6節 このままでは終われない
私は目を開ける。白い天井が目の前に広がっている。知らない場所であった。体が思うように動かない。私は何とか動ける右手を目で抑え込んだ。
「ふふ。どうやら何もかもが終わった。あの世界から解放されたんだ」と私はつぶやいた。
その白い天井が病院の天井だと思ったからだ。しかし現実は違った。
「何が終わっただ?俺らのボスと副隊長を返せ。さもなければ……」
彼が言う通りにまだ終わってないのだ。金髪の髪の毛をした彼は私の胸元を掴んでいた。その隣には茶髪の女性がいた。
「あんた、これでも立派な怪我人なのよ?ごめんね、うちの弟……」
「なんでこんな奴に謝るんだよ?だいたいこいつさえいなければ……あっ、ごめん……じゃねえわ、もういい。安静に寝てろ、バーカ」
そう言うと彼は部屋の外に出て行ってしまった。
「まったく、あの子は。あなたが目覚めるまで時に涙を流して看病していたのよ。ふふ、我ながら髪の色に似合わないかわいい弟よ」
「弟君のこと、好きなんですね?」
「むふ。お姉さんのことをからかいたいのね。このいけない子」
おでこにでこピンをされる。
「痛っ」
「痛いっていう割にはうれしそうだな」
横の方からジョルダーさんの声が聞こえる。首を横に振り向く。何か先ほどから体が楽になってきた。
「ジョルダーさん!?」
「おうよ、俺はミイラになる予定はないぞ」
ジョルダーさんは横のベッドで包帯を体中ぐるぐる巻きにされていた。
「大丈夫なんですか?」
「あぁ、心臓は動いてるから問題ない。お前は?」
私は体を起こし体を腰からひねる。問題はなさそうである。
そのままベッドから降りて立ってみる。
「えっ?嘘?私も見たけど、今日すぐには立てない体よ?」
「あぁ、こいつの回復力はだれも予想できない。そして海塚君、ここが俺らの本拠地だ。しばらくゆっくりするがよい」
「あのう、それより私が手に持っていた本見ませんでした?」
私の質問に対して彼女は唾を飲むなり、微かに汗を流した。そしてほんのり涙目である。
「ごめんなさい、見てませんわ」
「恵理、嘘は相変わらず下手だな。ちゃんと答えてあげなさい。何があっても彼が助けてくれるから?」
「本当ですか?」
「もちろんです」
私の言葉に彼女は息を大きく吸って話し始める。
「その本は他のメンバーたちに今もなお攻撃しております。私と弟はボスや副隊長が帰ってくるまで待てと言いましたが、屁理屈を言って止めさせることが出来ませんでした。もしそのことを言ったら……」
無数の剣や刀などの尖った武器が彼女にめがけて飛んできた。
「無攻」
すべて床に落ちた。何人かが走り去っていく気配がした。
「君に頼みがある。ここでジョルダーさんを頼む」
私は部屋の外を出た。木で出来たでかい廊下はまるでボスの偉大さを象徴してるように思えた。
私はしばらく勘で進み行くと、どでかい広場に着いた。いや、家の中だから広場とは言えないのかもしれない。そんな広場に人がたくさん集まっていた。その中の何人かが私を見て言ってくる。
「おっ、この本の持ち主が来たぞ?」
「ボス殺し、副隊長殺し」
「あらあら、かわいそうな迷い猫ちゃん」
「迷い猫じゃねえよ、ただの逃げ回った鼠だ」
集団の中からそういう様々な声が飛び交う。そういえば誰かが言っていたな。もしかしたらこのアジト内にいる何人かが、私をよく思ってない、と。
「この本壊せないなら、生身のあいつを殺せばいいんじゃね?」
「そーだそーだ」
どうやら私に向けて敵意剥き出しのようだ。
「かかれー」と一人の男の叫び声につられて全体的に私に向かって動き出す。どうすればいいんだ。こいつらだって仲間だろ?
「案ずるな、殺れ」
脳内に聞いたことのある男の声が鳴り響く。目の前ギリギリに武器を持って襲う集団が目の前に来る。
「だから安静に寝てろって言っただろ?こいつら俺がすべて倒しておくからよ」
先ほどの茶髪の男は野球バットにたくさんの釘を刺したのをその集団に当てる。正確に言うと、振り回した途中に大きく伸びたそれだった。集団は遠くに弾き飛ばされてしまう。
「……ぺっ、今回は見逃してやる。一週間後に決着だ。今度はお前らを殺すからな。ふひゃひゃひゃひゃ」と男は言う。
そして集団はそそくさと消え去ってしまう。
「ごめんな、俺なんかのために」
「勘違いするな、俺は予定通り動いただけだ。だが、俺はお前の味方だ。恵、それが俺の名前だ。よろしく」
「こちらこそ」
彼の差し出された手に私は握手する。そして私は落ちている一冊の本を手に取っていた。相変わらず憎いことに傷なんて一つも付いてない。
「あっ、そうそう。これ、ボスからだ。出かける前にもし私に何かあれば海塚さんにそれを託して欲しいって言われてな」
一枚の紙を渡される。
『この場所に一秒でも早く来い。君の求めている物がある』
その文の下に地図が載っていた。
「ありがとう。メアちゃんたちはいるよな?」
「見ていくか?」
「いいや。みんなのことを頼む。あとお君の姉さんに伝えておいて。弟君も姉思いだとな」
「言えるかよ、バーカ。あとそっち出口と反対方向だからな、バーカ」
私は回れ右をして来た方向を戻っていく。手を上に伸ばして振りながら。
目覚めたときの言葉は前権撤回だ。終わっていない。いや、違う。このままでは終われないか。
私は心の中に強い決意を持ってボスに指定された場所に向かうのだった。




