6節 悲鳴と針と彼女
なんとなく数えておいたが、この階でちょうど二十三階だろう。そして目の前に耳にピアスをしている一人の男がいる。
「おやおや、どうやらここまで来てしまったか。お前たち、耳を澄ませば聞こえてくるだろう?お前らが助けたいと思っている女の悲鳴が。おっさん、その声聞くだけで興奮しちゃうんだ」
私は物音を立てずに聞く。「んんー!!」などと上から苦しそうな女性の声が聞こえる。恐らくこの声の主は櫻木さんだろう。二十階あたりから上が見えなくなっている。まさかまだ階数があったとは。
「お姉様!!」とメアちゃんは叫ぶ。
まさかとは思っていたが、彼女だったか。先ほどまで彼女の後ろを歩きながら何があったのかについて考えていた。私はメアちゃんとともにいたはずだ。彼女と離れ離れになったのは槍が来た時と櫻木さんを看病するために追い出されていたあの時だ。槍の奴は最終的に私が倒したのだ。それまでずっと奴は私のそばで苦戦していた。”無我”を使用してからはあまり覚えていないが。そうなると、残りは櫻木さんと何かあったことになる。彼女はメアに何をしたんだ。そして何のために。そう考えていたら、現在的に出くわしてしまったのだ。とにかく私はセロリアさんやジョルダーさんに何か言われるだろう。後で連絡を取らなくては。
「は?あいつに妹がいるなんて聞いてねーよ?お前、頭大丈夫か?」
メアちゃんはその挑発に答えようと小さな手を握り締めて彼に襲いかかろうとした。私はそんな彼女の細い左腕を引っ張った。
「痛っ。あなたまだいたの?こうなるとストーカーさんね」
私を見るなり、彼女はそう言った。その顔は正常ではないと今まで少ししかともに過ごしてこなかった私でも分かった。彼女の目はメトロノームの針のように泳いでいる。速度はあの錘を真ん中よりちょっと上の方に動かした感じの微妙な振れ幅という感じの速度だ。そして口の両端から透明なよだれを出している。耳も赤い。なによりうっすらと頬が赤めいている。
「ちっ。そのまま逝かせてやろうと思ったのによぅ。しょうがねぇ、十武人の四番目である中野八兵衛様がお相手してやろう。縫針」
彼の指から放たれた細長い数個の針が私たちを襲ってくる。その針には糸が繋がっているようだ。
「ビックリベア」
巨大なクマのぬいぐるみが私たちの前にはばかる。しかしそのクマに糸が食い込んでいく。そしてクマは上下真っ二つになった。
「ハチムスメ」
彼女がそう叫ぶと、ぬいぐるみでできたハチが飛びながら上から降りてきた。そして私たちに向けられた針をすべてどかした。
「次は私の番。トゲトゲマウス」
彼に向けてハリネズミのぬいぐるみが走る。
「ふん。本物の針の痛みを感じな。針鼠」
針でできた団子の球がハリネズミのぬいぐるみに直撃して刺さりまくる。
「なかなかの針愛じゃないか。おっさん、針毒なっちまうよ。なーんてな」
私たちに向かって針の波が襲い掛かる。まるでマニーロワイヤルの時の親友の地割れの迫ってくる感じに似ていた。
メアちゃんは突っ立たまま何もしようとしない。いや、正確に言うと上の階をなぜか見ていた。
「無理難題変換」
私はそう言って指で漢字を示し、その攻撃を彼にそのまま返した。しかし彼は自分の両手に持っている針を犠牲にしてその針を折った。
「針の数がすくねえ。しょうがねえ、とっておきの技で一発ノックアウトだ。針化。針自打射激」
針が自ら動いて無数に集まって回っている。浮きながら花や猫の形をしていた。
「なるほど。そういう戦法ですか?無下射展図支」
前にあった針はそのまま下に落ちた。そして私の背中を刺そうとしていた針も同時に落ちた。その針には毒が塗られていたのだろう。
「無展化」
落ちた針はすべて彼に刺さった。彼はみるみる血の気を失った。そして数秒後に彼は光の塵となって消えた。
「メアちゃん、倒したよ?」
彼女は私を一瞬見るなり、「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と何度も言って私の前を歩く。なんだか気味が悪い。
私たちはその後、そのままの状態を保ったまま三階分上り、ついに最上階へと上り切ったのだった。




