2節 その手をどけろ
彼女は私のベッドで安らかに寝てるらしい、というのもメアちゃんに「彼女もまた一人の女の子です。この意味分かりますよね?」と私にしかめっ面で訴えて来た。
彼女の手当てをするにしても服を脱いだりするために、私には退いてほしいということらしい。その代わりに私に今すぐタオルと水を用意して欲しいと急かせる。
私はそれを取ってきて部屋に入り、彼女に聞く。
「救急車を呼んだ方がいいんじゃないの?」
「うーん、なんとかなると思うから」
「でも……」
「いいから、早くここから出て行ってもらえます?それともこれからあなたをゴミを見る目で見ればよろしいのですか?」
私は何も言わずにこの場を去ってリビングに待つ。鶴の恩返の女の子でもそのような頼み方はしないのにと思いながら。
しばらくしてから私の部屋から騒がしい物音が聞こえる。
私が走ってその場を駆け寄ると黒い上下下着姿のさっきの血だらけの女性がいた。その手には二つの剣を交差に交えてその交えた部分の先の開いた部分に挟まれるかのようにメアちゃんの首がある。メアちゃんは壁を背中にぴったりとくっつけて泣き出しそうになっている。
「貴様、奴らの味方か?私に何をした?体をいじって変に扱う気だろう?ん?仲間か?動くな、こいつを殺すぞ?はっ、剣持ってねぇならやりあえねぇなぁ」
私は彼女に近寄る。かわいそうに。こんな姿なのに強気になって。
「近づくなと言ったはずだぞ?」
「もう、無理しなくていいよ」
私は彼女の肩に軽く手を置いた。その場で彼女は崩れ落ちてしまった。しっかり休まないから体力に限界が来たのだろう。
「彼女……」
「彼女はメアちゃんを殺す気なんてなかったよ。だって体が震え上がってたからね」
「いえ、そうじゃなくて……その……」
メアちゃんは恥ずかしそうに彼女を指差す。
「あぁ、布団に戻してあげないとね」
私は彼女をお姫様抱っこして布団に運ぶ。さっきよりも肌に触れる部分が多いためか、汗が私の手や腕に付着する。
「これでいいかな?」
「彼女を……」
赤面してメアちゃんはそう呟く。
「そうだね、暴れないように彼女の両手両足を縛って置いた方が良さそうだね」
私はクローゼットに置いてあったビニール紐を取り出して彼女の足と彼女の手をそれである程度軽くでも取れないように縛った。こう見るとなんかエロいなぁ。胸の膨らみが見えるし……。あっ……。私を見つめるメアちゃんの視線が熱くて怖いが、そちらを見る。まるでゴミを見る目ではなくゴミを捨てる日なのに萎えるといったようなあの目を私に向けていた。
「あのメアちゃん?これは違うからね?俺、そういうことしたい訳じゃないからね?」
「そうですね、変態さん……きもっ」
「あの、メアちゃん?俺、今随分傷ついてるんだけど?」
「いつまでそこにいるつもりなんですか?きもいからさっさと消えてくれません?」
私はリビングに戻り、魂がどこか飛んでいったかのように椅子に座る。
私はジョルダーさんの言葉を思い出し、SNSを打つ。
『あの後、二つの剣を持った女性が玄関前に倒れててメアちゃんに治療してもらったのですが、その彼女がメアちゃんに向けて混乱した状態で暴れてたので私が止めてまた布団に寝かせるために両手両足をビニール紐で縛ったらメアちゃんに怒られました。どうしたらよいでしょう?』
すぐに返答が来た。
『ざまぁ……ぷっ(笑www)』
ムカつくな、というかそこら辺にいるガキか。ジョルダーさん。
そう思ってたらまたすぐに返答が来た。
『というのは冗談で時間が経てば明日にでも機嫌直すよ。頑張れ』
それを見た直後に同じ文章を送ったセロリアさんからSNSが届く。
『あらあら、うちの妹がごめんね。あの子が襲われそうになったからできる限り対処したのよね。私も彼女にメールでフォローしてあげるから海塚君は気にしないであげてね。そんな妹だけどこれからもよろしくね。何かあったら私でもいいのなら相談してね、待ってるから。あっ、エッチなことを聞くのは反則なんだからね?まぁ、ジョルダーというえげつない生命体よりはマシだから信頼してるわ』
『ありがとうございます』
私はすぐに返信を送った。さすが姉御だと思いながら。ちなみにジョルダーさんには返信を送ることはしなかった。




