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ビターチョコとストロベリー  作者: 須谷
番外編
40/40

久瑠実と旅行に行った日

最終話となります。

更新遅れてしまい申し訳ありませんでした!

久瑠実と同居(同棲?)を始めてから、一度旅行に行きたいという話をしていた。

「映子ちゃん、私京都に行ってみたいな。」

 あたしの前ではすっかりため口に慣れた久瑠実が、突然言い出した。

 京都…というと、寺とか神社とか、観光名所がたくさんあるよな。でも何故、京都。

「なんで京都なんだ?」

「伏見稲荷大社というところに行ってみたくて。あの…鳥居がいっぱいあるところ。」

 そういえば前返ってきたときに久瑠実がそんな感じの特集を見ていた気がする。それで行きたくなったのかな?

「じゃあ今度の休みに行こう!3日間ぐらい。」

「休みは取れるの?」

 今は映像の仕事がないので、休みはとりやすい。写真なら、成人したし徹夜でやってもいいのである。

「大丈夫。日とかほかに行きたいところきめといてくれ。」

「うん、ありがとう映子ちゃん!」


 そんなこんなであたしたちは京都に上陸することになった。

 あたしは前に撮影できたことがあるが、久瑠実は初めてだ。あたしだって、行きたいところに行ったわけではないから初めてみたいなものだ。

 すごく楽しみなのに変わりはない。

 それに何と言っても、この旅行は久瑠実との初旅行だ。ここまで遠くに来るのは初めてなのである。

 だからより一層楽しみなのである。

 

 あたしたちは新幹線に乗るために、まず東京駅へ向かった。

 最寄駅から数十分電車に揺られたら、もう到着だ。

「東京駅に来たの初めてかもしれない…!」

「そうだな、あたしもだ。」

 だいたい移動は車だ。遠くに行くときは飛行機に放り込まれることの方が多いし、新幹線もなんでかしらないけど品川からのることが多いから。

あたしも東京は駅は初めてだ。

「思ったよりも人多いね…。平日なのに…。映子ちゃん、変装ちゃんとしてきてよかったね~。」

 そう。あたしは今かなり人に紛れる服装をしている。もともと背が高いからヒールをはいたらかなり背が高く見えてしまうわけだが、それを避けて今日は久瑠実がこの前買ってきてくれたスニーカーである。

 服も雑誌の撮影の時は絶対着ないような、今はやりのおとなしめの服だ。

 もちろんプロデュースは久瑠実が担当している。

「本当だな…こんなに人が多いとは。」

「京都は…どうだろう?…まあ、平日だからそんなにいないかな?」

 今日は平日。明日も平日、明後日も平日。

 久瑠実が“コネ”で平日に休みを取ったみたいだ。休みにはならないらしい。何が起こったのかはわからないが探ろうとは思わない。怖い。

「そうだな、多分そんなにいないだろう。」

「楽しみだね!旅行…!」

「そうだな~!」 

 そういってあたしたちは新幹線のホームに向かった。

 

 新幹線に乗り込み、指定席に座る。

 もちろん二人席でとなり同士だ。

「なんかこうやって特急電車に乗っていると、高校の修学旅行を思い出すね…。」

 高校の修学旅行といえば。あたしたちは国内だったな。

 2年生の終わりに、新幹線に乗って九州まで行って観光をした。

 あたしも五十嵐さんに無理を言って参加させてもらったが、とても楽しかったのを覚えている。 

 高校生ぐらいだと外国に行きたいと思う人も多いのかもしれないが、国内は値段も手軽だし自分の国のことを知れるしいいと思う。

 初めて言った九州地方は、東京とはまた違った雰囲気があってとても楽しかった。久瑠実とも同じ班だったし余計にな。

 鹿児島からだんだん上に上がっていく修学旅行はかなりおもしろくて充実したものだったと思う。

「懐かしいな。修学旅行。もう大分昔のことみたいだ。」

「懐かしく思っても無理ないよ。私たちもう20だよ?」

 あたしはまだ19だが、久瑠実はあたしより誕生日が早いから、もう20歳だ。

 久瑠実は大学2年生ということになる。

 修学旅行に行ったときは17だったから…もう3年か。

「確かに結構たってるな…もうじき3年たつぞ…。」

「そうだね。こうやって懐かしんでいると年取ったことダイレクトに感じちゃう。」

 久瑠実はそういって笑った。

 たしかに、年取ったなって思ってしまうけれど、あたしは別に悪いことだとは思わない。幼いころとまた違った感じを紙面に出して行きたいと思っている。

 というか、久瑠実は年を取ったとか言っているが相変わらず童顔だし、年齢相応には見えないぞ?もう十代そのもの。

「久瑠実別にそんな顔変わってないじゃん…。絶対20には見えないから安心しろよ。」

「そうかな~?映子ちゃんがそういうならそうなのかな…。」

 自分に自信がないような久瑠実。

 いやぁ少なくともあたしよりは若く見えると思うけどな。あたしなんか高校生の時点で大人扱いだから。

 その点久瑠実が結構うらやましかったりするわけだ。

「あたしなんか高校生に見られたことねぇしな…。」

「いつも大人向けブランドのモデルばかりだったもんね。おかげで値段が…。」

 高いの多かった…とぼそりとつぶやく久瑠実。確かにめちゃくちゃ高い雑誌とか有った気がする。まぁあたしの給料は高いから万々歳なんだけどな。

「なんか申し訳なくなるな。」

「いいんだよ。ほかに欲しいものなんて何もなかったんだし。」

 中学生のころから愛されちゃってるなぁと思う。


 東京で新幹線に乗ってから2時間と少しで、京都駅に着いた。

「ついたな~京都…。」

「だね~。ここからは関西弁というか京都弁地域だよ。」

 関西弁と京都弁って何が違うのだろう…。舞妓さんとかが使っているのが京都弁?

「何が違うんだ?その京都弁って。」

「京都弁の方がおしとやかなんだって。実際綺麗に聞こえるしね。」

 そういうものなのか。まぁ関東人が関西弁なんか使った時には違和感満載で馬鹿にしているようにしかならないから、わざわざ使ったりはしない。

「へぇー、詳しいな?」

「暇な時はテレビを流し見しながら勉強してるから。いろんな情報が入ってくるの。」

 そういうものなのか?…あたしにはながら勉強なんて高度すぎてできないけどな。

 さすが久瑠実といったところ。

「そう、今日はどこに行くんだ?」

「伏見稲荷はたっぷり時間を取りたいから、今日は金閣寺とかその辺に行くつもりだよ。」

 金閣寺といえば有名な寺だな。本当に金色なのだろうか…それを実際に見れるという事か!

 来てよかった。京都。

 そして久瑠実プロデュースに間違いはないから、もうなんというか安心感。

「金閣寺にはどうやって行くんだ?」

「バスが出ているはず!」

 はじめてきたはずなのに、何とも頼りになる久瑠実さんである。


 バスで40分程度ゆられ金閣寺へ。外からはあの金色の建物を見ることはできない。

 入場券を購入して、中に入る。

 少し歩くと、あの金色の建物があたしたちを出迎えてくれた。

「本当に金色だ!すごい!」

 感動してしまった。京都に住んでいる人はあんまり来ないと聞いたことがあるけど、ここは一度着たら面白いと思う。

「きれい…。」

 今日は晴天。金色がより映えて見える気がする。

「そういや映子ちゃん。自撮りとかしないの?」

「なんで~?」

「だって最近、五十嵐さんに強制的にSNS始めさせられたんでしょう?写真とかアップしたらファン喜ぶよ。主に私だけど。」

 そうだな…せっかくSNS始めたのに有効活用しないのはなんだか気が引ける。

「今いる場所ばれたら嫌だから、旅行中ですとか言っておこう。久瑠実も入る?」

 久瑠実がそんなところで顔を出すのは嫌だというなら無理は言わないけど、恋人だぜーとか、ぶっちゃけ言いたい。

「映子ちゃんが入ってほしそうだから入るよ。」

 この発言には苦笑い。あたしは本当に顔に出る…というかあたしたちがお互いの感情について理解し過ぎているだけなのだが。

「顔も一部は隠すよ。あ、あたし絶対うまく取れないから久瑠実とって。」

「仕方がないなぁ。スマートフォン貸して~。」

 久瑠実にスマートフォンを託す。あ、ちなみにお互いのスマートフォンのパスワードは知っていたりする。

「さ。撮るよ~。ハイチーズ。」

 ぱしゃり。

挿絵(By みてみん)

「おー。いい感じいい感じ~!さすが久瑠実。」

 あたしがやれば確実にぶれるだろうスマフォカメラで、きれいに写真を撮った久瑠実。

「映子ちゃんのとなりとか恐れ多い…。」

「そんなことないだろ。久瑠実可愛いし。」

「さらっと言わないでよ。」

 こういうの慣れてしまっている。

 あたしは場所が特定されないように若干移った背景を隠して、久瑠実の口元もかくしてツイッターにアップした。

 すぐにツイートがお気に入りされる。

「映子ちゃん、これヤフーニュースになるよ。」

「ただの友達との写真じゃねぇか。」

「私、一応一般人。」

 この女性は誰?てきな見出しが目に見える。

「まぁいいんじゃね?いつもこうやってあたしと一緒に出掛けているんだからばれるときは一緒だ。」

 久瑠実が大学でどうなるかなんて知らな…。

 その瞬間久瑠実の携帯が鳴った。

「あ、お友達モドキからのラインだ…。エコとの関係は?だってさ。」

「早いなぁ。無視しろ。」

「らじゃー。」

 結構いろいろめちゃくちゃだと思う、自分たち。

 

 1時間ぐらいかけて金閣寺を巡った。一概に金閣寺と言っても、あの寺以外にもいろいろ見どころはあるのだ。

「すごい良かったな~!楽しかった。」

「そうだね!でもまだまだいろんなところ行くからね?」

 久瑠実がどこに行こうとしているのかは直前じゃないと聞かせてもらえない。

 だからあたしは結構わくわくである。

「次はどこに行くんだ?」

「次もバスに乗って、清水寺に行こうかと思いまーす!」

 楽しそうな久瑠実。なんだかツアーガイドみたいだ。いや、実際ツアーガイドそのものなんだけど。

 さっきも金閣寺の一階が茶色い理由を説明されたし。…詳しすぎるぞ!?

 

 金閣寺の近くのバス停から再びバスに乗り込み、清水寺に向かう。

 ちなみに久瑠実の助言により、一日市バス乗り放題チケットみたいなのを買ってそれでバスに乗っている。すごい便利。初めて買ったけど…うん。安いしいっぱいのるなら便利。

 

金閣寺からそのまま清水寺へ。

 平日だからやっぱり人は少ない。

 人込みにのまれることもなく、少しの外国人観光客とともに中に入る。

 清水寺ときくと、寺一個のイメージだったのだが中は意外と広かった。

 本殿の他にもさまざまな建物が建っている

「意外と広いな~!」

「そうだね~!」

 あたしと話しながらもいろんなところをばしゃばしゃと写真に収めている久瑠実。

 はたしてここはカメラオッケーだっただろうか?

「なぁ久瑠実、ここってカメラいいの?」

「多分…。」

 たぶん…だと!?久瑠実が多分というなんて…らしくない!

 

 ぐるっと敷地内を巡る。

 やっぱりすべての建物を見たいから、同じところも結構ぐるぐる回ってしまった気がする。

「それにしても結構広いな…。」

「そうだね…思ったより。やっぱり行ってみなきゃわからないものだね。京都だって寺ばっかりあるイメージだけど、ここまで来るまでにいろいろなものを見たわけだし。」

 一度見た方がいいものもある。

 ネットで検索をしたり、テレビで見たりしただけじゃわからないことは世の中にはたくさんある。

 自分の目で確かめるのが一番いい。

「自分で足運んでみるのって、達成感もあるし新しい発見もあるし。やっぱ大切なことだな…。」

 観光って軽い気持ちでするのもいいけど、じっくり考える機会にもなるしたまにするといいかもしれない。


 2つの寺にいっただけで結構な時間が経ってしまった。

 あたしたちは久瑠実が予約をしていた旅館に向かう。

 旅館は京都らしいけれどあまりメジャーでもない、なんともいい感じの場所である。

 入り口から和のオーラを醸し出すその旅館。東京じゃ感じることのできない日本の伝統に感動しながら中に入る。

 京都の雰囲気は今日だけで気に入ってしまった。

 関東地方には感じられない魅力が、そこにはあったからである。

「関西と関東でここまで雰囲気が違うんだな…。驚いたよ。」

「本当だね。日本は広い!」

 まったくだ。新幹線で2時間かけて移動したって、まだ本土の真ん中ぐらいにいるんだから。

 予約してある部屋に入り、荷物を下ろす。

 結構荷物は減らした方だけど、それでも結構重い荷物。おろした瞬間、何とも言えない解放感につつまれる。

「つかれたーー!」

 あたしはとっさに畳の上に寝っころがった。

 久瑠実はあたしの行動を見て、それをまねるように寝っころがった。

「疲れたね~!でも明日はもっと疲れるよ?」

 明日は一日ぶっ通して観光だもんな。でも疲れたこと以上に得たものが多かったから個人的には大満足だ。とりあえず今日は。

「そうだな~…朝から晩まで観光か?」

「うん。たぶんね、その伏見稲荷が結構広くて。」

「今日よりも?」

「かなりね。」

 神社とか寺で、すごく広い、というのはあまり想像できないのだが、どういう感じなのだろうか。

 久瑠実はやっぱり詳しいことを教えてくれないし、自分で検索するのは何となくいやだ。

 まぁ楽しみにしておこう。

 

 そのあと、和食らしい和食をしっかり味わった。晩御飯は止まっている旅館が出してくれたのだが、それがまたおいしくて。

 本格的な和食に感動した19歳である。久瑠実が二十歳超えてるんだから、久瑠実保護者で…いいよな。

 食後少し経ってからふたりで大浴場に風呂に入った。

 久瑠実が推測した、人が少ない時間帯にいったので人はやはり少なく誰にもあたしが京都旅行をしていることがばれずに済んだ。

 ばれたくないなら部屋の風呂に入るべきだが、ここまで来て部屋の風呂に入るなんてそんな味気のないことはしたくない。

 そういうところだけはこだわりがあるのだ。仕方がない。


 部屋にもどると布団が敷いてあった。

 こういうところ徹底してるなって思う。最近の旅館とかホテルは札をかけておいたらすぐやってくれるし。やってほしくなかったらやらないし。

「もう眠い!」

「ねよっか。」

「ああ。」

 私たちの意識はとけるように眠りの世界へ落ちて行った。


「映子ちゃん。朝だよ。」

 肩をトントンとたたく手の感覚で目が覚めた。

 もちろんあたしを起こしたのは久瑠実だ。

「おはよ…久瑠実。」

 天井がいつもと違うものだ。そう、ここは京都だ…。

 少し時間が経つとはっきり目が覚めて、あたしは起き上がった。

 おもいっきり伸びをすればもういつも通り。

「映子ちゃんって伸びしたら覚醒するよね。」

「そうだな…なんかスイッチみたいになってんな。」

 切りかえって大事なんだよ、特にあたしみたいなのは。


 部屋で朝食をとり、荷物をまとめる。

 今日の晩はまた違う宿を予約しているようだ。

 少し名残惜しく思いながらも、久瑠実に促されるままそそくさと旅館を出て、大きい荷物を駅のロッカーに預けてから伏見稲荷大社に向かう。

 久瑠実によるとあれはマジでダイエットとのことなので荷物はあまり持っていくことができない。

 

 京都駅までバスに乗って向かい、そこから電車に乗って目的地へ向かう。

 目的の駅に着けば、もちろん観光地なのでこちら!みたいな看板が。

 中に入れば本殿が待っていた。

「鳥居はどこにあるんだ?」

「あれはもっと奥にあるんだよ。」

 ここまででも結構歩いた気がするのにまだ奥らしい。

 それでまだまだ長くあるんだろう…。あたし上までたどり着ける気しないぞ?

 

 本殿でお参りをしてから、鳥居の方に向かう。

 少し歩くと真っ赤な鳥居の列が現れた。

「本当にいっぱいある!」

「だね!やっぱり実物は違うなぁ~。」

 久瑠実はそういいながらぱしゃりぱしゃりと写真を撮り始めた。

 やはり平日は人が少ないから、写真を撮るのにも最適だ。写真をアップしたいときとか、人が移ってしまったら肖像権どうのこうの問題になったりするし加工するのも面倒くさい。

「映子ちゃん映子ちゃん、そこ立って!」

 写真を撮るつもりだろうか。まあ慣れてるしやってやろう。

 あたしは鳥居の横に立って、軽くポーズを決める。

「これでいいか?」

「最高!」

 テンションの高いカメラマンみたいなことを言いながら久瑠実はあたしの写真をバシャバシャ撮る。

「なあそれどうするつもりだ?」

「ツイッターにでもあげるかな~。帰った後に。」

「そんなことしたらやばいことになるぞ。」

「いや、もうなってる。」

 久瑠実が自分のツイッターの画面を差し出した。

 そこには恐るべき数のフォロワー数が表示されていた。

「今朝は…。」

「せいぜい5000ぐらいだったはず。今は2万とかだね…。一応映子ちゃんの情報流しているからフォロワーいたにはいたんだよ。」

「同居人だから個人情報漏えいしてるみたいだな。」

 久瑠実のことだからうまく情報を分けてると思うけどな。

「テレビと雑誌ぐらいしか言ってないからね?映子ちゃんの情報は独り占めしたいの~。」

 にっこり笑いながらそんなことを言ってくる久瑠実。

 いやもうすでに独り占め状態だと思うけどな。二人暮らしだからな。家帰ったら二人っきりだからな。

「そもそも映子ちゃんが一番にフォローしているのが私って時点でおかしいんだよ。犯人五十嵐さんだけどね。」

 確かに。

 あたしがタイムラインとかいうやつを見ていないから知らなかっただけで、ちゃんと久瑠実のアカウントが登録されていたのだ。

 名前が久瑠実じゃないせいで、ぶっちゃけ今まで知らなかった。

「まあ放っておこう。」

「そうだね。」

 久瑠実はスマホの電源を切ってカバンの中にぽいっと放り込んだ。

「さて、歩きますか!」

「だな!」

  

 たくさん並ぶ鳥居の下、ひたすらに歩みを進める。

 山にあるので基本ずっとのぼり階段だ。

 確かにダイエットだなと思う。あんまりやったことないけどな。昔から食事制限ひどかったし。

 久しぶりの運動はやはりきつい。

 あたしは全然登っていないのにもうすでにくたくた。一方の久瑠実は…

「疲れてないのか?」

「全然?」

 この調子だ。

 久瑠実は異常に体力がある。こいつが疲れているところなんて一度も見たことがない。

「久瑠実…なんかキリがよさそうなところあるから休憩しよ…。」

「まだ半分ものぼってないよ…?でも疲れるのも無理ないか。休もう。」

 久瑠実は休憩いらずかもしれないがあたしには必要なんだ…。


 ベンチに座り、あらかじめ駅で買っておいた飲料を口に含む。

 なんとなく生き返る感じがする。

「わー!疲れた!」

「まだまだあるけどねー。」 

 笑顔でそんなこと言わないでほしい。

 多分久瑠実は運動が好きなんだと思う。でもあたしは好きじゃない!

 撮影で走らなきゃいけない時も、一回ごとに息が上がってしまうからなるべく一度で終わらせるように努力しているのだ。

 短距離走以外はマジで無理。

 しかし長いとは聞いていたもののここまで長いとは思わなかった。

 見くびっていた。

「映子ちゃん、そろそろ行こう。」

 行こう、の後にはてなはついていない。要はあたしに拒否権は存在しないのだ。

「うん。行こう。」

 それでも久瑠実が好き…。


 ひたすらに階段を上る。やはり鳥居はまだまだ続いていて、視界の端っこにちらちらうつる鳥居に目がちかちかする。 

 幻想的なこの風景が嫌というわけではないけど、目がちかちかして嬉しいやつはさすがにいないだろう。

 あたしはどんどん進んでいく久瑠実の背中を、小走りで追いかけた。


所要時間は覚えていない。たぶん一時間以上かかった。

あたしたちはついに頂上にたどり着いた。

「やっとついた~!!」

「だね!」

 達成感がすごい。

 この登りきったという事実があたしに幸福感をもたらしてくれる。

 帰りもあるけど、帰りはそんなにきつく感じないものだ。たぶん大丈夫。

「写真写真~♪」

 久瑠実は持参したカメラでまたもやぱしゃり。 

 前から相当来たかったようだからテンションが上がるのも無理はない。

 あたしにも写真は撮っておくか。

 

「映子ちゃん。おもかる石、もってみよ?」

「何それ?」

「灯篭の前で願い事の成就可否を念じて石灯篭の空輪(頭)を持ち上げて、そのときに感じる重さが、自分が予想していたよりも軽ければ願い事が叶い、重ければ叶わない願い石だとの情報だよ。」

 軽ければいいという事か。

 願い事な…ああ、一つあったな。

「行ってみようか。」

「うん。」


 おもかる石の前に立ち、久瑠実からその石を持ち上げる。

 久瑠実はそっと持ち上げてそっとおろした。

「どうだった?」

「意外と軽かったです。もっと重いと思っていました。」

 それなら願いはかなうかもしれないな。

 さて次はあたしの番だ。

 頭の中で念じる。

 久瑠実と長く一緒にいられますように。

 そして石を持ち上げた。

 意外と軽かった。願いかなうかもしれない。

 あたしは静かに石を下した。

「映子ちゃんはどうだった?」

「軽かったよ、思ったよりは。」

 お互いに何を願ったか聞かないところが、あたしたちらしいと思う。


 お参りをしてから、上ってきた方とは違う方向から出口に向かう。

 出口に向かうといっても、また一時間以上歩かなきゃいけないんだろうけど帰りだからやっぱり気が楽だった。

 出口というか、入り口に着いた時にはもうくたくた。足はヘロヘロ。

 やっぱり久瑠実は澄ましたお顔。

「お疲れ!」

「お疲れさま…。」

 あたしにもその元気分けてほしい。


 伏見稲荷を出るころにはもう昼飯時を過ぎていた。

 疲れすぎて腹が減っていることもすっかり忘れていたが、飯をどうするかを聞かれた瞬間一気に空腹感がやってきた。

 結局和食の店に入って、ごはんをたべることにする。

「次はどこに行くんだ?」

「次は…河原町のほうに行こうかな。」

「河原町って何があるんだ?」

「商店街とか、少し歩けば神社とかお寺もあるよ。」

 京都って色々あるんだなぁ…。


 食事も終わり、電車とバスで河原町のほうに向かう。

 少し電車とかバスに乗れば、すぐ観光地に行けるところがいいな。東京とは違う。

 30分もしないうちに目的地に着いた。

「さて、観光しますか!」

「だな!」


 神社や寺にも行きながら、商店街とかにも入ってお土産を買う。

 久瑠実は大学の友達もどきに買わなきゃいけないだろうし、あたしも仕事関係の人で世話になっている人にはあげたいから買うつもりだ。

 買い食いとかもしながら、京都をぐるぐる回るのはすごく楽しかった。


 今日も旅館に泊まるから、ちょうどいい時間になると旅館に向かうことにした。

 今日泊るところも昨日泊まったところに負けないぐらい素敵なところだった。

「今日のところも素敵だな…。」

「ほんとう。素敵~!」

 久瑠実と話しているとスマホが鳴った。

 発信は五十嵐さん。

 内容は…

“明日の夜、仕事はいっちゃったから昼ぐらいには帰ってきて。ごめんね。”

 メールは久瑠実の方にも来ていて、久瑠実は少し複雑そうな顔をした。

「ごめんな…。仕事…。」

「仕方ないよ。二日間丸々一緒に旅行できただけで十分!」

 丸々三日間久瑠実にあげるつもりだったのに、すごく残念だ。

 でもこればかりは自分でどうにかできることじゃないから仕方がない。本当に仕方がない。

「ごめんな…。」

「いいの。」

 お詫びにならないとは知っているけど、あたしは久瑠実にそっとキスをした。

 高校生のころは手を触られるだけで赤面していたものだけど、今じゃここまで大胆に。

 久瑠実はにっこり笑ってあたしのことを見た。

「もう…映子ちゃんったら可愛いなぁ。」

 照れたように笑った久瑠実。

 もう少し長く旅行してたかったんだけどな…。


 あたしたちの切り替えは早い。京都を堪能するべく、夕食を旅館で食べ終えた後も外に出た。

 外に出て、いろんな店に入った。別に京都らしくない店でも京都にあることに違いはないから入りたいところに入りまくった。

 やっぱり久瑠実といるのは楽しい。


 旅館に戻ってきてお風呂に入って寝る準備をする。

 昨日以上につかれている体はもうぐったり。

「もう寝てしまおうか。」

「そうだね…。」

 昨日は何となく違う布団で寝たけど、今日は家と同じで久瑠実のほうに潜り込む。

 なんか二人でいるのに一人で寝るのはさびしく思えて、いつも久瑠実のほうに行ってしまうのだ。

「映子ちゃん、おやすみなさい。」

「おやすみ、久瑠実。」


 

 朝起きれば目の前に見慣れた顔がある。

 ひどく安心してしまって、思わず口元に笑みがこぼれる。

 もう旅行も最終日だ。

 それに今日の番仕事が入ってしまったせいで、今日はすぐに東京のほうに帰らなければならない。

 昨日は残念で仕方がなかったけど、今、また来ればいいじゃないかと思った。

 時間はまだまだたんまりある。あたしは久瑠実と離れる気はないから、あと60年はあるわけだ。

 だから今、そんなに残念に思う必要はないのだ。

 

 朝食を準備してもらい、二人で食べる。

 やはり良い旅館は味が違う。朝飯も。

「映子ちゃんは和食好き?」

「割と。今回の旅行で結構好きになったよ。」

「じゃあ、家に帰ったらつくってみようかな。いつも和食らしい和食は食べてないし、たまにはがっつり和食っぽいの作ってみても楽しいかもしれないでしょ?」

 あたしは前にうなずいた。

 確かにそうだ。久瑠実の料理は栄養バランスからカロリーまでしっかり計算されているしそのうえおいしいから困ったことは一切ないのだが、たまに一風変わったら面白いだろう。

 作る方も、楽しいと思うし。手間とかはよくわからないけれど。

「今度作るね。」

「ああ。楽しみにしてるよ。」

 

 朝食を終え、今日は東京に帰るために荷物をまとめる。

 なんだか名残惜しい気もしてきて、悲しくなってきたが気にしない。また来ればいいのだから。

 旅館の人にお礼を言って店を出る。この旅館、絶対番組で紹介してやる。

 あたしたちは並んで京都駅に向かう。

「楽しかったな、京都旅行。」

「うん、また来ようね?」

「もちろんだ。」

 久瑠実以外で一緒に行く人とかあんまりいないんだよ。


 新幹線の切符を買って、すぐに新幹線に乗り込む。

 やはり席は二人席でとなり同士。

 電車が発車してすぐ、久瑠実は寝てしまった。

 慣れていない環境で2日間も寝たら、結構疲労を感じてしまうものだ。あたしは結構慣れてしまっていたりするけど、久瑠実はやっぱり一般人だから。

 久瑠実の寝顔をじっと眺める。

 可愛らしい寝顔。

 すると突然横から声がかかった。

 小学生ぐらいの少年だった。

 彼は声を潜めてあたしに話しかけた。

「ねぇ、お姉さんエコさんだよね?」

 最後の最後で話しかけられてしまうとは、気が抜けていた。

 でも彼、ほかの人が気付かないようにしてくれているみたいだ。

「大正解。」

 あたしがそういうと少年はそれ以上の笑顔があるのかと思うほどの笑顔を私に向けてから、やはり小さな声で言った。

「サイン、もらえますか?」

 そういう彼の手には、紙もペンもない。

 たぶん気が動転していたんだろう。結構あたしのことを好きでいてくれているみたいだし。

 あたしはいつも五十嵐さんに持たされている小さな色紙とマッキ―取り出した。

「名前は?」

「だいき。」

「OKありがと。」

 あたしは小さな色紙に、サインと少年の名前と軽いメッセージを書いて少年に渡した。

 少年はまたキラキラした笑顔をして、あたしにお礼を言った。

「ありがとう!いつも応援しています!大好きです!」

 可愛らしい告白に笑みがこぼれる。

「応援ありがとな。あ、このことはあたしとだいきくんだけの秘密な?」

 彼にとっていい思い出になるようにそう言った。

 少年はもう一度大きく礼をしてから去って行った。

 あたしは一つため息をつく。

「映子ちゃん、やさしいね。」

 寝ていると思っていた久瑠実から声が飛んできたから驚いた。

「寝てたんじゃないのか?」

「話声で起きちゃった。」

「起こしてごめんな。」

「いいの、ただ映子ちゃんと一緒に入れて光栄だなって思ってたの。」

 あたしは首をかしげる。

「なんでだ?」

 久瑠実はにこっと笑って車内にふさわしい小さな声で言う。

「だって、やさしくて格好良くて、たまにかわいい。そんな人と一緒に入れたら人生万々歳だよ。」

「迷惑かけっぱなしだけどな?」

「いいの、存在だけで十分。」

 なんで久瑠実はこう嬉しいことを言ってくれるかな。

「ありがと。あたしもだぞ?」

 久瑠実は照れたようにえへへと笑った。


 新幹線が東京駅に着く。

 五十嵐さんは東京駅に迎えに来ているみたいで、もう現場に直行だ。夜からの仕事と言っても突然入った仕事だから早めにいかないといけない。

「仕事行くな。」

「うん、いってらっしゃい。」

 あたしだけ改札を出て、五十嵐さんのところに向かう。 

 本当に、タイミング悪いな。


 

 仕事も終わり、家に帰れば久瑠実が待っている…と思ったら、家の中には誰もいなかった。

 結局あたしが早く現場に行ったせいで早く撮影が始まって、夜中に終わったのだが…。

 なんでいないんだ?

 メールは来ていない。

 家の中を探してもいない。

 旅行の荷物は置いてあるから、帰ってきてはいるはずなんだけど…。

 あたしは不安で仕方がなかった。


 数十分後、玄関のドアが開いた。

「久瑠実!」

 もちろん玄関にいたのは久瑠実だった。

「どうしたの?そんなにあわてて。」

「夜中にいないって珍しいから…。」

「コンビニに行ってただけだよ?もう、私オトナなんだからそんなに心配しないでよ。」 

 だって…。不安にもなるだろ。予定をつぶしてしまったあとだから。

「もう…本当に心配性だよね。いつからそんなんになったんだろうね?」

「久瑠実だけだよ…。」

 一気に不安になって一気に安心したせいで、涙が出てきた。

「泣かないで?ごめんね、映子ちゃん。」

「久瑠実は悪くないけど!なんで泣いてんだろ…。」

「…心配してくれてありがとう。」

 涙はしばらく止まらなかった。


 久瑠実に慰め続けられて、泣き止んだ後。あたしはすぐに寝てしまった。



 朝起きたら久瑠実がいる。

 いつのまにか久瑠実がいないと安心できないことに気が付いた。

「眼覚めた?」

「ああ…昨日はごめんな。」

「いいのいいの、気づかないうちにお互いがいることにすごい慣れちゃってたんだね。」

 その通り。

 本当に当たり前だと思っていたからあんなことになった。

「本当、久瑠実がいないとだめだ!」

「私もだよ、映子ちゃん。」

 お互いを見て笑いあう。

「…いつもありがと、久瑠実。」

「こちらこそ。これからもよろしくね?」

 あたしは思いっきりうなずいた。



 たぶんこれからも一緒に生きていくんだろうなと思う。 

 今更離れるなんてできやしないだろうから。

 っていうことで、久瑠実。これからもよろしくお願いします!


これでひとまず完結となります。

また書きたいときにはなしをたすかもしれませんので、そのときはどうぞよろしくお願いいたします。

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