37.噂の人
自衛隊が装甲車六台で、ウチの会社に訪ねて来た。
…しかも俺の事を名指しで。
「どうしよう…『間に合ってます』って言ったら帰ってくれないかな?」
「流石に無理でしょう…どう考えても、あちらさんも切羽詰まってる状況ですよね?」
無情な大島の返答。
…俺だって分かってて言ってるんだよ!
ちょっとした現実逃避ぐらいさせてくれよ!
「…いや、場合によっては【転移術】で逃げてしまう事も…出来るよ?」
「…!」
…山里さん?
…彼がそんな事を言うなんて…冗談にしても意外だな。
「…そうですよね、このタイミングで訪ねてくるって…下手すればこの異変の首謀者と疑われてる可能性だってありますし…その場合良くて拘束、最悪は…いや、夢野さんの場合はステータスがもう人外なんで、そうとなってもどうとでも出来るでしょうけど…。」
「うっ…!!」
…え、乾さん…それマジで言ってる?
俺が異変の首謀者って…勘違いも良いトコだし、非常に迷惑な話なんだが…。
「…夢野君、どうする?」
「【転移術】は…後々面倒になりそうだし、会社にも迷惑がかかります。…とりあえず、話だけでも聞きましょう。」
…ぶっちゃけ、逃げるのはいつでも出来る。
今は自衛隊がどんな用件で訪ねて来たのか…それを知るのが先決だろう。
…俺達四人は、重い足取りで会社の正門へと移動を始めた。
へ_\○ へ_\○ へ_\○ へ_\○ へ_\○
正門に着くと、門の向こう側には数人の自衛隊員と…銀縁眼鏡に紺のスーツを着た、神経質そうな男性が待ち構えていた。
門の内側から対応しているのは社長と…梶本?…いつの間に目を覚ましたんだお前。
「…ああ、来たようですね。先頭の彼が…夢野新作、間違いな無く我が社の社員です。」
「…彼、ですか。」
社長からの紹介に、眼鏡の男が目を細める。
…めっちゃ見られてるな…俺の顔に何か付いてますか?ってヤツだな。
「失礼ながら、門はこのままでお願いいたします。…この状況下です、社長の私には会社と社員を守る義務と責任があります。」
「…問題ありません。我々としては、まずは彼から話を伺いたい…それが最優先ですので。」
社長ぉ…!
…なんか異変が起きてからのウチの社長、メチャクチャイケオジじゃない?
…正直、こんなに会社と社員を大事にしてくれる人だったとは…不謹慎な話だが、こんな状況下にならなければ気付けなかったかもしれない。
「…よう夢ニューちゃんよぉ…お前何やったんだ?自衛隊が名指しで訪ねてくるなんて…まさかお前、テロリストか何かか?」
梶本ぉ…!
…なんか異変が起きてからの梶本、マジで最悪じゃない?
…正直、ここまで腐った人間だったとは…まぁ知ってたけど。
「夢野新作さん本人で、間違いありませんか?」
「…はい。俺に何かご用でしょうか?」
正門を挟んで、眼鏡の男性と相対する。
…この人、なんて言うか…雰囲気あるな。
決してDDT的にステータスが高いとか、そういうのじゃ無いんだと思うけど…「場数を踏んでいる」人の眼をしてる…そんな気がする。
「…失礼。私は内閣官房、危機管理担当参事官の富士野と申します。…門越しなので名刺は後程。」
内閣官房…なんだか凄い人物が来ちゃったぞ。
…自衛隊員に囲まれてるし、流石に嘘の役職ってことは無いだろう。
「…単刀直入に伺います。あの異常建築物群と同時期に関東各地に現れた『討伐碑』…あそこに刻まれた『夢野新作』というのは、貴方の事でしょうか?」
直球だな。
…誤魔化し様も無い。
「…そうです。」
「…それでは、あの『上位存在』と名乗る存在が明かした『事前協力者』…これも貴方か?」
…まぁ、そうなるわな。
あの『上位存在』は「DDTの調整の為に、先行して一部の人類に協力してもらった」とハッキリ語っていた。
「…そうです。」
富士野と名乗った男の瞼が、僅かにつり上がったように見えた。
…これ、マジで事件の首謀者…もしくは、共犯者だと思われて無いか…?
「…ふぅ…失礼。…もう一つだけ、質問させて下さい。」
「…某掲示板サイトに事件前にスマホアプリ『DDT』の情報を拡散させた…通称『有能ニキ』、これも貴方の事で間違い無いですか?」
「そうで…いやそれは知らんです。」
何だ『有能ニキ』って。
前半の話は心当たりしか無いけど、俺はそんな妙な名を名乗った覚えは無いぞ?
「あ…お話し中失礼します。『有能ニキ』っていうのは掲示板住民が勝手にそう呼んでるだけで、夢野さん本人は知らないんです。…間違い無く『有能ニキ』ご本人です。」
乾さん…知っとったんかワレ!
えぇ…俺あそこで『有能ニキ』とか呼ばれてんの?
なんか…すっごく嫌だなぁ…。
乾さんの話を聞いた富士野氏は、何だか頭痛でも我慢している様な表情でブツブツと呟いている。
「…そうですか…本当に全部、同一人物とか…私はてっきり悪い冗談かと──」
「あ…あのぉ…富士野さん?」
俺が恐る恐る話しかけると、ハッと我に返って襟を正す。
「…失敬。改めて貴殿にお話ししたい事が有ります。…このまま、続けても?」
「何の話かちょっと怖い気もしますが…どうぞ。」
…富士野氏は小さく頷くと、軽く咳払いをした後に話し始めた。
「…現在、東京23区は異常建築物から湧き出した怪物…いや、通称『モンスター』の大群に占拠されています。…多くの民間人、そしてこの国の重要人物達も取り残されたまま…実質、『陸の孤島』状態と化しているのです。」
「無論、最初からこんな状況には無かった。…23区に出現した異常建築物…通称『ダンジョン』は五つ。これは他の地域に比べると存外に少なく、初動では自衛隊だけでも十分に対応可能だった。」
「…余談だが、モンスターへの対応に協力してくれた者達もいる。自らを『トレーニー』と名乗る、例の『DDT』を異変以前より使用していた者達だ。…更に余談になるが、自衛隊内にもこの『トレーニー』が複数名いる。モンスターとの戦闘では彼等が非常に活躍してくれている。」
「…23区の均衡が崩れたのは、『トレーニー』の一団がダンジョンへと侵入し、暫くした後だった。」
「突如としてダンジョンから湧き出した強力な個体を前に…我々は無力だった。銃は効かず、火砲や手榴弾でも有効な被害は確認できず…戦車の類を使うには、一般人の被害が多すぎる。…自衛隊は、23区より敗走したのだ…。」
「…現在、自衛隊及びトレーニーの混成部隊で、23区内にモンスターを押し留めるよう牽制し続けてはいるが…正直に言えば、我々だけではもう手に負えない。」
「…そんな中で、民間や自衛隊のトレーニー達が口々に言うのだ。」
「もうこうなったら、彼を連れてくるしか手は無い。…『夢野新作』を連れてきてくれ、と。」
「DDTの先駆者にして、既に数多のダンジョンを攻略済み…俺達の『有能ニキ』なら、きっとこの状況も打開してくれる、と。」
富士野氏は突然、正門越しに地面へと伏せ、額を下げる。
…土下座だ。
すっかり話に聞き入っていた俺には、咄嗟に止める事も出来なかった。
…そのまま顔だけをこちらに向けた富士野氏の、両の瞳が俺を捕えた。
「…我々には、もう有効な手段は残されていない。」
「…そんな中で、貴方の存在は正に『最後の切り札』…。」
「…夢野新作さん。」
「あなたには――」
「『23区奪還作戦』に、ご協力願いたい。」
一応ここまでで一区切り、一章終了です。
ちょっと休憩したら現在休載中の別作品
『異世界盗賊は現代最強のトレジャーハンターになれますか?』の連載再開予定。
(一気に完結まで進めたいなぁ…。)




