15.カウントダウン
DDTの謎は残ったままだが、俺は社会人。
仕事に追われて日々は過ぎて行く。
…だが俺は、すっかりこのDDTというトレーニングアプリにハマってしまった。
平日は帰宅後コツコツとトレーニング。
トレーニングメニューは LV.2→ LV.3と順調にレベルアップして行き、今ではLV.4の「つよつよオーガ野郎コース」とやらで毎日汗を流している。
…なんとかクソ雑魚を卒業出来たぜ、うっへっへ。
そして休日は「ARダンジョン」へGO!
山里さんが検証がてら同行したり、偶々予定が合った大島を誘って少し遠方のダンジョンを攻略してみたり…。
いやぁ、やっぱダンジョン楽しいわ!
二人でのダンジョンアタックもパーティー攻略みたいでスゲー面白かった!
ボスを倒すと変わったスキルが貰えるのもワクワク感あって最高っ!
「トレーニングバトル」は昼休憩や電車通勤時にプレイするのに最適だ。
…いや、もちろん混雑時はやらないぞ?…偶にしか。
ステータスもかなり上昇したし、スキルを取得してからはかなり先まで進めるようにもなった。
15連勝すると階級クリアになって、次の階級が解放される仕組みは、俺のチャレンジスピリッツを大いに刺激した。
階級クリア時の褒章として貰えるレアアイテムも…素晴らしい。
そんなこんなで、あっという間に日々は過ぎ──
…とある休日。
『…夢野君!?DDT見たっ!?』
電話口の山里さんは、明らかに焦った様子だった。
「…山里さん、俺も今丁度電話しようと思ってたトコです。」
俺達は待ち合わせ、喫茶店で合流することになった。
アパートの自室から外へと出ると、湿気を帯びた熱気が肌に絡みつく。
うわっ暑…こればっかりは鍛えても駄目だな。
DDTを使用し始めてから三か月…季節は夏になろうとしていた。
会社近くの喫茶店「シルバーバックス」に到着すると、山里さんは既に到着していた。
…余談だが、DDTのトレーニングを続けた結果、山里さんは見違える程に痩せた。
元々180センチ越えの高身長で、その上で横にも大きかったから正に「巨漢」という感じだったんだけれど…今はすっかり痩せて、いい感じに筋肉も付いて…毎日会って無かったらマジで「誰?」って感じだ。
辛うじて、野暮ったい眼鏡とボサボサの髪型が面影を残しているが…それはそれで女子ウケしそうなんだよなぁ…今の山里さん。
…そんな山里さんだけれど、今は端正な顔を青くしてテーブルへ俯いていた。
軽く挨拶をし、アイスコーヒーを注文する。
「早速だけど夢野君、コレ…何だと思う?」
「う~ん…正直、全然検討もつかないんですよね…。」
山里さんが見せたスマホ画面…それと同じモノが、俺のスマホにも表示されていた。
『 244:45:15 』
DDTを起動させると、いつもなら『こんばんわ、夢野さん。トレーニングメニューを選んでください。』というメッセージが表示されるのだが──
今表示されているのは、黒い画面に赤い数字の羅列。
下一桁は絶えず減少している。
「カウントダウン…ですよね、コレ…。」
「うん…恐らく今日の深夜0時から始まってる。それで、カウントダウンが終わるのが──」
…十日後の正午。
山里さんが言わずとも、俺にもそれぐらいは理解できた。
「…っ…凄く、嫌な予感がするんだ…何か良くない事が起こる、そんな気がする…。」
「…イヤイヤそんな、考えすぎですよ山里さん。…たかがスマホアプリ──」
…自分で口にした言葉に、心の中で「…本当に?」と投げ返す。
分かってる筈だ。
DDTは、ただのトレーニングアプリなんかじゃ無い。
『…お疲れ様です、夢野さん。来るべき日に備えて、明日もトレーニング頑張りましょう。』
アプリ終了時に表示されるメッセージが脳裏に浮かぶ。
来るべき日に備えて…
…その日が、来たって言うのか?
「…どうしよう夢野君、この事を誰かに知らせるべきじゃないかな?」
「知らせるって…一体誰に?…国の偉い人とかですか?…そんなの、まともに取り合ってもらえるワケが無いですよ…。」
いつもの山里さんらしくない。
…これは、相当参っているな。
「落ち着いてください山里さん。…幸い、十日間の期限は有ります。しかも正午なら、俺も大島も丁度会社にいるでしょう。何が起こるかは分かりませんが…DDTが言う『来るべき日』が来るって言うのなら、まだ俺達にも出来る事があります。」
「出来る…こと?」
俺は自分のスマホ画面をタップする。
…すると、いつも通りのDDTが表示された。
「…トレーニングです。何が起ころうと、鍛え上げたステータスならきっと対処できます。」
「あっ…それって──」
「「『Muscles do not betray(筋肉は裏切らない)…!!』」」
それは、トレーニング完了時に流れる決め台詞。
「……ふふっ…。」
「お、やっと笑った。…まぁ、やれるだけの準備をしておきましょうよ。…あとは野となれ、山となれってね。」
「…うん、そうだね。」
そう言って、向かいの席で微笑む山里さん。
…おおぅ、こりゃあ中々のレディーキラー…なんだか、とんでもない怪物が誕生してしまった気がするぞ…?
「はうぅ……お、お客様…アイスコーヒーですぅぅ…。」
眼鏡の女性店員さんが俺のコーヒー持ってきてくれたんだけど、なんか顔が真っ赤っかだぞ…。
…ありゃあ、山里さんの笑顔に当てられたな?
やれやれ…って、あれ?
なんか…俺と山里さんを交互に見て、ニヤニヤしてないか?この店員さん。
…ちょっ…あれ?




