4節 壊れゆく彼女
次の階に行ってみたが、そこには誰もいなかった。しかし何か降ってくる気配を感じた。
「メアちゃん、伏せて」と私が言うとその通りに彼女は動いた。
私もその場を少し離れる。するとそこに無数の細い棒が私たちのいたところをめがけて飛んで来た。無数の弓矢の周りには市販で売られている消しゴムのような火の玉が二つ飛んでいた。私たちがいたところの床に着きそうな頃になると、その二つの火の玉は消えてなくなり、棒のように見えた矢の先部分が燃えていた。撃ってる場所は二階先のところだろう。一人は木とタコ糸でできたであろう弓矢を持っている。もう一人は銀色と黒色の片手銃を両手に持ち構えている。だいぶ背が小さいようにここからだと見えた。
「ふーん、やるじゃん」と弓矢を持つ方が言う。
「だね、裕也。はたして彼らは上に着くことができるのだろうか?答えはノーにする。だって俺たち二人がおるからね?」と銃を持った方が言う。
やたら幼い声だ。私はメアちゃんの方に振り返る。
「メアちゃん、大丈夫?」
「大丈夫じゃないと言えばどうしてくれます?私を置いて一人で解決ですか?」
「メアちゃん、なんか怒ってない?」
「いいえ、怒ってませんよ?別に」
すると上から笑いながら声がかかる。
「フハハハハハ。見ろよ、裕也。あいつら余裕そうにあそこで話し合っているぜ?」
「まこちゃん、あんま笑い声上げてるとボスにばれちまうがな」
「そりゃわりいござんしたあ。とにかくあいつらに自己紹介でもしてやろか?」
「じゃあ、俺からや。大上真琴。六番目の銃使いや」
「俺の名は大崎裕也。見ての通り弓矢使ってジャジャジャジャーン」
そんな二人のことをよそに私とメアちゃんは走って一階先へ着いていた。しかしその直後に「氷下銃仕」と「弓下届」という言葉とともに今回は火の玉ではなく氷の小さな刃と共に無数の弓矢が飛んで来る。私はメアちゃんの手を引き連れて、落ちる場所よりも先をめがけて走った。落ちたその場所には氷がその一面だけ敷かれていた。大きさ的には市販の二人用のビニールシート一個分だろうか。私はそのまま彼女の手を引っ張って階段を上がろうとした。しかし彼女は私のことを下から引っ張ってこう言う。
「やめてくれませんか?私、あなたが生理的に嫌いになってます」
私は彼女の言葉に驚いた。まるでいつもの彼女じゃないからだ。でも家からここまで彼女は私と共に過ごしていた。家の中でもだ。ある時間を除いてはではあるが。
「ごめん」
「あっ、いえ、私何を言ってるのだろう?何か頭がぼーっとして。ごめんなさい」
普通のメアちゃんに戻ったのだろうか?
「おやおや、こんなところにいたのか?」
私とメアちゃんを見かけるなり、銃を持っているまこちゃんが聞いてくる。幼い声をしていたと思っていたが、まさか小学生くらいな子だったとはな。この世界はもう私がこの筆術に出会う前の法律なんて関係のないことになっているのだろう。だが、私が彼らに問いたいことを聞く。
「お前たち、その武器を使って何か後ろめたくならないか?」
「ならないよ?お兄さん達だって使ってるでしょ、魔法。それと同じだもんね」と祐君の方は答える。
「そうだな。でもな、それは魔法よりも怖いんだ。大人しくして私たちを先に行かせてくれれば何もしないよ。もしかしたら君たちも自由になれるかもしれない」
「はぁ?そんなのするわけないじゃん?ねっ、まこちゃん」
「そーだ、そーだ」
「アニマルキル!!」
戸惑いもないその声が鳴り響く。その時、彼らの首は鉄の板に転げ落ち、光とともに消えた。彼らの後ろには両手に剣を持つカンガルーのぬいぐるみがいた。
「ちょっと、メアちゃん?」
ちょっと先を歩いていた彼女に声をかけると、私の声に反応して彼女は私を見るなり虚ろの目で見ながらこう言った。
「殺すのって楽しいですよね。あれ?あなた、どちら様ですか?私は早くお姉様に会いたいですから、さよなら」
私は耳を疑った。彼女は先ほどとは違い、殺すことに恐怖などない。むしろ楽しいとまで言っている。それよりも先ほどから一緒にいたのに私のことなど忘れてしまったようだ。それにお姉様って?セロリアさん?
とにかく彼女に声をかけてみた。
「海塚だよ。メアちゃん」
しかし私の言葉を無視するかのように上へと目指していく彼女だった。私はその足取りをついて行った。私はまだ知らなかった。本当のこの事件の黒幕の手のひらの上で人形遊びをさせられていたことに。




