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33 初めて感じたもの

かなり大きな矛盾が発生してしまったため、29話目後半以降の内容(ロイとフラグが立っていることに気がつく事)を改変しました。大変申し訳ございません。今後も矛盾を見つけ次第修正していきます。ご了承ください。


疲労困憊した私がニーナをぎゅうっと思い切り抱きしめていると、ザリ、と後ろから足音がして振り返った。

「やあ、久しぶり。随分と仲がいいんだね、ニーナ」

そこには、ニーナにやけに親しげに話しかけるプラチナブロンドの髪を持った男性がいた。その人はルーク達と並んでもきっと遜色ない程に美しく、まさに絵に描いたような美形だった。

(び、美人!!というか誰…!?こんな人、キャラクターにはいなかったからゲームとは関係ないのかしら…?)

じっと私が不躾に見つめるのも構わずに、その人はこちらへ歩みを進める。

「…お、にい……さま……」

ボソリ、とニーナの声が聞こえて思わず彼女を見た。

「おにいさま!?ニーナのお兄さんなの!?」

「…えっ、あ、ええと、…はい」

彼女は私の問いに不安げに答える。そんな様子を見て、男は悲しげに美しい眉を寄せた。

「お初にお目にかかります。ダンヴィル家の次期当主、マイク・ダンヴィルと申します」

「まあ!やっぱりニーナのお兄さんなのね!」

私は新たな発見に少々テンションが上がっていた。というのも、彼女に兄がいたという設定は聞いたことが無かったのである。

(知らなかった…!兄がいたなんて!妹属性だってなんて!推しの家族構成を知ってしまったわ…!!)

「ええと、そうですね。義理の兄ではあるのですが…」

困ったように笑う彼女を見て、あ、そうか、とはっとした。

(ニーナってダンヴィル家の養子だったわね。だから微妙な顔をしているのかしら?)

ふむ、と一人で納得していると、ニーナが口を開いた。

「ところでお兄様、どうしてここに?」

「ああ、実はちょっとした急用でね。ニーナにではなく、クララ様にだけど」

「……そう、クララ様に」

彼の口からその名前が出た途端、ニーナの表情がくもった。

「そういう事ですので、僕はこれで失礼致します」

「え、ええ」

そうしてさっさと去っていくマイクを、私はただただぽかんと見送るしかなかった。




「まさかクララ様とニーナに昔から親交があったなんて思わなかったわね……」

ぼふ、と誰も見ていないのをいいことに、私はテラスのソファに倒れ込んだ。

あの後、私はニーナにそれとなく関係を聞いてみた。すると、「幼い頃から、バチュラー家の方々には良くしてもらっている、と父や兄から聞いています」とだけ答えてくれた。

親や兄と親交があるのだから、ニーナも当然多少の親交はあるはずなのだ。

(そう言えば、ニーナはクララ様のことになると途端に表情をくもらせたりしていたわね…。あまり仲は良くないのかしら)

ああ、今日は朝からあまりに多くのことが起こりすぎではないだろうか。情報量が多くてオーバーヒートしそうだ。

いや、朝から所ではない。ココ最近、夏イベント前の夢ではどうしてかロイの過去のようなものを見せられるし、朝はギスギスしているし、ニーナの家族構成も知ってしまうし──…、

「あ……れ…?」

ロイの過去のようなものの夢、そしてニーナ。その単語が妙に引っかかる。

もしかして、私は何かを忘れているのでは?

「ロイの過去、ニーナ、……ヒロイン。これは夏イベントで、メインストーリーの番外…編……で……、─あ」

カチリ、とパズルピースがはまるみたいに、“それ”を鮮明に思い出す。

──これは、ヒロインがロイの過去を夢で見て始まるストーリーの攻略ルートがあったイベントだ、と。

ドクリ、ドクリと心臓が忙しなく動き出して、冷や汗をかく。

どうしてその夢を?とか、私は悪役令嬢なのに、とか。色々な事が頭をよぎったが、何より重くのしかかったのは信じ難い事実。

(あんなにやりこんだゲームを、どうしてすんなり思い出せないの──?)

辛うじて覚えた引っかかりによって、芋づる式に思い出したこのイベント。けれど、“私”はあんなにやりこんだゲームを思い出せないわけが無いし、フラグの一つや二つ、簡単に思い出せるはずだった。それを見逃したし、忘れていた。

「……あ」

そこまで考えて、ふと気づいて思わず声を漏らした。

このイベントの時、もちろん悪役令嬢(リリアーナ)とルーク達の関係は最悪、もしくはそもそも関わりがない。今回この場に私がいるのは、言わばありえない状況なのだ。だから、来ていないどころか話題にすら登場しない。

そこから私はひとつの可能性に気づく。

「──リリアーナが存在しないイベントのことは、思い出しにくくなっている…とか?」

ゾッとした。そんな、そんなのどうしようもないじゃないか。もし何かあったとしても、私は思い出せなければ何も分からない。私の事だけじゃない。他のみんなに何かあったとしても、気づけない──…。

そうして、思い出してもなお心当たりのない存在が余計に不安を煽る。彼は、ニーナの兄は、やはりこのイベントにはいないはずなのに。

自分の知らない所で予測不可能なことが起きている。

今までもシナリオと違うことが度々起きたが、ここまで取り乱したことなど無かったのに、私は何故か今とても動揺していた。どうしてか、悪意や死亡フラグの迫る感覚がこれまでにないくらい感じられた。

「──リリアーナ」

「っ!!」

突然背後から呼ばれた。びくりと大きく肩を揺らして振り向くと、視界の端に見慣れた金髪を捉えて、今一番会いたい人がよぎる。

「…あ、ロイ……様…?」

「おい、そんなあからさまにガッカリした顔をするな」

「え、まさかそんなこと、」

「ある。思っている以上に分かりやすいからな、お前」

ロイは髪を風になびかせながら呆れた様に言って、暖かな手で頭を撫でてきた。それには悪意のない純粋な優しさのようなものを感じられた。

「…何なさるんです」

「らしくない顔をしていただろう。何をそこまで追い詰められているかは知らんが、そう全てを抱え込むものじゃないぞ」

「……あなたがそれを仰いますか」

「うるさい」

ぐしゃ、と荒く撫でられて思わず「ぎゃっ!」と声を上げた。

「ちょっとロイ様!」

「弱ったお前はなかなか見れないから物珍しいな」

「〜〜〜!!」

人が真剣に悩んでいると言うのに!とジト目で睨みつけると、ぱっと手が離された。

「──まあ、そうやっていつも通りでいた方がずっといいな」

ふん、とそう言って踵を返す彼を見ておや、と気づく。

「心配されていたのですか?」

「………言わなくていいことが分からないのか、お前」

「ぐっちゃぐちゃにしてきた仕返しです」

耳を赤くしながら睨まれてもちっとも怖くない。私はいつの間にか先程の恐怖心も忘れて笑っていた。


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