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020 エストさんの修行

 帰りのホームルームが終わるやいなや、アツシが話かけてきた。




「リア充のタツヤ君じゃないですか~! 昨日もネトゲにログインしないで、マリナ先輩と何やってたんだよっ!」


「何って、先輩の紹介でヨガ同好会に入っただけだよ」


「なんだって! お前がヨガ同好会に入れただって!?」




 アツシは大層驚いた様子で、机をバンと叩いた。




「ヨガ同好会といえば我が校三代巨乳の一人、佐々木ヒロコ先輩が会長を務める魅惑の同好会じゃないかっ! 一体何人の男子生徒が入部を志して断られて来たことか……。マリナ先輩に続いてヒロコ先輩とまでその毒牙にかけるつもりか貴様はっ!」


「毒牙って、人をなんだと思ってるんだよ!」


「上級生の女生徒とヨガ三昧なんて酷いぞこの野郎!」




 このバカは放っておいてはやいところ部室にいかないと、マリナ先輩を待たせる訳にはいかないな。




「すまんがアツシ、俺はそろそろいかねばならない」


「どこへだっ!?」


「ヨガ愛好会の部室だ」


「この野郎! 貴様のネトゲへの愛はその程度だったのか! ログインボーナスはどうしたんだ!」


「ログインだけはしてるんだぜ。学校へ来る前にな!」


「それなら俺が言うことは何もない。いっちまえよこの野郎」




 多少後味が悪いが、アツシを置いて教室を後にする。


 ネトゲよりダンジョン攻略部だ。






* * *






 ヨガ愛好会のドアを開けると、不機嫌そうな顔でマリナ先輩がヨガマットに腰掛けていた。




「遅いわっ! 十分遅刻よっ!」


「同級生に捕まってしまって、すみません」


「今回は多めに見るけど、次に遅刻したらお仕置きなんだからっ!」




 先輩からのお仕置きってどんなだろう。


 ムチで叩かれたりしちゃうんだろうか。


 俺にはマゾの毛はないが、先輩からのムチなら興奮することが出来てもおかしくはない。




「アンタ、エッチな事考えてない?」


「いっ!? か、かんがえてないですよ!」


「鼻の下伸ばして、怪しいのよねっ! さっさとヨガマットに座りなさいっ! 時間が勿体無いわっ!」



 

 先輩は変な所で鋭いのが恐い。


 俺は慌ててヨガマットに腰掛けて、胡座をかいた。


 その瞬間、視界がぐるぐるぐる回りだす。


 そのまま意識は吸い込まれていった。





* * *





 指輪の中に降り立つやいなや、現れた光景に息を呑む。


 目の前には巨大な木製の門が立ちふさがっていた。


 門からは高さ三メートルほどの木製の柵が伸びており、その周りをぐるっと深さ五メートルはあろう掘りが囲っていた。




「耳長族とスケルトン達、しっかり働いてるみたいじゃないのっ!」


「しかしこれは、驚きましたよ」


「あれはタツヤさん達じゃないか! おーい、門を開けろー!」




 見張り櫓に昇っていた耳長族が俺と先輩に気付いたようで、門が開かれる。


 門の扉は前方へと倒れるように開き、そのまま掘りを越えられる橋になった。


 開いた門の先にはスケルトンジェネラルが立っている。


 俺と先輩を認識するなり、跪いて頭を垂れた。




「門番てやつでしょうか? なかなか様になってますね」


「いい感じじゃないのっ! ジェネ蔵、楽にしなさいっ!」




 先輩の言葉にスケルトンジェネレルは立ち上がった。


 ていうかジェネ蔵ってそんな名前つける気ですか!?


 言葉に出せば藪蛇は間違いないので、黙っておくことにした。




 門の内側は広々としていたが、おなじみのレミー魔法商店の横にこじんまりとした建物が一つと、恐らく宿舎であろう細長い建物が立っている。


 近寄ってみれば、エスト治療院という看板がついていた。




「先輩! エストさんの治療院がありますよ!」


「レミーに修行をお願いしていたから、レベルが上がったのねっ! 早速いってみましょうっ!」




 先輩と二人で勢いよく扉を開く。




「エストっ!」


「エストさんっ!」




 しかし、エストさんからの返事はない。


 聞こえてきた声は、ベッドで横になるエトールさんのものだった。




「これはタツヤさんにマリナさん。お久しぶりです」


「エトールっ! 元気にしてたっ!?」


「この通り、怪我は治っていませんが命に別状はありませんよ」




 にこやかに返事をするエトールさんだったが、その表情が暗いものへと変わっていく。




「実は、エストがレミー様に修行をつけて貰うとダンジョンへ行ったきり、戻って来ないんです」


「なんですって!」


「この治療院は耳長族の仲間がエストが戻ってきたら驚かせようと作ってくれたのですが、妹がいつ戻ってくるのか心配で心配で……」


「一体どのくらい待ってるんですか?」


「お二人が帰られた次の日にダンジョンへ向かったので、もう一月以上経っているんです。お願いです、レミー様とエストを探して来てもらえませんか?」


「わかったわっ! タツヤ、探しに行くわよっ!」


「はい!」



 

 先輩と治療院を後にする。




「でも先輩、ダンジョンってどこのダンジョンなんでしょうか?」


「アンタも初めて入ったのは、レミーのダンジョンだったでしょ!」




 そう言って先輩は、レミー魔法商店へと入っていく。




「私達が初めてこの要塞にきた時、レミーは魔法商店の奥から出てきたわっ! ということは……」




 先輩がレミー魔法商店の奥へと繋がる扉を開く。


 ソコには小さなベッドと、紙の束が散らばったテーブル、地下への階段に、石で出来た扉があった。


 迷うことなく石性の扉を勢い良く開け放つ。




 扉を抜ければ、俺と先輩がリッチと戦った墓地へとワープしていた。




「二人がいたわよっ!」




 先輩が指差す方向では、リッチ形態のレミーとエリスさんが睨み合っている。


 俺が二人に駆け寄ろうとした所で、先輩に止められる。




「修行の最終局面よ。黙って見守りましょうっ!」




 先輩の言葉にうなずき、二人の闘いを見守る事にした。

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