36.夢野、捕捉される
【転移術】を使用した社員の移動は順調だった。
いやぁ~【慈悲の錫杖】サマサマだな。完全に転移酔いを封殺できてるわ。
その上社員の家族皆で掴まるのに丁度良い長さだし…コレもう【転移術】用に用意されてたアイテムなんじゃね?とか勘違いしそうだわ。
何組目かの家族を会社に連れ帰ると、どうやら俺の担当は終わったようだ。
山里さんが最後の転移中らしいので、大島と缶コーヒーを飲みながら待つ。
会社のバルコニーから、すっかり変わってしまった街の景色を眺め休憩していると…遠方に見える自衛隊車両が、こちらに向かってきている事に気が付いた。
「…なぁ大島、あの車…こっちに向かって来てないか?」
「ええ?…あ~、あの装甲車ですか…偶然じゃないっすか?」
そうノンキに答える大島。
…まぁこんな異常事態下だ、自衛隊もあちこち飛び回って忙しいんだろう。
ダンジョンの対応をしたり民間人を救助したり…苦労を思うと頭が下がる思いだ。
そんな事を考えていると…事態が急転した。
…パパパパッ…!
…この音って…銃声!?
改めて自衛隊車両を見れば、車を追うように空を飛ぶ複数のモンスターの姿が確認できた。
マジかよ、追われてるのか!?
自衛隊車両はモンスターと交戦しながら、こちらの方向へ走って来る。
その距離に比例する様に、次第に大きくなってくる銃声に社内が騒めき始めた。
「…先輩!あのモンスター多分ゴースト系です!」
どこからか取り出した双眼鏡を覗き込んでいた大島が声を荒げる。
ゴースト系…物理攻撃が効かない相手だ、銃じゃ牽制にもならないだろう。
…流石に黙って見てはいられないな。
「…ちょっと手を貸してくる。大島はここで待機しててくれ。」
「わ…分かりました!」
返事を聞いた俺はフェンスに立てかけてあった【慈悲の錫杖】を引っ掴むと、目視できる距離にあるビルの屋上へと【転移術】で飛んだ。
眼下の国道を走る六台の装甲車を、鳥の様な姿をした半透明のモンスターが追走しているが…数が多い。
夕暮れ時に飛び回るムクドリの群れを思わせるソレは、グネグネと影の形を変えながら装甲車へと攻撃を繰り返しているようだった。
…うわ、よく見りゃ何だアレ、鳥の身体に人間の頭がついてるよ。
【オンモラキ】Lv.8
レベルは低いけど霊体…その上あの数だと、自衛隊でも手に余るだろう。
この距離なら…まぁ全て仕留められんでも、散らせればいいか。
手持ちの【火魔術】から【爆炎球】を発動させると、右の掌に現れた直径1m程の火球をオーバースローで群れへと投げ込んだ。
隕石の様に炎の尾を引きながら飛んで行った【爆炎球】は、多くの【オンモラキ】を巻き込みながら群れの中心へと到達すると…その名の通り大爆発を起こした。
「うぉっ!?…危ねぇ、まさかあんなに派手に吹っ飛ぶとは…ちょっと大きめに作り過ぎたか?」
…ま、まぁ爆炎に巻き込まれてほとんどの【オンモラキ】は仕留められたし、結果オーライだよな?
仕留めそこなった奴等も散り散りになって逃げて行った様子だし。
…あ、いつの間にか装甲車が停車して、降りて来た自衛隊員がこちらを指差して何か話している。
俺はあくまでも穏便に、笑顔で手を振ると【転移術】で会社へと帰還した。
「…あ、お帰りなさい!いやぁ、派手な爆発でしたねぇ~!」
「…正直、ちょっとサイズを間違えたわ。で、でも自衛隊に被害は無かったからOKだろ?」
大島にはそう答えながらも、内心ちょっと焦っていた。
もしも自衛隊をあの爆発に巻き込んでいたら…そう考えたら背中に冷たい汗が流れた。
「ただいま~…って、夢野君…何か顔色悪いね?大丈夫?」
右手に錫杖を持ったままの山里さんがバルコニーへとやって来た。
「お疲れ様です…ちょっと気疲れしただけなんで、ご心配無く。」
「そう?それなら良いけど…こんな状況でも無理は禁物だよ?頼れる所は頼ってね?」
自分だって疲れてるだろうに…優しいな山里さんは。
俺はストレージに入れていた缶コーヒーを手渡し、先程起こった事を簡単に説明した。
「…そう、自衛隊の…って、それってもしかして今正門に停まってるアレ?」
山里さんに言われて目をやると、会社の前にさっきの装甲車が次々に停車していく。
オイオイ…本当に来ちゃったよ。
…装甲車がこっちに向かってるのを見つけた時、嫌な予感はしたんだよなぁ…。
そんな事を考えていると、焦った様子の乾さんが社内から顔を出した。
「あ、あ、あ、あのっ!…自衛隊の方がいらっしゃって…『こちらの会社に夢野新作という社員が勤務していると確認が取れています。少し本人にお話を伺いたいのですが…』って…。」
「…この状況で先輩をご指名って──」
「…十中八九、『討伐碑』関連だろうね…夢野君、単独で50ヵ所以上ダンジョンクリアしたんだよね?」
「「ああ…。」」
そ…そんなの仕方が無いだろ!?
まさか後出しであんな石碑が出来るなんて、あの時は想像もしてなかったんだから!!
…だからそんな、残念そうな目でこっちを見るな!




