第27話 雷雲のウナギと、痺れる極上うな重
海賊船団と別れ、ボルグたちは再びカヌー(ヒドラ皮製)で西を目指していた。 だが、穏やかだった海が急変する。 空がどす黒い雲に覆われ、紫色の稲妻がバリバリと音を立てて走り始めた。
「ひぃぃっ! か、雷です! ボルグさん、避雷針がないと黒焦げになっちゃいます!」
リズが頭を抱えて縮こまる。 海の上で雷に遭うのは自殺行為だ。しかも、この雷雲は何やら生き物のように動いている。
「自然の雷じゃないな。……奴らの仕業か」
海面から、細長い影が次々と空へ飛び出していた。 全長2メートル。全身に電流をまとい、空を泳ぐように跳ねる魚影。 『プラズマ・イール(雷電ウナギ)』だ。 群れで放電し、嵐を呼んで獲物を感電死させる空飛ぶウナギである。
『おい、嫌な予感がするぞ。我は金属だ。雷が大好きな素材だぞ』
グラムが震え声で警告する。
「その通りだ。だからお前を使う」 『ふざけるな! 避雷針にする気か! 回路がショートするわ!』
ボルグはグラムの抗議を無視し、剣を高く掲げた。
「来るぞ! リズ、耳を塞げ!」
バリバリバリッ!!
周囲のウナギたちから放たれた稲妻が、最も電気を通しやすい魔剣グラムへと一斉に誘導された。 閃光が視界を埋め尽くす。
『ギャアアアアアッ! 痺れるぅぅぅ! 我、発光しちゃう! 聖剣になっちゃう!』
だが、ボルグはゴム手袋(ヒドラの胃袋で作った絶縁体)をしていたため無傷だ。 そして、雷撃を放った直後のウナギたちが、放電の反動で動きを止めた瞬間――。
「今だ」
ボルグは帯電して高熱を発する魔剣を、そのまま海面へと叩きつけた。 ドボンッ! ジジジジジッ……!
魔剣に蓄積された超高電圧が、海水を通して周囲のウナギたちに逆流した。 自らの電気と、仲間たちの電気が倍加して跳ね返ってきたのだ。 数十匹のウナギが白目を剥き、プカプカと海面に浮き上がった。
「一網打尽だ。それに――」
ボルグは浮いたウナギの一匹を拾い上げる。 表面のヌメリがきれいに焼失し、身が程よく硬直している。
「高電圧で瞬時に『感電死』にしたことで、泥臭さが抜け、身が引き締まっている。下処理の手間が省けたな」
*
嵐が去った静かな海上で、調理開始だ。 プラズマ・イールは、普通のウナギよりも脂が乗り、身が分厚い。 ボルグはこれを背開きにし、串を打つ。
「タレは、海賊にもらった『ラム酒』と醤油、砂糖を煮詰めた特製ダレだ」
炭火(船の上なので携帯コンロ)の上で、ウナギを炙る。 脂が炭に落ち、ジュッという音と共に白い煙が上がる。 そこへタレを潜らせ、再び焼く。
ジュワァァァァ……。
甘く香ばしい醤油と、ラム酒の芳醇な香りが混ざり合い、暴力的なまでの食欲を喚起する。 飴色に輝く蒲焼の完成だ。 これを、炊きたての白飯の上にドーンと乗せる。
「『雷電ウナギの極上うな重』だ」
リズが蓋を開ける(蓋はないので雰囲気だけ)。 黄金色の輝き。タレの染みたご飯。
「いただきますっ!」
リズが箸を入れる。 皮はパリッとしているのに、身は箸で簡単に切れるほどフワフワだ。 口に運ぶと、濃厚な脂がとろけ出し、ラム酒風味のタレと絡み合う。
「……ん~~っ! とろけます! 噛まなくていいです!」
そして、微かに残る電気の刺激。 舌先がピリピリとする感覚が、山椒のようなアクセントになっている。
「このピリピリ感が癖になります! ご飯が進みすぎて怖いです!」 「電気ショックで筋肉の繊維がほぐれているからな。蒸さなくても柔らかい」
ボルグもうな重をかき込む。 スタミナ満点。旅の疲れが一気に吹き飛ぶ味だ。
『……おい』
グラムが、まだ少しパチパチと放電しながら文句を言う。
『我、帯電しすぎて方位磁石が狂ってる気がするんだが。ちゃんと西に向かってるのか?』 「大丈夫だ。鼻が利く」
ボルグは箸を止め、前方を見据えた。 甘い匂い。香ばしい匂い。そして、洗練されたソースの香り。 風に乗って、明らかに「文明の味」が漂ってきていた。
「見えたぞ。あれが西の大陸、『ガストロノミア』だ」
水平線の向こうに、巨大な大陸の影。 世界中の食材と料理人が集まると言われる「美食の都」。 そこは、ボルグにとっての聖地か、それとも新たな戦場か。
第3章「美食都市編」、いよいよ開幕である。




