1節 こんな目になった原因
私は壁越しにいるセロリアさんに「風呂に入ることをみんなに伝えてくれ」と行った。彼女はそれを聞き入れて、リビングに向かった。
念のため、私は手に持っている本を風呂場に持っていく。そして私は服を脱ぎ、籠に入れて……。見たことのない女の子のパンツなどの下着や服、さらには大きな男性の服もてんこ盛りにあった。間違いなくリビングにいるあの人たちである。これは誰も見ないうちに触ったりしてもいいのかなと思いつつ、私は手をその下着にさり気なく伸ばしていく。
「お兄さんいます?中に入っちゃいましたか?」
「ぶへ……」
扉越しにいるのはメアちゃんだった。彼女は扉の向こう側から私に声をかけてきてくれたのだろう。だが、私はそれに動揺してしまい体を後ろに振り返った際に下にあった足拭き用の絨毯に邪魔されて体をひっくり返そうになった。その際に声が出てしまった。
「大丈夫?中に入ってもいいですか?」
中に入ってきたら……いかん、変なことは考えてはならない。
「大丈夫大丈夫。それより何かな?」
「兄さんにゆっくり入ってきて大丈夫ですと伝えたかったのです」
そう伝えると、彼女はリビングに戻って行ってしまった。
ゆっくり……ねぇ、そう思いつつも私は例の下着を触ることに断念して風呂場に入る。
いつの間にかタオル掛けに洗うタオルがカラフルで並べてある。
私はそれらのタオルを端にどかして私が持っているタオルをそこに掛ける。
「俺、穴開いたんだよなぁ」と小声でつぶやいてみた。
私は腹を撫でてみる。痛みなどはない。なんか気分が優れなくなるから、そのことを考えるのはやめた。
そのままシャワーとシャンプーで体を洗っていく。
湯船にふたが閉めてあったから何かと思い覗いてみたら、湯気とともに黒い液体が一面に広がっていた。緑や青とか、あまり考えたくはないが女の子もいるのでカラフルまでは今の状況なら許せる。しかしなぜ黒。誰のセンスだよ。
私は黒一面の湯船に体を徐々に沈めていく。顔近くに入れてその液体が何なのか分かった。炭だった。炭の液体といえば習字で使用するアレを思い出した。
私はしばらく体を浸かった後に、そのまま立ち上がって湯船から体を出させる。
「汚れたじゃねーか!!」と私はつぶやく。
その汚れをシャワーで落としながら思った。
”メアちゃんなどをあんなふうにしたのは誰だ?
櫻木さんをここに招き入れたのは誰だ?
なぜあんなに血だらけになってたんだ?
それよりもこの世界って誰のせいで作り上げたんだ?”
私だ。いや、違う。棚に置いたあの本だ、という結論に結びついた。
扉を開けて棚から本を手に掴む。
そして湯船の近くに行き、誰かのセンスである黒いその炭の中に本を投げ入れた。
本は何も反応なしに沈んでいく。いや、本を落とした場所に細い小さな渦巻きを作っていた。
私は回収するためにまたここに来るのがめんどくさいし、本の上に立ってしまいコケるなどといったいろんな点で大変なことになりそうなので今すぐ回収することにした。したがって湯船を栓を開放して流す。ボタンを押すだけでふたと底にできた隙間から水が流れていく仕組みになっている。そして水面は徐々に減っていき、本が姿を現した。私はその本を見て、思わず首をかしげてしまった。
そこにある本は汚れることなく、棚に置いてあった状態で風呂の底に置かれていたのだ。触ってみると、一ミリも濡れた感触がない。
「なんでだ?」と思わず声が出てしまった。
すると急いできたであろうか、誰かのシルエットが現れた。体格からしてその姿はセロリアさんかメアちゃんだろう。
「海塚君、大丈夫?」
その声はセロリアさんだった。
「大丈夫です。あっ、そろそろでますので……」
「嫌です。私に体を拭いてほしいなんて言うつもりなんでしょうが、お断りします。では」
そしてセロリアさんは力強く外の扉を閉めた。
「俺、ご飯お願いしますね」と伝えるつもりだったのに、と私は呟いた。
私は体を拭き、服をちゃんと身に着けて風呂場から出る。そして三人がいるであろうキッチンに向かうのだった。




