5節 トリプル大富豪
私は目の前にいるメガネ野郎を見ていた。
「はん、結局俺とお前が残ったな」
「あぁ。そうだな、大貧民」
「うるせぇ、大富豪だな?お前の地位が落ちた時の顔が楽しみでしょうがねぇ」
「ホント、夕日に鳴くカラスよりもうるせえな、最下位」
「ふっ。そうだろ?カラスより優れてるって……最下位言うなし!!」
「あの二人ともいいですか?」
二人の間に釘を刺すように言葉がのめり込むが、そこに隙間の開いていた板の空間に釘を刺そうとしても無意味だったというようにそのままその言葉は私たちを聞き止めることなく通過してしまった。
「ホントのことだろ?」
「んだと?お前なんか俺の眼鏡の縁にありそうなホコリにしか見えねぇよ」
「お前の眼鏡って汚ねぇんだな」
「そろそろやめてもらえませんか?」
私とメガネ野郎はついに審判である横にいた女に拳で頭を殴られた。私は痛そうにしていたが、目の前にいた彼は違った。「ありがとうございます」と言いながら嬉しそうに喜んでいた。私は心の底からこいつのことを「気持ち悪っ!!」と改めて思った。
女性は私たちをゴミを見て分別できてないからイラッとするんだよ、とでも言うかのような顔で私たちに説明し始めた。
「今まで使っていたトランプは今回、使用しません。ここからは新たなトランプを使います。枚数は同じなんですが、五十四枚のカードを三組まとめた百六十二枚のカードをシャッフルし、各々のテーブルに三組のカードを分けたのがこちらです」
いきなりテーブルの真ん中あたりから小さな穴が開いたと思えばそこからトランプが綺麗に積み重なった状態で現れる。そのカードを手に取る彼女。
「それでは、このカードを配らせていただく前に二人には運命の選択肢を与えます。先ほどのように大富豪には二枚のカードを良いものと交換、大貧民には悪いカードを二枚交換というシステムを使用するか。もしくは先にこの山札から私が四枚取るかです。さぁ、各々選んでください」
なるほど。どちらにせよ、四枚動くというわけか。そもそもあの山札のカード的にはどんなカードが来ているのか分からない。もしかしたら変わってない普通に綺麗に並んでるかもしれない。地位的には私は大富豪だ。ならば悪いカードがあいつから二枚来れば色々と勝てる方法がある。逆に四枚先に捨てられたらヒントとなる手段がない。そうなればどっちが勝てるか分からない。
ならば選ぶ選択肢は一つだ。
「前者で」と私。
「後者で」とメガネ野郎。
二人の言葉は同時に重なりあった。
「ならばコイントスで決めましょう。こちらの金に光ってる方が表で、黒くなってる方が裏です。海塚さん、表と裏どちらが良いですか?」
女性は私にコインを見せながらそう聞いてくる。
二択の選択肢は四択の選択肢よりも難しいとはまさにこのことである。
「じゃあ、表で」
「承知致しました」
彼女はコインを飛ばした。回転しながらコインは飛んでいる。あれ?なんかこっちに……。そのコインは私の前に突き刺さった。ちょうどテーブルの上に置いてある右手の親指と人差し指の間に。
「私の手にコインを刺す気ですか?」
女性にそうツッコミを入れた。
「えっと、コインは……海塚さん、手がコンビニで買ったカップ焼きそばのお湯出しのフィルターから中身が出ないかのように見えないのでどけてもらえませんか?」
あんたが狙って刺してきたんだろうが、と思いながらもそのコインに触れないように右手をどかした。
コインは私たちに裏であるのが分かるように斜めに刺さっていた。地面から七十五度以上の角度か。
「それでは四枚のカードを取らせて頂きますね」
そう言って彼女は四枚のカードを山札から抜き取った。そして私たちに二十五枚のカードを配っていったのであった。




