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二週間ぶりに病院以外の景色を見たわたしは、正直心を躍らせた。
こんなにも外の景色は彩り豊かで活気が満ちあふれているなんて……病院で療養するまでは考えもしなかった。
車内の後部座席から窓の外の景色を恍惚と眺めるわたしを気遣ってか、車を運転中の父、清水高春は、「もうじき、十二月になるな。そしたら、あっという間に外はイルミネーションやクリスマスツリーやらでいっぱいになるぞ」と優しげに笑った。
「……ええ」
わたしが校内暴力の加害者になり、それと同時に校内暴力の被害者になったことを父が知ると、父はなにも言わずにわたしを抱きしめてくれた。
母の清水小夜子からは拒絶の反応をされただけに、わたしにとって父とはかけがえのない存在となりつつあった。
一方で、母の虚像を信じこんでいたわたしは大変母を憎んだ。
それを打ち明けたとき、父はわたしの頬を両手で包み込みながら、こう語りかけてくれた。
「いいか、光凛。お前は母さんを決して恨んではいけない。母さんはな、清水光凛という一人の人間の“虚像”を、今日までずっと信じてきたんだ。自分の娘は程度を越えた暴力を一切しない優等生であること、それを母さんはカルトチックに信じていた。妄信していた。十七年もの間、崇めていた。だからな、光凛。今回ばかりは母さんを許してくれないか?」
わたしは唇を噛みしめると、黙って頷いた。
母の歪んだ愛情は、薄々ながら感じていた。
それが今日、正常に戻っただけだ。
なんてこともない。
母子揃って、自分に都合のよい虚像を作り上げていただけだ。
そう割り切ろうとしたけれど、そのときのわたしは目に涙をためこんでいたらしい。
こんな情けないようでは、わたしが『征服者』を目指す夜魅を救い出すなど、夢のまた夢だ。
夢のまた夢?
「そんなこと……ないわ」
「なんだ、なにか言ったか?」
わたしは決意を新たにすると、父の問いかけを無視する形で、「家に着いたら、すぐに光輝と水希に会いに行くわ。許可してくれるわね?」と、父の表情も窺わずに半ば強引に頼みこんだ。
丁度、わたしたちを乗せる車は信号に差しかかり、赤に点灯したため、車は緩やかに停車した。
「…………」
「…………」
訪れる沈黙。
信号が青に点灯する。
父は重苦しそうにため息をつくと、それから間もなくして車を発進させた。
「好きにしなさい」
「感謝するわ」