説明
美冬利と楓は手術室の近くに置かれている長椅子に並んで腰掛けていた。
「雷鬼、強かったですか?」
美冬利は楓にポツリと話しかけた。
「え、あ、うん。強かった。とても僕一人だけじゃ勝てなかった」
「そうですか。こんなことを言うのもあれですけど、帰ってくるなんて思っていなかったです。でも、あの時私は止めることは出来ませんでした。結果、四郎園さんを危険な目に遭わせてしまって。…すみません」
美冬利はそう言って俯いた。
「美冬利さんが謝ることじゃないよ。誰だってあそこに行くのは怖かったと思う。僕だって怖かった。けど、あそこで立ち向かわなきゃ、行かなきゃ千春さんが守ろうとしたものも守れなくなると思ったんだ。役に立つとは思わなかったけどね」
楓はそう言って少し笑った。そして、話を続けた。
「それに、廃工場に向かう時に美冬利さんが「絶対帰ってきて」って言ってくれたのが僕の力になったんだよ」
楓がそう言うと美冬利は笑顔を見せた。
「ふふっ、それならよかったです」
美冬利がそう言うと楓は何かを思い出したかのように立ち上がった。
「あっ、そう言えばまだ駒走さんに連絡してない…」
「それは非常にマズいです。急いで連絡しましょう」
美冬利と楓は一旦病院の外に出ると駒走に連絡を取った。
「もしもし、夜分にすみません。美冬利です。すみません連絡が遅れましたが―」
美冬利がそこまで言うと駒走は言葉を遮った。
「あー、雷鬼の件ですよね。もう回収は終わっていますよ。連絡が遅かったのをみると今一大事なのですよね? 書類は後日持って行きますので。それではまた」
駒走はそう言うと一方的に電話を切った。
「駒走さんは何て?」
「もう回収は終わっていたみたいです。流石と言うべきか、ちょっと怖いですよね」
「まぁ、回収の速さが異常だよね。あ、ところで今は何時?」
楓にそう言われた美冬利は電話をする為に手に持っていたスマホで時間を確認した。
「今は夜中の二時ですね」
「もうそんな時間なんだ。遅いから美冬利さんは寝なよ。毛布が無いか聞いてくる」
「ちょ、ちょっと、勝手に寝るとか決めつけないでください。私はまだ起きていますから。四郎園さんこそ寝たらどうですか? さっきの戦いで疲れていますでしょ?」
「僕は大丈夫だよ。雷鬼との戦いで気持ちが昂っちゃってまだ寝れそうにないから手術室の前で待っとく」
「それなら、私もそうします」
美冬利は真っ直ぐな目で楓を見た。それに根負けした楓は「分かった。二人で待とう」と言って手術室の前に戻った。そして、長椅子に腰掛けると無言の時間が流れた。それに耐えきれなかったのか美冬利が話しかけてくる。
「…あの、少しだけ手を繋ぎませんか?」
「え? あ、いいけど」
楓が少し困惑したようにそう言うと美冬利は「いや、やっぱりいいです」と言ってそっぽを向いた
「何? どうしたの?」
「別にどうもしていません」
楓は不思議そうに首を傾げたがそれ以上何も聞くことはなかった。それから二人は手術中のランプが消えるまで他愛もない雑談を交わした。とは言っても途中で美冬利は眠ってしまい楓の肩にもたれかかっていた。
夜が明け、日が昇ってこようとしている時間に手術中のランプが消えた。手術室からは額に汗を滲ませ安堵と疲労が入り混じった表情を浮かべている秋寺が出てきた。秋寺は二人を見ると近付いてきた。その足音で美冬利は目を覚ました。
「…あれ? いつの間にか寝ていました。すみません」
「美冬利ちゃんもだいぶ疲れていたからね。しょうがないよ。千春ちゃんの心臓はとりあえず、動き出した。後、どれぐらいで目を覚ますかは本人の体力次第だ。とは言っても、千春ちゃんだからね。確証はないけど一週間ぐらいで目を覚ますんじゃないかな?
僕の鬼はしばらく使い物にならないから二人とも絶対に怪我をしないでね」
秋寺はそう言うと優しく微笑んだ。
「一体、どうやったんですか? 普通、死んだら生き返らないですよね」
楓は恐る恐る尋ねた。
「楓君から千春ちゃんの武鬼を預かったでしょ。それを使ったんだ。どういう訳か、千春ちゃんが命を落とした時に武鬼が残った。普通ならば命を落とした時にその武鬼も消えるはずなんだ。何故なら、武鬼は自分の中にある鬼の形を変えて武器として使用しているわけだろ? 元々は人の形をしている自分の分身というわけであって、本体が消えれば分身も消えるはずなんだ。それが奇跡的に残ったから、それを利用したのさ。今回はたまたま運が良かった。それだけの話」
秋寺はそこまで言うと少し視線を落とした。
「でも、果たして運が良かったかどうかは分からない」
「どうしてですか?」
「千春ちゃんはもう戦えない。厳密に言うと戦えないわけではないが、前のように四季家としての強い千春ちゃんではない。彼女はもう武鬼を取り出すことは出来ない。千春ちゃんの命は千春ちゃんの中にいた鬼で成り立っている。つまり武鬼を取り出そうとすれば、それは命を取り出すことになる。懐中電灯から電池を取り出して、灯りを点けようとしていることと同じさ。
まぁ、とりあえず、君たちはもう寝なさい。僕も眠い。部屋の準備も丁度終わったみたいだ」
秋寺がそう言うとニコリと笑った。確かに睡魔が襲ってきて限界が近付いていた。二人は看護師に案内され別々の病室を借りるとベッドに倒れ込み、いつの間にか眠りについた。




