気遣いの授受 4
その後も地区内の散策は続き、時刻は日が暮れ夜になった頃………
住処へと戻った彼等は、その日の成果を確認した後突入前の晩餐会と作戦会議となった。
「……じゃあ、今日集めた流星石はそのための物だったのか。」
その日までに集まった流星石を見て、ハンメルは事の経緯を知った。初めて告げられる事に驚く皆であったが、ストレンジャーは静かに考えていた事を彼等にも説明した。
「あぁ…… なるべく多くの流星石が必要だったから、皆に手分けして探してもらった次第た。完成すれば、移動は楽になる。」
「その上、残ったのは俺達の攻撃手段ってか。中々良い事考えるじゃねぇか!」
結果的に移動が楽になり、なおかつ自身の攻撃手段が増える事に利点を覚えたのか。クロは歓喜しながらガッツポーズを取っていた。彼女につられて皆も口々に良い事だと良い、黙っていた事に対しては何の非難も無かった。
彼等の様子を見てアルダートは笑顔でストレンジャーを見て、一足先に調合に取り掛かろうと流星石を見だした。
「……でもすげーよなー アルダートにそんな特技があったなんてさ。」
その後晩餐会となった事もあり、個々で集まって食事会となった。食べる物は以前と変わらないものの、それでも賑わいだけは一流の空間が広がっていた。
「私達と一緒に居た時は、引っ込み思案な所が多くて。あまり自分のやりたい事も、自主的にやるって言わなかったんですよ。」
「……そうだったのか。」
「その辺の変化は、やっぱりストレンジャーの影響なんだろうな。ありがとな! 俺達の友達を護ってくれてさ。」
「……… ……礼を言うのは、こっちの方だ。アルダートのおかげで、俺にも道が開けたような気がする。皆の望む街に、また戻ると良いな。」
「おうっ!」
不意に昔のアルダートの事をベルミリオンは話しだし、一緒に住んでいた頃とは違うと言っていた。その変化にはストレンジャー自身も気づいており、彼の影響だと言うミークに対し軽く受け止めつつも自分も変わった事を彼等に告げた。そのため礼を言われる程の事はしていないと言い、街が元に戻ると良いなと彼等に告げた。
「でも良いわよねー アタシなんて飛ばされたの学業地区よ!? もー遊んで居られない場所なんて御免だわ!」
「何時もギャンブルに手を出し過ぎてたからでしょ。真面目にしなさいって事なんじゃないの?」
「やーよ。自由が一番っ」
その後ペルティが女子トークを開始し、ベルミリオンを巻き込んで愚痴っていた。何時しかバラバラの地区へと分けられてしまった皆は、主に『飛ばされた』と認識し新たな場所で行動をしていた。正確な移動の経緯は彼等の記憶には無く、そう思い込んでしまっていると言った方が正しいだろう。
どのような力で記憶を書き換えられたのか、それは彼等も知らない。
『………』
『……… ……またか。』
そんな女子トークの始まった空間を見ていると、不意にストレンジャーは再びやって来た気配を感じた。今度は悟るも左程慌てる事無く何処から来ているかを確認し、入り口付近に居るのであろうと悟った。周りの様子を見た後、彼は隣に居たミークに声をかけた。
「……悪い、ミーク。少しだけ、席を外すぜ。」
「ぁ、ぉ……おう。」
軽く盛り上がっている雰囲気を見ていたストレンジャーはミークにそう言い、その場を後にし外へと出て行ってしまった。楽しげに話す事はあっても雰囲気からしてよりがたい事もあってか、ミークは特に何も言わずに彼の後姿を見送っていた。
『……やっぱり、まだ仲良くなれる雰囲気じゃねぇよな……… アルダートが信頼する理由はわかるけど、俺が言った事にも問題はあるか。』
少しだけ仲良くなれたと思った様だったが、彼の雰囲気を見るたびにミークはそう思うのだった。
「………」
一人夜空の広がる外へと出てきたストレンジャーは、外に居た一人の存在の元へと向かって行った。
誰とも干渉せず、ここまで一人でやってきた存在。それは、ぼうくんだった。
「……君は誰だ。こんな所に来て。」
「………」
さほど干渉はしていなかったが、彼の事を少しばかり聞いていた様子でストレンジャーは彼に問いかけた。しかし彼は特に返事はせず、静かにストレンジャーの事を見つめ持っていた物を彼に手渡した。それは、今まで見た事のないデザインの流星石だった。
「これを、お前に託したい。……俺の事を必死になって守ってくれたアイツから、託された物だ。」
「………」
親身な目で見つめていたぼうくんが言った言葉を聞きつつ、ストレンジャーは特に何も言わずにその瓶を受け取った。華やかな装飾の施された瓶であり、どんな効力があるのかは彼にはわからない様子だった。
「俺はもうあの集団に入るつもりはないから、行くつもりもない。……でも、アイツが気にしていた相手に一番近づけるって思う、お前なら……… ……願いの代行を、してくれるって思った。」
静かに何も言わずに受け取ってくれた事を確認すると、ぼうくんはそう言いつつ少しだけ笑顔を彼に見せていた。元より笑顔になる事が少なかった彼にとって、それは貴重な光景でもあった。
しかし事情をよく知らないストレンジャーは軽く彼と流星石を見比べた後、彼にそっと聞いてみた。
「……託された相手っていうのは、クラウの事か。」
「……… あぁ……」
「そうか……」
問いかけに対し答えてもらうと、ストレンジャーは納得したように瓶をポケットの中に入れた。託された相手が誰なのかを知っただけで、瓶の効力が分かった様子だった。その後一度手を差出し、彼と握手をすることを求めた。
「君と彼の願い、叶えよう……… ……明日出発するが、クラウは無事か………?」
「………」
「そうか……… ……お前はどうするんだ、この後。」
そして彼からの返事を聞きつつ、彼は特に手を差し出して貰えない事を認識し静かに手を下した。とはいえ頼まれた願いを叶えないつもりはない様子で、彼はいつも通りの表情でそう答えこの後どうするのかを問いかけた。
「もう一度アイツの所へ行って、そばに居るつもりだ。……ずっと待っててくれたから、俺もずっとそばに居てやりたいんだ………」
「分かった。」
その後彼からの返事を聞いた後、ぼうくんはもう話す事は無い様子で彼に背を向けその場を去って行ってしまった。軽く後姿を見守りつつ、ストレンジャーは再度しまった流星石を取り出した。
特に説明は受けなかったが、どんな力があるのかを把握し軽く目を閉じた。
『クラウ……… ……お前と彼の意志、聞き届けたぜ………』
まるでそこに彼が居るかのように心の中でつぶやくと、彼は瓶を再びしまい空を見上げた。空には綺麗な満月が浮かんでおり、静かに希望が戻りつつある街を照らしていた。
外でのやり取りを終えると、ストレンジャーは静かに仮住まいの中へと戻ってきた。その後賑やかに晩餐会を続ける皆を横目に、静かに流星石の山に囲まれたアルダートの元へと移動した。彼は軽く食べられる飴玉を口にしながら流星石を見比べており、本気で力になりたいと言わんばかりの行動をしていた。
そのため、少々食卓らしくない食事風景である。
「……アルダート、少し良いか。」
「? ぁっ、ストレンジャーさん。ごめんなさい、まだ少し僕の知識が薄いみたいで…… 形は造れても、空を飛ぶとなると難しいみたいです。」
「そうなのか……」
そんな彼の元へと移動すると、アルダートは笑顔で彼に現状報告をした。先ほどから作業を続けて完成した流星石は何個か存在するも、彼等の必要としている力には到底及ばない物ばかりの様だ。
出来上がった試作品をいくつか彼に見せるも、まだ出来ていない事を正直に彼は言った。
「……その事なんだが、アルダート。……驚かずに、聞いてほしい。」
「どうか………したんですか?」
「……… これを、見てもらえるか。」
彼が頑張って期待に応えようとしている事を知り終えると、ストレンジャーは事前に驚かない様一言言い彼に要件を伝えた。いきなり何を言い出すのかと身構えるアルダートの前に差し出されたのは、先ほどぼうくんから受け取った特殊な流星石だった。
今まで見た事のある流星石達とは違い、華美な模様に瓶のデザインも見た事のない特殊な代物だった。手渡された流星石を受け取り、アルダートは何の流星石なのだろうと検討した。そして、何かを察した様子で彼を見た。
「あの、これって……もしかして。」
「……恐らく、あの時クラウが使っていた流星石だ。俺の知らない彼等の友人が、持ってきてくれた。………クラウは、負けてしまったらしい。」
「そんなっ……!! クラウ……さんが………」
「………」
嫌な予感がした事に、アルダートは現実から背くように彼に言葉を求めた。自分の考えている事が幻想であってほしい、そんな事が嘘であってほしい。大切だと感じた相手の死などを、そう簡単には受け入れられないのだ。
そんなアルダートの心境を知り、ストレンジャーは言い難そうに静かに彼に告げた。すると彼は目に涙を浮かべだし、流星石を力強く抱きしめた。
それだけ、彼の事が大好きだったのだろう。死んで欲しく、なかったのだろう。
溜め込んだ涙は目から零れだし、彼はとうとう泣き出してしまった。
「ぅっ……えぐっ……… クラウ……さん………」
「………」
「クラウさん……… 僕、貴方の期待に……応えられるようになりたかった……… ストレンジャーさんの為にも、クラウさんのためにも…… 僕、もう一度貴方に笑って欲しかった………!!」
「アルダート………」
途切れ途切れに言葉を口にするも、それだけでは抑えきれない様子でアルダートは泣き続けた。敵だと解っても、彼等は敵と認識しなかった管理課の存在『藍髪の獣人・クラウ』 優しい心を持っていた彼には、何があっても生きて欲しかったのだろう。アルダートはただただ泣き続け、手にした流星石を話そうとはしなかった。
そんな彼を見て、ストレンジャーは悪い事を言ってしまったと後悔しながら、彼の名前を呼んだ。するとアルダートは目に涙を浮かべ泣かない様頑張るも、彼の顔を見た途端再び泣き出してしまった。そして彼の身体にすがり付き、再び泣き出した。
「ぅゎああああっ……! ストレンジャーさぁああーーーん!!!」
「………」
「僕……こんなの嫌です……!!! クラウさんが、クラウさんが………!! えぇえーーんん………!!」
『アルダート……… ……ゴメンな。』
泣きながら嘆く彼を見て、ストレンジャーはただ彼の事を落ち着かせる事しか出来ずにいた。どんなに言葉をかけても、どんなに優しく接しても、今の彼の心を解放してあげる事が出来ない。そう感じた様子で背中を撫で、彼の零れた涙が身体を伝っても、決して彼の身体を離そうとはしなかった。
そして彼は、自分の言った言葉に後悔をしていた。
またアルダートを、泣かせてしまった。
そう想い続け、彼が泣き止むまで背中を撫でる事しか出来なかった………




