表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦鬼の厨房(キッチン) ~伝説の魔剣は、老兵の包丁になりたいようです~  作者: 九条 蓮夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/50

第28話 美食の関所と、音速のスフレオムレツ

西の大陸、その玄関口にある巨大な城門。  『美食都市ガストロノミア』。  城壁は巨大なナイフとフォークの彫刻で飾られ、門の前には入国を希望する商人や料理人たちが長蛇の列を作っていた。


「次! ……不合格だ。帰れ」


 門番の男が、差し出された料理ローストビーフを一口食べて皿を投げ捨てた。  恰幅の良い体型に、真っ白なコックコートを着た男。彼はただの衛兵ではない。この国の「味の番人」だ。


「焼き加減はムラだらけ、ソースは市販品。こんな餌を美食の都に入れるわけにはいかん!」 「そ、そんなぁ……!」


 泣き崩れる料理人。  この街に入るには、門番の舌を満足させるか、高額な通行税を払うしかない。当然、ボルグたちに金はない。


「厳しそうですね……。ボルグさん、どうします?」 「簡単なことだ。美味いものを食わせればいい」


 ボルグが列の前に進み出ると、門番がギロリと睨んだ。


「なんだ貴様は。薄汚れた鎧に、生意気な小娘……。料理人には見えんが」 「通りすがりの屋台屋だ。入国審査を頼む」 「フン。よかろう。だが、並の食材では私の舌は動かんぞ?」


 その時だった。  上空からキェェェェッ! と甲高い鳴き声が響いた。  巨大な影が差す。  黄金色の羽毛を持つ怪鳥――『ゴールデン・コカトリス』だ。  入国待ちの食料の匂いに釣られて飛来したのだ。


「ひぃっ! 魔物だ! 逃げろぉ!」 「ちょうどいい。食材が向こうから飛んできた」


 ボルグは逃げ惑う人々を尻目に、魔剣グラムを抜き放った。  コカトリスが鋭い爪で襲いかかる。


「産みたてか。腹が重そうだな」


 一閃。  ボルグはコカトリスを斬るのではなく、腹の下を「かすめる」ように剣を振るった。  驚いたコカトリスが、空中でポロリと何かを産み落とした。  輝く黄金の卵だ。


「ナイスキャッチだ、リズ!」 「ええっ!? わわっ!」


 リズがエプロンを広げて、巨大な卵(ボウリング玉サイズ)を受け止める。  卵を奪われたコカトリスは、ボルグの殺気に恐れをなして逃げ去った。


          *


 門番の目の前で、即席キッチンが開かれた。


「コカトリスの卵は濃厚だが、黄身が重すぎて食感が悪いのが欠点だ。だから――」


 ボルグは卵を割り、白身と黄身を別々のボウルに入れた。  そして、魔剣グラムを白身のボウルに突っ込んだ。


『……おい。嫌な予感がするぞ』 「回れ」 『はい?』 「プロペラのように回れ。全力でだ」


 ブォンッ!!


 ボルグの手首のひねりに合わせ、魔剣が高速回転を始めた。  もはや剣ではない。巨大なハンドミキサーだ。


「もっと速く! 空気を巻き込め!」 『目が回るぅぅぅ! 我は泡立て器じゃなァァァいッ!』


 超高速回転する魔剣が、白身を瞬時にきめ細やかなメレンゲへと変えていく。  コカトリスの強靭な白身が、雲のようにフワフワに膨れ上がった。  そこに黄身と、少量の塩、砂糖をさっくりと混ぜ合わせる。


 熱したフライパンにバターを溶かし、生地を一気に流し込む。  ジュワァ……。  弱火で蒸し焼きにすること数分。  パンパンに膨らんだオムレツを、皿の上に滑らせる。


「『黄金のスフレオムレツ』だ」


 皿の上でフルフルと揺れる、厚さ10センチはある巨大なオムレツ。  門番は疑わしげにフォークを入れた。


「……!?」


 抵抗がない。  フォークが自重で沈んでいく。  口に運ぶと――。


「しゅわぁ……」


 消えた。  門番の口の中で、オムレツが淡雪のように溶けて消えたのだ。  しかし、舌には濃厚な卵のコクと、バターの香りがしっかりと残っている。


「な、なんだこれは……! 空気のように軽いのに、味は爆弾のように濃厚だ!」 「高速回転で極限まで空気を含ませた。噛む必要はない。喉で味わえ」


 門番は震えながら完食し、涙を流した。


「合格だ……! いや、貴様のような料理人を待っていた! 通れ! 美食の都へ!」


 重厚な門が、ギギギと音を立てて開かれる。  その向こうには、数え切れないほどのレストランと、見たこともない食材が並ぶ市場が広がっていた。


「行こうか、リズ」 「はいっ! 美味しそうな匂いがいっぱいです!」


 意気揚々と歩き出す二人。  その腰で、目を回したグラムだけが千鳥足のように揺れていた。


『……もう無理。気持ち悪い。誰か、誰か三半規管を止めて……』 「お前に三半規管はないだろう」


 美食都市ガストロノミア。  そこは、ボルグの料理人としての腕が試される、最大の戦場となる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ