2-6
次にわたしがとった行動……それは光輝に会いに行くことだった。
いかなるときでも、彼はわたしの理想像の星野光輝でいてくれた。
載鐘くんの自宅で居候した際も、光輝はみんなを茶化しながら励ます存在だったし、なによりも勇敢だ。
そんな彼に会いたい――。
光輝には連絡を入れず、その足で彼の住まう一戸建てに辿り着いたとき――空は一面、あかね色に塗りたくられていた。
目を瞠るほどに美しい。
けれど、いずれ儚く消えてしまう日没頃にかけて起こる現象……それがこの地球で見られる『夕焼け』――。
そのとき、誰かの視線を感じた。
わたしは神秘あふれる夕焼け空から、この惨状の大地へと視線を移した。
「知っていたか? 馬鹿みたいに空を眺められるのは、子供の特権なんだ。大人になると、その特権を徐々に忘れてしまうのさ」
なんとも悲しいもんだ――そう呟きながら、光輝はゆっくりとアプローチからこちらのいる門まで歩いてくる。
夕焼けによって反射し、こちらへ向かってくる姿はまるで、後光が差しこむ仏のようだった。
「……あなたの理論でいくと、わたしはまだ子供なのね」
「子供だな。というより、子供じみている」
光輝は門を開放すると、わたしをアプローチへと招き入れた。
わたしは光輝のあとに従い、しばらく無言でアプローチを歩き続ける。
玄関ポーチへと辿り着いたところで、わたしは口を開く。
「わたしのどこが子供じみているのか、教えて欲しいわ」
すると、光輝は吐き捨てるように言った。
「天下の清水光凛ともあろうお人が、ただの親友の裏切り如きでごたごたと取り乱す……それが子供じみているって言っているんだよ。違うか?」
ただの親友の裏切り如き――。
わたしは自分の心の奥深くから毒が湧き出てくるのを感じた。
その湧き出た毒は心の隅々を腐らせた。
「違う、違うわ……まるでなってないわね。ところで、あなたはなにを言っているの?」
「それはこっちのセリフだ。お前こそ、スカスカと中身のない言葉だけ並べて、なにが言いたいんだ? はっきりと言えよ」
わたしは唇をぐっと噛みしめ、それから心にたまった毒を存分とまき散らした。
「わたしと夜魅がただの親友……それは大きな間違いよ。わたしにとって、夜魅は迷惑な存在で邪魔な存在なの。夜魅はわたしを馬鹿にしたような目で見るし、嫌がらせも平気でしてくる。わたしがなにかをすると、夜魅は鼻を膨らまして、目の前で同じことをする。わたしはわたしで、夜魅が失敗する度にほくそ笑んで……ねぇ、この意味、分かるわよね。夜魅はわたしのことが嫌いで、見下げている。わたしも夜魅のことが嫌いで、見下げている。この歪な関係を言葉で表すのなら、それは一つしかないわ」
そこでわたしは言葉を切り、目の前の光輝に眼差しを向ける。
そうすることで、わたしの言葉を彼に答えてもらうのだ。
わたしの光輝ならば、答えられる。
わたしの『従者』ならば、答えられる。
なぜなら、それがこの地球の掟だからだ。
「ライバル……だな」
見事に光輝は答えきると、愛らしく破顔する。
「ご名答」
わたしは光輝の背中を強めに叩くと、彼と同様に破顔した。




