルイスの刀は、大護の手甲に防がれていた。刀の切っ先は、僅かに大護の肩に喰い込んでいるが、大きな外傷はそれだけで、香織と沙織は無傷だった。


「ルイス!すぐに刀をしまえ!」


「‥‥‥‥」


 ルイスは黙って水夜に従うが、その顔はまだ納得していない事をありありと示していた。請負所を緊迫した空気が張り詰めるが、それでも香織は言葉を止めなかった。


「王室後継というのは建前で、本当は歪曲玉への魔力供給と、研究の為に水夜さんが必要なだけじゃないんですか?」


 僅かだがルイスの瞳が揺らいだが、それはすぐに元の真っ直ぐなそれに戻る。


「貴様らが知る必要はない。」


 ルイスから警戒と言わんばかりの魔力が放出されるが、そこへ大護が割って入った。


「これ以上ここで暴れんなよ。それに‥‥」


 大護はルイスから華田姉妹に視線を移し、冷たい目でこう告げる。


「魔界の姫がどうなろうと、俺達の知ったこっちゃねえだろ?」


「‥‥‥え?」


「‥‥だ、いちゃん‥?」


 初めて、二人の目に揺らぎが見える。依然冷えた目をしながら、大護は言葉を続ける。


「そもそも、そいつを居候させてやったのは、利用できそうだったからだ。でも、実際居候させてみたら、甘い事ばかり抜かしやがる上に、我儘ばっかりだ。これ以上居候させても、俺に利益はねえ。」


 色違いの目を水夜に向けた大護は、冷酷に言葉を紡ぐ。


「だから、魔界に帰れよ。カトレア。」


 その名で呼ばれた水夜は、これまで耐えてきた涙が頬を伝うのを感じた。


「俺は魔族も泣き虫も嫌いなんだよ。さっさと失せやがれ。」


「あっ!?みぃちゃん!」


 止めの言葉の後、水夜は何も言わずに部屋を飛び出していった。沙織もそれを追おうとしたが、その手をルイスに掴まれる。


「人間がこれ以上カトレア様に関わるな。」


 そう言い残すと、ルイスも部屋を出ていく。


 部屋に嫌な沈黙が流れる中、大護はいつものパソコンの前に座ると、立ち尽くしている華田姉妹に声を掛ける。


「お前らももう来なくていいぞ。あいつがいねえのに、ここに来る意味なんてねえ‥っ!?」


 大護の声が不意に途切れ、乾いた音が部屋に響く。振り抜いた手を胸に抱きながら、沙織は目の端に涙を浮かべている。


「大ちゃん、最低だよ!あんな言い方しなくても‥!」


「じゃあ、どうすりゃ気が済むんだ?今から追いかけて、あの野郎を殺して、あいつを連れてこれば満足か?」


「っ!もういいっ!!」


 香織が部屋を飛び出していくと、少しの間迷ったような顔をした香織も、それに続いて出て行った。


 静かになった部屋で一人、大護はただキーボードを操るのだった。水夜と出会う前のように。

長かった説明ついでの補足。秀治と戦った時、水夜は攻撃を避けた、みたいな描写をしていましたが、実は一度も避けてません。掌以外に防魔法コーティングされている水夜には魔法が効かないので、攻撃が当たっていないと秀治が勘違いしただけです。運動神経の良くない水夜には、秀治の魔法を避けるようなアクロバティックは無理です。

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