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STYRACOS  作者: 旦児
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邂逅

「うっ・・・」

 知らない天井だ。

「ここは・・・どこだ。」

 名前は一角烈斗、年は16才、性別は男、住所は戦いによって消えた。

「記憶は大丈夫みたいだな。」

 改めて現状を確認する。

 寝ているのはベッドの上。

周りは薄暗いが部屋・・・というよりも仮眠室だろうか?

 ベッド以外に何もない狭い部屋だ。

「あ、起きた?」

 ウィンと音がして知らぬ少女が中に入ってきた。

 持ったお盆には水の入ったピッチャーとコップが置かれている。

「もー、ね・ぼ・す・け・さん。」

「・・・」

 年は少し下だろう。中学生か小学生高学年ぐらいに見える。

「どうしたの?大丈夫?」

「誰だ?」

 なんとなく見覚えがある気もする。

 だが見ただけで誰と分かるほどの知り合いではない。

 少なくとも「ね・ぼ・す・け・さん」と言われるような関係ではないはずだ。

「酷い・・・」

 少女はそっとお盆をベッドの上に置く。

「あんなに熱い夜を過ごしたのに・・・」

「な・・・」

 必死になって記憶の糸をたどる。

 覚えていない。

 まるで思い出す事が出来ない。

「俺は・・・」

 罪悪感と喪失感が全身にのしかかる。

 こんな少女に手を出したのかという罪悪感。

 事実なら人間の屑だ。生きている価値もないような人間だ。

 それと同時に襲い掛かる喪失感。

 未だ誰とも付き合った事もない清かった自分。

 それを失った事を思い出せない喪失感。

「あれは二年前の夏休み。」

 二年前の夏休み・・・

「二年前の夏休み?」

 思っていたより前だった。

「レットさんはある森に行きました。」

「ばあちゃんの家に行った時だな。」

 夏休みは祖母の家に行く事が多い。

 そこは森に囲まれた閑静な場所・・・と言えば聞こえは良いがただの田舎だ。

 近所に家すらない木と畑に囲まれた所に祖母の家がある。

「そこで子供を助けましたよね?」

「ああ!あの時の!」

「いえ違います。」

「違うのか・・・」

 あの時助けたのは男の子だった。

 小説ではないのだから、男と女を見間違えはしない。

「そのあと、畑を手伝いましたよね?」

「ああ!あの時手伝いに来てた」

「違います。」

「違うかあ・・・」

 祖母の家の畑を、祖母の姉妹の子供や孫も手伝いに来ていた。

 その子かと思ったが違ったようだ。

「その日の夜、花火を持ってきて一緒にした子です。」

「や・・・ったな」

 カタカタと封印されし記憶の扉が震える。

「あの時花火を一緒にやった」

 パリンと記憶の扉の封印が割れる。

「爆弾魔の娘か!」

「母様は爆弾魔じゃありません!」

 思い出したくもない事を思い出した。

 あの日、近所に住む祖母の弟子だという人が花火を持ってきてくれた。

 そして、祖母の弟子とその娘さんも一緒に花火をやろうという事になった。

 それが悲劇の始まりとも知らずに。

 花火は和やかに行われた。

 大人達も見守る中、子供達がワイワイと花火を楽しんでいた。

 そのはずだった。

 最初の悲劇はロケット花火『煌華爆炎弾』。

 太陽ぐらい明るく輝いた花火が闇の帳をかき消した。

 その時点で祖母が苦笑い。

 そして続くはヘビ花火『蛇王・八岐大蛇』。

 炎をまき散らす巨大なヘビ花火によって、子供達はパニックになった。

 そしてとどめの線香花火『剛火球・焔』が飛び回った。

祖母がさすがに弟子を正座させた。

次の日の朝は警察が来て、色々事情を聴かれたのも嫌な思い出だ。

「あの熱い夜を思い出してもらえましたか?」

「思い出したよ!思い出したくなかったけど!」

「そんな・・・」

 祖母弟子の娘がショックを受けた顔をする。

「あんなに強く抱きしめてくれたのに・・・」

「暴れまわるヘビ花火と飛び回る線香花火から守るためにな!」

 確かにあれは熱い夜だった。花火のせいで。

「そのあと再開するのを楽しみにしてたんですが・・・」

「・・・まあ色々あったからな。」

 二年前の夏休み。

 あの頃の世界は平和だった。

 謎のロボット軍団・骸竜が現れるまでは。

 骸竜の登場で世界は混乱へと導かれた。

 家を失い、学校を失い、生活圏を奪われた。

 平和だった世界は・・・消えた。

「なので連れてきました。」

「どういう事やねん。」

 繋がりが分からない。

「家族とも離れ離れになって苦労してたんですよね?」

「まあな。」

 骸竜の攻撃によって家を失った。

 そして家族とも合流できなかった。

 生きているのか死んでいるのかも分からない。

 いざという時の避難場所として家族と話し合っていた祖母の家にどうにかしていこうか、NPOの世話になろうか悩んでいたのは事実だ。

「なので来てもらいました。」

「俺の意思!」

「意思ってそんなに重要ですか?」

「重要だよ!」

「住むところや食べ物よりも?」

「・・・重要だよ。」

 少し逡巡してから答える。

「じゃあ帰るの?」

「・・・まずは話を聞こうじゃないか。」

 とはいえ残るか否かは条件次第だ。

「もそんなに難しい話じゃないんです。」

「そうなのか?」

「住むところとご飯を提供するので骸竜を倒して欲しいだけで・・・」

「祖母の家に厄介になるよ。」

 それは無理だ。

 骸竜は自衛隊どころか米軍すら手を焼いている相手。

 あのヘビ花火『蛇王・八岐大蛇』を相手にするのとはわけが違う。

 あれは5分ぐらい水をかければ止まるのだ。

「センセイはいませんよ?」

「え?」

「さらわれましたから。」

「・・・え?」

「そして母も・・・」

「そう・・・だったのか・・・」

 先生、祖母がさらわれたのはショックである。

 そのショックを目の前の少女も、いやそれ以上のショックだろう。

「わたし・・・独りぼっちなんです。」

 そう笑う少女。

 孤独は時にすべてを失うよりも辛い。

 だから知り合いを無断で連れてきても仕方

「なくはねえな。」

「え?」

「何でもない。」

 彼女は母をさらわれ、一度会っただけの人をさらってきた。

 それで仕方ないとはならん。

「手助けしてやりたいが骸竜を倒すなんて出来ないぞ。」

「そこはうちの機材を使ってください。」

「機材?」

「母が残してくれた研究成果があります。」

 母の研究・・・確か花火の数々も彼女の研究成果と言ってたはずだ。

「流石に花火では倒せんだろ。」

「花火以外にもあります!」

 少女が苦笑い。

「立てますか?」

「ああ問題ない。」

 少女に促されて立ち上がる。

 寝起きだから少しだるさはあるが問題はないだろう。

「ついてきてください。」

 少女に案内されて部屋を出る。

 一体どこに行くのだろうか?


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