第6章 第7話
「やー、待ってたよ。君が噂のスピラーさんか!
ただ、それだとあたしもスピラーさんになっちゃうんだけどなー。」
『エ、エアスタさんに習って、フィーアトでいいですよ。』
気さくに話しかけてくるErsterSpieler。
あまりの予想外な状況に、思わずどもってしまった。
「分かった。フィーアトさんだね。
しかし噂通りのひっどい戦績だねぇ。
その戦績で化け物じみた強さってんだから面白い。」
「そ、そんな事よりエアスタ様っ!何故こんなところにいるのですかっ!?」
HoneySwordも、これまでにない焦りようだ。
「そんな事って酷いなぁ。久しぶりにかなり面白そうなプレイヤーが出てきたから
思わず会いに来ちゃったんだよ。」
「でも、逆走してしまってはランキングの維持や熟練度が…」
ジロリとHoneySwordを見るErsterSpieler。
「ランキングとか熟練度とかさぁ…
別にランキングの為にダンス続けてる訳じゃないし、
熟練度だってまた上げなおせばいいだけじゃないか。
どうせあたしは、ダンスプレイするしか能の無い人間なんだ。」
「君たちがあたしのファンクラブみたいなことをやってるのは知ってるけど。
君たちみたいなタイプは、あたしに理想の姿を押し付けすぎなんだよ。
自分でランキングを上げて、それを維持するその熱意と気力が無いから、
あたしに夢見てるだけじゃないのかい?」
答えに詰まるHoneySword。どうやら図星だったようだ。
「これはあたしの人生なんだから、好きにプレイさせろってんだよなー。」
ErsterSpielerの言葉の端々に、気になる単語が溢れている。
『実は俺、エアスタさんとどうしても話したいことがあって、
最新エリアを目指して進んできたんです。
少しお時間頂けないですか?』
「あっ、そうなの?なーんだ、じゃぁお互い目的は一致してたってことだ。
よし、結婚しよう。」
「な、な、ダメです!彼は私の婚約者なんですから!」
Seregranceが慌てて会話に参加する。
「ちぇっ、予約ありか。
なーんて、冗談だよ。
それよりフィーアトさん、話ってなんだい?」
『あっ…と、ここじゃちょっと話しづらい内容で…
人に聞かれたく無い内容なので、街の宿屋で話しできませんか?』
「初対面で宿に誘うなんて大胆だねぇ。
なーんて、冗談だよ。」
と、そこでこれまでの笑顔が消え、スッと真面目な顔になるErsterSpieler。
「ゲームに関わること以外の話ならお断りだ。
ゲームとリアルを完全に切り離すのが、あたしのポリシーだ。」
雰囲気だけで分かる。完全なる拒絶。
だが、ここまで来て簡単に引き下がる訳にはいかない。
『じゃ、じゃぁ、俺の話を聞いてもらうだけでもいいです。』
「聞くだけでどうにかなるとは思えないんだけど。
まぁ、それくらいなら良いよ。」
やった!
「ただし、条件をつけさせて欲しい。
あたしと対戦してくれ。」
「そもそもあたしが逆走してまで君に会いに来たのは
君と対戦したかったからなんだよ。
だから、対戦してくれれば君の話を聞こう。
そうだな、君が勝てば、君の話の内容次第であたしも話そう。
この条件なら君も全力で戦ってくれるだろう?」