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祖父の遺品整理をしていたら封印AIが起動したので、地球中の異星遺産を回収して成り上がる  作者: パラレル・ゲーマー
序編

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第4話 三神編集長と、当たりバッテリーの噂

 バッテリー再生業者としての俺は、順調だった。


 順調、という言葉が生ぬるく感じるくらいには。


 海鳴りの倉庫――いや、あの異星文明の秘密基地の前室を簡易工房として使い始めてから、作業効率は目に見えて上がった。温度も湿度も安定しているし、誰にも見られない。セル・チューナーを使うたびに余計な神経を使わなくて済むだけで、精神的な負担が全然違う。


 相原から始まった口コミは、思ったより速く広がった。


 撮影業者。フリーのカメラマン。ドローン空撮を請け負う個人事業主。配信機材を扱う映像屋。そういう連中は、機材の持ち時間に対して驚くほど正直だ。予備電源が一つ減るだけで荷物が軽くなる。発熱が減れば現場での不安も減る。そういう小さな違いに金を払う。


 しかも俺が売っているのは、あくまで“高耐久再生品”だ。


 新品革命製品じゃない。

 大企業の次世代バッテリーでもない。

 ちょっと腕のいい再生業者が、運よく妙な当たりを連発している――外からはその程度にしか見えない。


 それが、今の俺にはちょうど良かった。


「……笑えないな」


 海鳴りの倉庫の作業台に肘をつき、俺はスマホ画面を眺めた。注文メッセージが並んでいる。見積もり依頼、再生相談、互換品の持ち込み可否。数だけならライター仕事のメールよりよほど景気がいい。


 月末の収支予測をざっくり計算してみたら、先月の原稿料の合計をすでに超えていた。


「俺、本業フリーライターだったんだけどな」


【現在の主要収益源は再生バッテリー業です】


「言い切るなよ。心の準備があるだろ」


【数字は心情を考慮しません】


「うるさい」


 だが、数字が正しいことは分かっている。


 このままいけば生活はかなり楽になる。もっと仕入れができる。基地用の予備電源も増やせる。いずれは人の目を気にせず機材を運ぶための小型車両だって欲しい。金はいくらあっても困らない。


 けれど、海鳴りの倉庫の前室を見回すたびに思うのだ。


 今の俺に足りないのは、金だけじゃない。


 作業台。保管ラック。閉じたままの奥の扉。

 起動率一七パーセントの秘密基地。

 宗玄の残した断片的な記録。

 まだ眠っている深層区画。


 あの場所を手に入れてしまった以上、俺はもう単純に“ちょっと儲かる再生屋”では終われない。


「情報が足りないんだよな……」


【同意します】


「金は作れるようになった。でも次の遺産の場所も、祖父が何を見ていたのかも、全然分からない」


【宗玄の記録だけでは不足しています】


「だろうな。じゃあ掘るしかない」


 金を稼ぐ。

 電力を貯める。

 基地を育てる。


 その全部に必要なのが情報だ。


 異星文明テクノロジーが世の中に表立って出ていないなら、その痕跡はどこへ沈むのか。


 学会か? 違う。

 役所か? 断片はあっても深くは潜れない。

 企業内部か? まだ俺には手が届かない。


 だったら――都市伝説。怪談。オカルト。スピリチュアル。


 まともな研究対象として扱われないものほど、世の中の隙間に本物が混ざる。


 そういう汚い情報の海を漁るのは、むしろライターの本分だった。


「なあ、イヴ」


【はい】


「高位の技術ってやつは、地球側から見たら何に見える」


【観測者の知識水準に依存します】


「雑な言い方で頼む」


【奇跡、呪い、霊現象、神託、陰謀、未確認飛行物体。そうした分類へ落ちやすいでしょう】


「オカルト全部盛りじゃねえか……」


【未開文明側の自然な反応です】


 未開文明。言われるたびに軽く傷つくが、反論できないのが悔しい。


 俺はスマホを手に取り、何人かの知り合いに連絡を入れた。

 雑誌編集、フリーライター、ネット媒体の古株。

 その中で一人、意外なほど早く返信してきた人間がいた。


『ムー編集部の三神さんなら面白がるかも』

『港湾の異音とか、機材異常とか、そういう地味な怪談に妙に詳しいよ』


 ムー。


 オカルト雑誌の代名詞みたいな名前だ。

 さすがにいきなりそこへ行くのはどうなんだ、という理性は一応あった。あったが、今の俺に必要なのは“どうなんだ”ではなく“何があるか”だった。


「よし、行くか」


【妥当です】


「お前、本当にムー方面に偏見ないな」


【情報媒体として評価しています】


「それはそれで嫌だな……」


     ◇


 ムー編集部は、想像よりずっと普通のビルの中にあった。


 もっとこう、入口に謎のシンボルが飾ってあったり、水晶玉が置いてあったり、古代文明のレプリカでも転がっていたりするのかと思っていたが、実際はごく一般的な出版社の一角だった。


 いや、一般的、というには中が少しおかしかったかもしれない。


 編集部の一角にはバックナンバーが山積みになり、壁にはUFO写真や古地図のコピーや未確認生物のイラストが貼られている。けれど机の上は思いのほか整理されていて、資料箱には日付もテーマも綺麗に貼られていた。


 カオスと秩序が雑に同居している。


 案内されて通された打ち合わせスペースで待っていると、軽い足取りで男が入ってきた。


「久世さん?」


 柔らかい笑顔。

 年齢不詳の快活さ。

 けれど目だけは、面白い話を嗅ぎ分ける編集者のそれだった。


「三神です。いやあ、港湾の異音と機材異常から入りたいって、だいぶ渋いところ突いてきますね」


 差し出された名刺を受け取りながら、俺は少し拍子抜けしていた。


 もっと怪しい人が来るかと思ったのだ。

 いや、十分に怪しい空気はある。あるのだが、与太話で煙に巻くタイプではない。むしろ、何を聞けばいいかこちらに問うてくる類の人間だ。


「UFOとか古代文明より、そっちの方が気になってて」


「でしょうね。普通のオカルト好きはまず“でかい話”から入るんですよ。宇宙人とか神の遺産とか。倉庫の鳴り方なんて地味すぎて人気がない」


 三神編集長は楽しそうに笑った。


「でも、地味な話の方がたまに当たりがある。霊能者の証言より、録音機が拾ったノイズの方が面白い。方位磁石が狂った、電池が妙に減る、機械だけが反応する――そういうやつは、僕は好きですね」


 その言い方に、少しだけ背筋が伸びる。


 この人は、少なくとも“話の分からない人”ではない。


 俺は仕事用の顔を作って言った。


「今、都市伝説と現代機材の関係みたいなテーマを掘ってまして。オカルト扱いされてる現象の中に、実は機械的な一貫性があるものがないか知りたいんです」


「いいですねえ」


 三神編集長は椅子に座るなり、テーブルの上に資料箱を三つ置いた。


「雑にまとめると、こういうのです」


 箱の中から出てきたのは、読者投稿のコピー、地元紙の小記事、ネット掲示板のログ、手書き地図、録音データの波形を印刷した紙だった。


「港湾倉庫街でだけ聞こえる低い異音」

「特定の場所でだけドローンや測量機器が変な挙動をする報告」

「誰も出入りしてないはずの建物で、搬入記録だけ残るケース」

「立入禁止施設の周辺で、録音したら人の声みたいなものが入っていた話」


 一つ一つは、記事のネタにもなりにくい程度の断片だ。

 警察が動くほどでもなく、学者が相手にするほどでもない。

 でも確かに、どれも“地味に嫌な感じ”がある。


「スピリチュアルの人はこれを“土地の霊”とか“場の記憶”って呼ぶんですけどね」


 三神編集長は紙をめくりながら肩をすくめた。


「僕は、機械が変な動きをする現象とセットになってるやつだけは、一応ファイルを分けてるんです。オカルトっぽい話って、派手な目撃談ほど脚色されやすい。でも計測機器のログは、盛りにくい」


「なるほど……」


 心の中では、なるほどどころではなかった。


 海鳴りの倉庫。

 相原のドローンログ。

 祖父のメモ。

 それらと似た匂いのする紙が、ここには何枚もある。


「この港湾異音のケース、かなり多いですね」


「多いですよ。特に古い倉庫街とか軍港跡とか。昔から何かある場所って、今の人間が勝手に忘れてるだけで、記録だけは残ってるんです」


 三神編集長はそう言って、別の封筒を取り出した。


「面白いのは、こういうの」


 中から出てきたのは、かなり古いコピーだった。紙の端が黄ばんでいる。投稿なのか、メモなのか、判別しにくい。

 そこに書かれていたのは妙な文章だった。


『種を起こしてから行け』

『通常電源では沈黙』

『潮位の高い夜』


 心臓が、はっきりと跳ねた。


 祖父のノートにあった文言と、ほとんど同じだった。


「これ……」


「ね。変でしょう」


 三神編集長は俺の顔色の変化を見逃さなかったが、追及はしなかった。


「ずいぶん昔に持ち込まれたやつです。港湾倉庫の怪談特集を組もうとした時に、変な老人が置いていった」


「老人?」


「ええ。UFOも幽霊もほとんど信じてない顔で来たくせに、倉庫の“鳴り方”には異様にこだわる人でした。変人でしたよ。でも持ってくる情報はやけに現場感があった。記号とかメモの癖も独特でね」


 変人。

 倉庫の鳴り方。

 記号の癖。


 もう十分すぎるくらい一致している。


「その人の名前は?」


「さあ。偽名だったかもしれないし、名乗ってなかったかもしれない。こっちもその頃は若かったから、面白ければ何でも箱に放り込んでたんですよ」


 三神編集長は苦笑した。


「ただ、今でも覚えてるのは、あの人が“霊だの呪いだのって呼ぶのは勝手だが、現場の電源を見ろ”ってしつこく言ってたことですね」


 俺は思わず笑いそうになった。


 祖父なら言いそうだった。

 ものすごく言いそうだった。


「……その人、たぶん本当に変人ですね」


「でしょう?」


 三神編集長は嬉しそうだった。


 話はさらに深い方へ滑っていく。


 “死んだ家族の声が録音された”という倉庫跡地の話。

 “取り壊し予定の病院でだけ、故人の人格が応答した”という霊界通信装置の噂。

 “場に残った想念を読む”と称する怪しげなグループの資料。


 正直、途中までは半笑いで聞いていた。

 さすがにそこまで行くとムーすぎる、と思ったのだ。


 だが三神編集長自身は、そのあたりも単純に信じているわけではなかった。


「僕はね、“本当に死者と会話してる”とは言いません。ただ、現場には何か残ることがある。記憶なのか、情報なのか、電磁的な痕跡なのかは分からない。でも分からないものが、昔から“霊”って呼ばれてきたんだと思うんですよ」


 その言葉に、少しだけ寒気がした。


 スピリチュアルな解釈。

 でも、その外側にある“何か”。


 話をひと通り聞き終えた頃には、メモ帳はいつの間にかかなり埋まっていた。取材としても十分すぎる内容だったし、それ以上に、祖父の痕跡を思わせるものがいくつもあった。


 別れ際、三神編集長は笑って言った。


「久世さん、もし次に“電池が減らない場所”とか“音だけ鳴る建物”を拾ったら、ぜひ教えてください。僕、そういう地味な本物っぽいやつ大好きなんで」


「……本物っぽいやつ、ですか」


「オカルトの世界ってね、九割九分は与太話です。でも、残りをゼロだって決めつける人は、だいたい一番面白いものを取り逃がす」


 軽い調子の言葉だった。

 けれど、その一言は妙に残った。


     ◇


 編集部を出て、駅へ向かう途中。


 都会の夕方の雑踏の中で、俺は思わず小さく唸った。


「港湾の異音とか電源異常はまだ分かる。海鳴りの倉庫だってあるしな」

「でも、死者の声が残る装置はさすがに飛びすぎだろ……」


【完全否定はできません】


 スマホから聞こえた一言に、俺は足を止めた。


「おい」


【意識痕跡の記録・再生技術は存在します】

【地球文明の観測者から見れば、“死者と会話している”ように解釈されるでしょう】


「……まじかよ」


【文明差が十分に大きい場合、技術はしばしば宗教・奇跡・霊現象として受容されます】


 夕方の人混みの中で、俺だけが少し別の温度にいた。


 意識痕跡。記録。再生。

 それを“死者との会話”と呼ぶ未開文明。


「異星文明、守備範囲広すぎるだろ」


【恒一の理解範囲が狭い可能性もあります】


「煽るな」


【事実の整理です】


 こういうところだけは、本当に容赦がない。


 だが、イヴの言うことには一貫性があった。


 オカルト誌が集める怪談や都市伝説の中には、霊や呪いとして処理された“技術の残骸”が混ざっているかもしれない。

 そう考えると、三神編集長の資料箱は、急に世界の裏側へ繋がる一次資料に見えてくる。


 ライターとしての顔は、まだ使える。

 むしろこれからが本番かもしれない。


     ◇


 再生バッテリー業の噂は、その週のうちにもう一段広がった。


 相原からの紹介。

 その相原の知り合い。

 さらにそこからの現場口コミ。


 プロ同士の横の繋がりは、変なところで早い。


『例の再生屋、マジで持つ』

『発熱少ないの地味に助かる』

『名前知らんけど、当たり引く率おかしい』

『新品じゃなくて再生でこれ?』


 そういう断片的なメッセージが、相原経由で俺のところにも流れてくる。


 嬉しい。間違いなく嬉しい。

 ただ同時に、不安も出始めていた。


「噂、広がりすぎじゃないか?」


【認知度は局所的です】


 海鳴りの倉庫の前室で作業しながら、イヴは冷静に答える。


【現時点では“当たり再生業者”の範囲です。問題ありません】


「その“問題ありません”が怖いんだよ。お前、問題があっても同じテンションで言いそうだし」


【必要なら通知します】


「必要になる前に止めたいんだよ……」


 とはいえ、注文を止めるわけにもいかない。


 前室の作業台の上には新しい仕入れ品。

 保管ラックには納品待ちの試作品。

 基地の電力残量表示は心細いが、以前よりは安定していた。


 金が入る。

 基地が使いやすくなる。

 情報も集まり始める。


 すべてが順調に見える。


 だからこそ、こういう時に限って外から何かが来る。


 夜、作業を切り上げてスマホを確認した時、そのメールは届いていた。


 件名は簡潔だった。


『再生バッテリー製品に関する面談のお願い』


「……ん?」


 差出人を見て、眉が寄る。


 フリーメールでも、個人名だけでもない。

 企業ドメイン。しかも、見覚えのある名前だった。


 東都エナジー&ロジスティクス株式会社

 新規事業開発室


 知らない会社ではない。

 誰もが名前を知っている財閥系グループの中核企業の一つだ。

 港湾物流も蓄電設備も手掛けている。海鳴りの倉庫の存在を知ってからだと、少し出来すぎたようにも感じる名前だった。


 本文を開く。


久世恒一様


突然のご連絡失礼いたします。

東都エナジー&ロジスティクス株式会社、新規事業開発室の天城澪と申します。


現在、一部現場関係者の間で評価の高い再生バッテリー製品について情報を伺っております。

その中で、貴殿が取り扱われている高耐久再生品に関し、弊社としても大変興味を持っております。


もし差し支えなければ、一度お話を伺う機会を頂戴できますでしょうか。

形式はオンライン・対面いずれでも構いません。


何卒ご検討のほど、よろしくお願い申し上げます。


東都エナジー&ロジスティクス株式会社

新規事業開発室

天城澪


 読み終わってから、しばらく画面を閉じられなかった。


「……おい、イヴ」


【確認しました】


「なんで大企業が来るんだよ」


【恒一が目立ち始めたためです】


 あまりにも身も蓋もない。


 だが、それ以外に説明はないのだろう。


 当たりバッテリーを引き続ける無名の再生業者。

 現場で異常に評判がいい。

 しかも港湾物流と電力を扱う財閥系企業が、その噂に反応した。


 偶然にしては出来すぎている。

 だが、今の世界ではこういう“出来すぎ”が、もう現実の顔をして目の前に現れるらしい。


「天城、か……」


【対応は慎重に行ってください】


「分かってる。分かってるけど」


 スマホの光が、前室の白銀の壁に反射する。


 ムー編集部で聞いた話。

 三神編集長の資料箱。

 祖父の残した痕跡。

 そして今、表の世界から差し込んできた財閥系企業の手。


 俺の商売は、もう知り合い相手の小銭稼ぎだけでは済まなくなりつつあった。


 オカルトの顔をした情報が裏側で繋がり始め、

 現実の金と企業が表側から近づいてくる。


 たぶん、ここから先は今まで以上に慎重になるべきだ。

 でも同時に、ここから先にしか進めない気もした。


「……面白くなってきたな」


【危険度も上昇しています】


「そういうことは分かってから言うんじゃなくて、分かる前に言え」


【事前から警告していました】


「そうでしたね……」


 俺は深く息を吐いて、もう一度メールを見た。


 天城澪。


 財閥系企業の新規事業開発室。

 表向きは再生バッテリーの面談依頼。

 その裏に何があるのかはまだ分からない。


 分からないが、一つだけ確かなことがある。


 当たりバッテリー再生業者、久世恒一。

 その名前は、ついにムーの資料箱の外側――もっと現実的で、もっと厄介な世界にまで届き始めてしまった。

最後までお付き合いいただき感謝します。


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― 新着の感想 ―
こういう展開は楽しみです。ただこういう現代舞台のSF系副業は税金が気になるんだよな。
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