表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/220

召喚失敗勇者と契約

 ベロニカが入って行ったのは、全体が板張りの少し質素に感じてしまう部屋だった。

 正面には祭壇のような物が鎮座し円形の鏡が一つ置いてあった。

 ただ、この部屋は外とは格段に何かが違う――何より空気が外とは段違いで何故か気が引き締まるような感じとそれでいて落ち着くような気がした。

「どうぞこちらへ」

 声がした方に振り向くと、そこには上下とも真っ白な衣装を着た老齢な男性が凛とした立ち姿でベロニカを見ていた。

 その老人はきびきびとした足取りでベロニカを案内し、祭壇の正面から少し外れた位置に座るように促す。

 ベロニカは男性とこの神殿の雰囲気に呑まれ、指示に従いその場に座った。

 男性は祭壇で何かをした後振り返り、ベロニカへと向き直る。

「それではタケミカヅチ神をお呼びいたします。頭を下げてお待ちください」


 その男性はしっかりした口調でベロニカに話しかけ、力強くそしてどこか穏やかなその黒い瞳に見つめられ、男性の指示どおりに頭をさげるのだった。 


 そして、神呼びの儀式が始まった。




 アメトリンが取り出した宝石の様に透き通る球体は美しく、それを持つ者も相まって本物の宝石の様だった。


「その通り! これは宝石だよ! しかもこの世に存在するはずのない大きさと透明度だから、売ったら大金持ち確定だね! やったね、シクラは一生遊んで暮らせるお金を手に入れた」


「――おい、また勝手に思考を読んだな」


「……気にすんな! 」


アメトリンはニヤリと口角を上げた後開き直って胸を張る。

 揺れる二つの物に視線が一瞬行ってしまったのは男としてのサガなのだが、その視線に気が付いたアメトリンは何か言いたそうだったがガーネットがいる事を思い出して思いとどまった様だ。


「というかそんな貴重なもん売ったら命を狙われそうなんだが」


「HAHAHA! シクラならその辺の暗殺者なんて余裕で倒せるから問題なし! そして、他にも宝石を持ってないか盗みに来たり襲いに来た奴らをすべて返り討ちにして、最後に魔王って呼ばれ――ギニャア


 あまりにもふざけていたのでガーネットからお仕置きのチョップが顔面にプレゼントされ、アメトリンつぶれた猫の様な悲鳴を上げている。

 さっきは一瞬思いとどまったのにあほな奴だ……神だけど。

 

「っで、その宝石はいったいなんなんだ」


「ふふん。これは私の神力で生み出した宝石――というよりも神石かな? これをもって私に来てって願えばあら不思議、アメトリン神降臨で――ギャフン!」


 あほな事を言っているあほの子に、隣にいるガーネットから今度は拳骨がプレゼントされた。

 さっきとは違い今回は結構痛かったようで、頭を押さえながら蹲る様に屈んでいる。


 本当に残念女神だな。

 

「……そろそろ真面目に話してくれないかしら? 」


「ヒッィイイ! ごめんなさい!」


 表情だけは笑顔なのに背後に般若の顔が見えるかの様なガーネットに怒られ、アメトリンは真面目に宝石について話始めて。


 ……とはいってもさっきの話は本当のようで、あの美しい神石に魔力を込めるとアメトリンと会話が可能になるらしく、いざとなったら本当に顕現するつもりだったようだ。

 そのことにガーネットと俺は頭を抱え、アメトリン自身が顕現する事がどれほど危険な事なのかを説明しようとしたのだが。


「あー、大丈夫だって。ほら、ほら私って浄化の女神でしょ? 一瞬程度なら外に出てもすぐに戻れば汚染も最小限に抑えられるわよ。それに、私ってば浄化の神様だから数分なら普通に顕現することできるしー、もし悪魔になったって思考誘導くらいはできるんだからねー」


「そうだとしてもよ、今のこの世界には七神しかいない事になっているのだから、確実に六神の内三神には目を付けられるわよ。最悪、このダンジョンに討伐隊を送られかねないわよ」


「ふふん。それは問題ないわ!」


 アメトリンがいくら浄化の神とは言っても、流石に世界中の旧神の全てを悪魔と化した五神の呪縛からはそうそう逃げられないと思うのだが、本人はかなり自信がある様子だ。

 それに、ガーネットが言っている討伐隊と言うのは極端だとは思うが、そもそも俺は七神の性格などを知っているわけではないので二人の会話に口を挟むことなく成り行きを見守ってみる。

 ……それにまあ、アメトリン自身があるのは入り口の門をこの世界の人では開けることが出来ず、ダンジョンに攻め込むのは無理だと思っているからだろう。

 

 この世界には漫画という物は無く、好きな漫画のタイトルを述べよという問いが答えられないと思ったからだ。

 それ以前にこの世界には未だ活版印刷すら無いらしく、人の手で写本している現状で本自体がかなり高価な物らしい。

 勇者が何度も召喚されているのにこの状況なのはおかしいと思うのだが、セクメトリーが俺にかけたように代々の勇者には帰還したがるように洗脳しているからなんだろうな。


 ただ、初期の頃の勇者は洗脳されていなかったのか、ウグジマシカでは味噌や醤油などもが伝わっているみたいだし、イオリゲン王国の初代国王も元勇者だという。

 恐らく何らかの理由で勇者達を残したくない事があり、そこから召喚時に洗脳やらなんやらを始めたんだと思う。


 その後も、アメトリンとガーネットは色々と言い合ってはいたが、結局ガーネットが折れて俺が神石を持って行くことになった。


「一応受け取っておくけど、よっぽどの事態じゃなければ使うつもりはないからね」


「えー、召喚しなくてもこれがあればお話しできるんだからたまには使ってよー。じゃないと寂しくて顕現しちゃうんだから!」


「絶対にやめなさいよ。ただシクラ、たまにで良いから状況を報告してくれるとありがたいわ。流石に私は出ていくことは出来ないけど、これがあればアメトリンを中継して私と話す事も出来るから困ったことが合ったら使いなさい」


「わかったよ。その時は頼りにさせてもらうよ」


 俺は受け取った神石をアイテムボックスへと収納し、その後二人とお茶をしながら今後の打ち合わせと雑談した後、鉄の盾の皆が待っているダンジョンへと戻って行った。

 

 アメトリンは最後までふざけた感じで「あたしと話したくて寂しくなったらいつでも呼ぶんだよー!」などと言っていたが、ふざけた口調とは違い少し心配そうな瞳で俺を見つめていたのに気が付く。

 ……旧神で現状自我が保てているのはアメトリンとガーネットのみ。

 もしかしたら他にもいる可能性はあるけど、数百年もの間どの神とも会う事が出来ない状況を考えれば、他の神々はすべて悪魔と化していると思っても過言ではない。

 そして、その神々を救う事が出来るタケミカヅチ様とこの二神を繋ぐ事が出来るのは、恐らくこの世界で俺だけだろう。

 そんな状況の中、他の神々の邪魔が入る可能性もあるだろうから心配してくれているのだろう。


 ガーネットはアメトリン程は心配していないようで「シクラなら問題ないと思うけど、あの力にだけは気を付けなさい」と言って見送ってくれた。

 まあ、ガーネットとは俺の剣の勇者としての力を封印する力を貸してもらっているので、ある程度は俺の状況が感じ取れるのでみたいだし一緒に特訓もしたこともあるので、ある程度俺の力もわかっているからあまり心配していないみたい。

 ただ、封印を何らかの理由で完全に破ってしまった場合、再度洗脳がかかることやセクメトリーへ情報が漏れてしまう事が心配要素ではあるのだが、これも俺自身が封印を解除するか神々クラスが直接解除に来なければ破ることはできないので問題ないだろう。



 そして俺法は現状のタケミカヅチ神の魔法の勇者の力で問題なく、というか過剰に力があるのでドラゴンや軍隊が襲ってこなければ問題ないだろう。

 鉄の盾の皆は対人戦になったらどの程度戦えるか分からないけど、冒険者の依頼に護衛などの盗賊と戦う事があるからある程度は戦えるとは思う。

 まあ、そう言ったことが起こらないのが一番なんだけどね。


 旅たちに少しの不安を抱きつつも、皆が待つキャンプ地へと戻って行く……道中の魔物を瞬殺しながら。




「トマお帰り~」

「トマさんお帰りなさい」


「ただいま」


 キャンプ地に着いた俺を出迎えてくれたのは、マリアとルーシーの二人だった。

 二人は風呂に入っていたグランツ達と代わって現在見張りをしているとの事だった。

 

「今日はどうだったの?」


「その事なんだけど、後で皆に話があるんだ」


「……そう。話をするときには呼んでね」


 マリアは俺が何処に行って誰と話をしていたか知っているので、やはり内容が気になるようだ。

 俺の言葉に平静を装ってはいるが何か感じたのか、一瞬言葉が詰まったように思えた。


 流石にルーシーが居る状況では話すことはできないし、マリアにだけ先に話すのも憚られる為、俺は手を振りつつキャンプ地の中へと入って行く。


 グランツ達は既に風呂から上がっていたようで、テーブルの所でイザベルとエリクと一緒に茶を飲んでいる様だった。

 和気あいあいとしてテーブルを囲んでいる姿は、傍から見たら家族に見えなくもない感じだ。

 まあ、流石に家族と言うには歳が近い気もするけど、歳の割りに身長が低いエリクだとそう見えてしまうんだよね。



「おう! 帰ってきた」

「あら、お帰りなさい」

「あ、トマさん! お戻りになったんですね」


「みんなただいま」


 俺に気が付いたグランツが声を掛けると、二人も俺に気が付きお帰りと言ってくれる。

 挨拶を返した後、俺はグランツに近づいて耳元で小さな声で「後で話がある」と伝えた。


 動揺することなく小さく頷くグランツは、視線でイザベルにも伝え彼女も俺へ小さく頷いた。


「あ、あの……」

「なんでもねぇよ! そんな事より、さっきの話の続きを教えろよ。トマは先に風呂に入ってきちまえよ」


 エリクが何があったのかと少しおどおどしていいたが、グランツが頭をガシガシと力強く撫でていた。

 少し腑に落ちない様子のエリクだが、流石に突っ込んで聞いてくることは無かった。



 俺は「それじゃあ風呂行って来る」と告げ、その場を後にした。


 ……因みに風呂に入った瞬間の俺は「ひぃぃいい! 冷てー!!!」と、冷めた風呂に突っ込んで叫び声を上げていた。



 一度上がって温めなおした風呂に浸かりながら何を話すか少し整理してみる。


 まずグランツ達は俺の正体と五柱以外の神と繋がりがある事を知っていて、ガーネットとアメトリンに直接会ったことがある。

 これには今ここに居ないアシュリーとコンラートも含まれるが、皆がそのことを漏らすことは無いと考えている。

 数ヶ月ではあるが一緒に冒険者としてパーティを組み、様々な事を一緒にやって行ったことを考えるとわざわざ誰かに伝えたりはしないだろう。


 ウグジマシカ神聖国までの問題と言えば、陸路か海路で行くかの問題もあるがそれ以上に他神の邪魔が入るかどうか言う事もあるが……アメトリンとガーネットからはセクメトリー以外では後二柱が要注意のようだが……。

 今の段階ならどちらにも不利益を出していないから見逃してくれないかな?


 セクメトリーは俺に神力の一部――通常より弱体化した剣の勇者の力――を俺に渡しているから目を付けられてそうだけど、第二神でこの世界の神を悪魔に変えたハイペリカムにはまだ流石に敵対されてはいないと思う。

 注意は必要だとは思うけど、ハイペリカムの中央神殿があるのはイオリゲン王国の北側の国で、ウグジマシカ神聖国とイオリゲン王国の双方に隣接している地域なのでこの辺りには信徒は少ないと思うしね。


 ただまあ、この世界での移動は中々危険なものがある事は確かだが、貿易などをしていることもあるのでどこに誰が居るか分からないから注意は必要かな?


 特に……


「アイリスと遭遇するのが一番厄介かな」


 アイリスは勇者フェチのイオリゲン王国に召喚された時に従者として付いた女の子で、前勇者であるアカリと共に魔王討伐にも参加したらしい。

 ただ、ハンナさんや他の従者と違い相変わらずセクメトリーを信仰しているようで、前の俺同様に彼女も洗脳されている可能性が高い。

 洗脳されていなくても遭遇した場合セクメトリーに場所がばれてしまうだろう。


 これはガーネットから指摘されてたことだが、ガーネットも意識を向ければ俺が今どのような状態なのかわかり、逆に俺が本気で助けを求めて居たりした場合は向こうも感じ取れたりするらしい。

 

 その危険性が在る為、アイリスとは会う事は出来る限り避けなければならない。

 まあ他にも……。


「もしマリアと一緒の時にでも遭遇したら、何を言ってくることやら……」


 それに、マリアに何を言われるか分からないからな。


「それに……よっぽど大丈夫だとは思うけど、皆が付いて来てくれるかどうか……」


 一番重要な旅をする仲間が鉄の盾の皆であれば頼もしいし、何よりうれしいからな。

 

 そんなことを考えながら、俺は最後になるであろうダンジョンでの風呂を満喫していた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ