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35歳会社員、ダイエットアプリだと思ってDLしたら謎の超人育成プログラムだった件  作者: 須藤 蓮司


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13/14

13.異常性

「…夢野君、後でちょっと話があるんだけど…良いかな?」


 梶本の野郎に回された急ぎの仕事を手伝ってくれていた山里さんが、作業の手を止めてそう言ったのは定時の1時間程前だった。


 終業後、二人で会社近くの居酒屋「鳥魔族」へと立ち寄る。

 店内には焼き鳥のタレが焦げるたまらない香りが…いかんいかん、ダイエット中だぞ俺は。


 とりあえずビールを頼み、それが席に届くと俺達はジョッキをグイッとあおった。

 そして、口元を拭いながら山里さんが話始める。


「夢野君…君が紹介してくれたDDTってアプリ…アレ、始めてどれくらい経ってる?」


「?…半月と少し…ですかね。…それが何か?」


「本当に気付いて無いのかい?…あのアプリ、はっきり言って異常だよ。」


 真剣な目でそう言う山里さんに、「そんな大袈裟な」…とは、簡単には言えなかった。

 …薄々…いや、最近はハッキリと違和感を感じていた。


 流石の俺でも、そこまで馬鹿じゃあ無い。


 ただ…DDTの楽しさにかまけて無視を決め込んでいたんだ。


「…昨日、家に帰ってから早速アプリをダウンロードしたんだ。折角だからトレーニングの記録を残そうと思って、まず現段階での体重を量った。…それからアプリを立ち上げて各種設定をした後、レベル1の『クソ雑魚ブタ野郎コース』ってのをやってみたんだ。」


 …コース名が俺の時と違う!

 これからダイエットしようって人に対して、すっごく失礼な名前だ!


 …アレか?個人ごとの初期の体重なんかが影響してるとか…なんだろうか。

 …それにしたって、コース名考えた奴のセンスを疑うぜ…。


「久々の運動だったから少し大変だったけれど、なんとか初回は一時間かからずに終わったよ。…この時点で既に、あのアプリに使われている各種の技術について異常だと思ったよ。…写真からあそこまで違和感の無いドット絵を生成するなんて、どれだけ高性能なAIを積んでるんだ?なんでお腹の上にスマホを置いただけで腹筋したか感知できるんだ?…正直疑問だらけだし、僕には理解不能だったよ。」


 そう言った山里さんは喉を潤すように、ビールを一口流し込む。


 ここまでの話を聞いて、流石は山里さんだと感心した。

 俺は普通に受け入れてしまった部分だったけど、山里さんからすれば違和感だらけだったんだな。

 ドット絵生成も腹筋感知も、俺が知らないだけでちゃんと理屈の通った技術だと思ってたわ。

 …そもそも俺、アプリ制作に関する知識はまるで無いしな。


 そんな俺の心中を表情から察したのか、山里さんは思い切ったように話を続けた。


「…初回トレーニングの結果、ステータス上の力と体力にプラス1ポイント、それと…体重の数値が1kg減った。」


 …俺の時は500gだったな。

 これは…コースによる違いか?

 『クソ雑魚ブタ野郎コース』は減量に特化したコースなんだろうか?


「…本題はここからだよ。僕は『まさか』と思って再び体重を量ったんだ。そうしたら…キッチリ1kg減っていたんだ。」


「おお!凄いじゃないですか!トレーニングの効果バッチリですね!」


 俺の素直な賛辞だったのだが…山里さんは少し呆れたような表情で続ける。


「…いいかい?人間は普通、一時間かからない程度の軽い運動なんかで、1kgも痩せないんだよ。」


「うっ…!」


 …そうだ。

 …そうなんだよなぁ…。


 俺も、ソコには強い違和感を感じたんだ。

 DDTが提示してくるのは超ハードなトレーニングって程でも無い、ごく普通のトレーニングだ。

 それをこなしただけで…実際に体重が落ちる。

 …それも、DDT内のステータスとピッタリ同じ数値に。


 …しかも俺、DDTを始めてから…「体重の波」が無くなったんだ。

 ステータスで表示された体重で固定され、食事後でも体重の変動…無し。

 …そんな事、普通有り得ないよな?



 目を背けていた異常性に改めて気付かされた俺は、考えていたよりも深刻だった現状に背筋が冷たくなった。


 一日一時間の運動で1kgも痩せてたら、一カ月で30kg痩せる事になる。

 …そんな異常なダイエット、この世に存在するか…?



 …すっかり酔いも醒めてしまった俺の目の前に、山里さんが何かを差し出した。


「?…山里さん、コレは…?」


「夢野君…君はDDTを始めて、半月と少しと言ったよね?恐らく体重以外のステータスにも、初期値から相当変化があるんじゃないかな?」


 山里さんが差し出した物…それは、一個のリンゴだった。

 …それを見て、彼が何を言いたいのか一瞬で理解してしまった。


「例えば『力』の数値…初期値と今の数値って分かるかい?」


「…確か初期値が『6』で…今が…『45』、ですね。」


「…凄い。そうすると…元の七倍以上だね。」


 彼の視線が、テーブル上のリンゴを見る。

 …俺は無言で、右手にリンゴを持った。


 …イヤイヤイヤ、流石に…流石にソレは無いでしょ?

 確かにDDTは変なアプリだけれど…まさかぁ。


 …試しに少ぉ~し、少ぉ~しだけ力を込めて…。


「…よっ!」




 その瞬間。 

 俺の右手はリンゴを粉々に握りつぶした。




 飛び散ったリンゴの滓が、俺と山里さんの顔や服を汚す。




 しばしの間、その場で硬直してしまう俺達二人。


 …先に再起動したのは山里さんだった。


 ゆっくりとメガネに付着したリンゴ滓を拭きとりながら、重い口を開く。


「…リンゴを完全に潰すには、約75kgの握力が必要と言われているんだけど…夢野君、君の握力はそれを遥かに超越している。…十中八九、DDTのステータスが影響していると考えられる。」


「そんな…そんな事って…。」


 …じゃあ俺、知らず知らずのうちに人間辞めちゃってたってコト?

 …そんな事って有り得る?ぶっちゃけ有り得ないでしょ?


 頭の中がグルグルする…。


 俺はぼんやりと、DDTを終了する時に流れるメッセージを思い出していた。




『…お疲れ様です、夢野さん。来るべき日に備えて、明日もトレーニング頑張りましょう。』




 「来るべき日に備えて」…こんな異常な身体能力が必要になる日が来る、ってコトか?

 …一体何が起こるって言うんだよ…なぁ、DDT。

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