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プロローグ

――魔術学院 第二演習場 戦術科入学試験会場


「やれやれ、揃いも揃って凡才だな。」


 “無敗の天才”レクス・ヴァールハイトはそう言って欠伸を噛み殺した。

 魔術学院の成績上位者は、所属する学科および都市内において様々な優遇措置を受ける。学費および税の免除や、一部授業の欠席許可、特定物品の優先購入権。また科によってはさらに学内の工房を私的に与えられたり、国家的秘匿情報への部分的アクセスも可能となったりする。

 戦術科の特権は、特権を担保とした私闘の許可と特殊人事権。

そしてレクスの胸に輝く赤銅の星飾りは、彼がそれら特権を自在に振るえる立場にいることを示していた。


「不満かね?レクス。」


「いえ、概ね予想していた通りですよ教官。」


 さらりと言って、手元の評価票に低評価を付ける。

 彼の持つ特殊人事権には、入学試験における受験者の合否判定も含まれる。戦術科の危険な性質ゆえ、不適な生徒はあらかじめ弾いておくという大義名分もある。特権行使自体にはさほど興味が無かったレクスだが、恩師に頼まれた都合や学内政治における立場もあり、今回は試験官として試験に参加しているのだ。


(まあこんなもの、か。)


 学院に入学して二年。世界最高峰と謳われる魔術学院も、こと対人戦闘という点においてはレクスにとってただ退屈な場であった。


……この時までは。


「次!三百六十番と三百六十四番!」


 受験番号を呼ばれた二人が闘技場に上がる。

 その場にいる誰もが目を奪われる。魔族のみが集まる三百番以降においても、なお異彩を放つ彼女に。

 龍種を思わせる双角に絶世の美貌。しなやかな筋肉は高貴にして獰猛な肉食魔獣を想起させる。


「……教官、彼女は?」


「さあ?そういえば、すごい美人の魔族が検査の方で学院歴代一の魔力保有量を叩き出したらしい。彼女かもしれないな。」


 一目惚れであった。今まで人生に感じていた退屈をふきとばし、空虚を埋めてくれる、そんな予感がした。

 金糸のような透き通る髪の一本一本が、玉もかくやといわんばかりの澄んだ深緑の眼が、自信に満ちた勝利の女神の表情を鮮やかに彩る。


「その勝負!!ちょっと待った!!」



気付けば、体が動いていた。気付けば、叫んでいた。



「三百六十四番、このレクス・ヴァールハイトと戦わないか?君が勝てば、戦術科特殊人事権を持つ僕が即座に合格を許そう。」


「負けたら?」


「僕の妻になれ。」


「ふふふ、いいだろう。面白い男だ。乗った。」


「その前に、君の名前を聞かせてもらえるかな?」


「アリス。」


……その日、戦術科の天才の二つ名から、“無敗”の文字が消えた。



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