5節 スプリングよ、散れ
私たちはクローバーさんの傘から降りる。
「ふん。ずいぶんとでかくなったな?」とメアちゃんたちのボス。
「胸も大きいし股間もすっきりしましたな……ふげっ」とジョルダーさん。
最後に言った途端にセロリアさんに回し蹴りを食らってジョルダーさんはふらつく。
上から人間とも言えない声が鳴り響く。
「ふん。言葉が言えなくなったか、愚か者め。お前ら、戦闘開始だ。メアのためにも、元のこいつのためにも」
「了解」とみんなは言う。
メアちゃんは未だに傘の中で寝ているようだ。傘は彼女をまるでゆりかごのようなサイズで広げられている。
「蔓葉之三日月」
クローバーさんはそう筆術を使うと、櫻木さんである双魔獣スプリングの手足を葉の付いた蔓で拘束する。
「メアの分もあるから長くはもたない」とクローバーさんは言う。
「安心して。私が今、終わらせるから」とセロリアさんは鎌を持って大きく振り掛かる。
「おい、セロリア!!」とボスさんは言う。
「これは私の妹の分。そしてこれは私とうみぃ……」
彼女は腹をめがけていたはずが、彼女の体の弾力で吹き飛ばされてしまった。砂埃が舞う。
「やれやれ、勝手にでしゃばるなよ」とジョルダーさんに抱きかかえられる彼女が砂埃の中から現れる。
「……っさい。もうすこしよい助け方はないの?お姫様抱っこだなんて。というか早く降ろせ、バカ」
どうやら大丈夫そうだ。
「海塚くん。敵は待ってくれないよ。早く一緒に戦ってくれ」
櫻木さんに一人で応戦するボス。そして地面に両手を付けて大量の汗を流しているクローバーさんがいた。
櫻木さんの口から何か緑色のものが飛んでくる。液体のようだ。
「海塚君、あぶない」
”無理難題変換”を使おうとした。しかしそれではクローバーさんの蔓が解かれてしまう。そうしたらボスまで……。
そう考えたら使えなかった。
「やれやれ、どこまであなたは私に頼ってくれないんですか?だって私たちは……」
そのなじみのある声と同時に開かれたピンク色の傘をバックにした見覚えのある姿がそこにいた。
「パートナーじゃないですか?」
その瞬間、彼女の傘からものすごい音がする。傘の後ろがまぶしい。
「なんで?」
「なんでってあなたの心の声が聞こえたのです。”無我”を使っている時も。『助けてほしい』という声がね」
彼女は傘を閉じる。そこには胸元から穴の開いたスプリングがそこに立っていた。
「この傘はね、使用者に蓄えられた攻撃分だけ傘が開いた状態に触れた瞬間に倍にして破壊光線が発動する妖術になってるの」
「へぇ」
「そうだ。私にキスしたよね?初めてなのに」
彼女は私に閉じたピンクの傘を向けてくる。開こうとしている。
「不可抗力だから。ごめんね」
「不可抗力なのか……。そうなのね。まだまだか」
私は首を傾げて「何で」と言う。彼女は「何でもないわ」と私に振り返って言った。
私たちが話している間、ボスとクローバーさんは彼女の様子を伺っていた。彼女の反応は何もなかった。
「十一月二十三日之儚沙」
クローバーさんはそういうと彼女の体はバラバラになった。正確に言うとスプリングは散ったのだった。
「まだだ!!」
櫻木さんの心の底から出された苦痛の声が鳴り響いた。彼女の声の通り私たちはまだ彼女の戦いは終わってなかった。なぜなら二つの剣を持った彼女がそこにいたから。そして緑の巨大は液体となって地面に吸い込まれたらしかった。




