一縷の望み
雷雨が降りしきる中、千春を抱きかかえた楓は病院へと戻って来た。待合室にいた美冬利は戻って来た楓に気付き、楓の元へ駆け寄った。美冬利の姿を見た楓は緊張の糸が切れたようで鬼人が解けた。
「…ごめん」
楓は美冬利の顔を見ることが出来ず、小さくそう呟いた。美冬利は楓の腕に抱きかかえられている千春を見て愕然とした。
「冗談ですよね。ただ眠っているだけですよね?」
目の前の光景を受け入れられない美冬利は声を震わせながらそう言った。しかし、楓が黙っているのを見て、それが現実だとようやく受け入れ、膝から崩れ落ちた。そして、大粒の涙が次から次へと零れ落ちていく。すると、丁度そのタイミングで秋寺が受付の所へとやってきた。
「夏樹ちゃんと秋穂ちゃんはもう大丈夫だよ。今、安定したところだ。あれ、楓君?」
秋寺はそう言いながら楓に近付いてくる。そして、楓の腕に抱えられている千春を見て美冬利と同様のリアクションを取った。
「ち、千春ちゃん? ま、まさか。いや、相手はあの四鬼の内の一人である雷鬼だったんだろ? 力の無い僕でも分かる程の気配がここまで届いていたから。楓君だけでも帰ってこれたのは充分凄いと思うよ。千春ちゃんのことは気の毒だと思うけれど」
秋寺はそう言いながら再度、千春を見る。そして、楓の手に握られていた刀に目をやった。
「楓君! それ、その刀は千春ちゃんの刀かい!?」
「え、えぇ、そうですけど」
楓がそう答えると秋寺は何か慌ただしくなった。
「もしかしたら、もしかしたらだけれど、千春ちゃんが助かるかもしれない! これはあくまで仮説だけれど、いや、今はそんなこと言っている暇はない。どうするかい?」
秋寺にそう言われ、美冬利と楓は顔を見合わせた。そして頷くと秋寺の方を向いた。
「可能性があるのならば、私は助けてほしいです」
「僕も同じ考えです。まだちゃんとお礼も言えていないから、ちゃんとお礼を言いたいです」
二人がそう言うと秋寺は力強く頷いた
「分かった。時は一刻を争うから急いで千春ちゃんを運んでもらえるかい?」
秋寺の指示を受け、楓は千春を手術室へと運んだ。手術室の中央に設置してあるベッドに千春を寝かすと持っていた刀を秋寺に預けて、楓は手術室を出た。




