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第八十六話:Animal Communicator

 「わたし、その……、動物とですねえ、お話が出来るんです」


 背中の方から美雨の声が訥々と聴こえた。

 すごく言い難そうに。


 「あの、その、最近、でもないか、えっと、テレビとかでも時々そういう人出てくるじゃないですか? あの、えっと、アニマルコミュニケーターっていうあれです」


 美雨の云う様に、たまにテレビ番組で観ることがある。動物と話が出来る人の存在。動物番組かなんかだっけかな。でも、あれってよくある超能力者の番組みたいなもので、本当かどうかわからないし、エンターテイメントとしての認識しか無く、まったく信じた事は無かった。


 少なくとも去年までの自分なら、今の美雨の言葉は信じる事は出来なかっただろう。


 今年になってからいろいろと有り過ぎた。普通なら信じられない能力を持っている人たちと出会った。だからこそ、美雨が動物と話せると云った事をまやかしだとは思わなかった。


 「そっか」


 その為か、自分の口から割りと普通に相槌を打つかのように言葉が出た。

 ニーナの方は特に反応が無かった。

 まあ、ニーナの居た世界では、当たり前にいろいろな能力者が居たみたいだからな。驚くに値しないんだろう。むしろ、この世界の人間が似たような能力をほとんど持っていない事を驚いていたぐらいだからな。


 「あの、、、反応が随分と薄いです。ちゃんと聞いてくださってましたですか?」


 背中をぐぃっと掴まれて、前後に揺すられる。

 何するんだと振り向いた目の前に美雨の顔が在ってドキリとした。

 美雨は別段気にする風は無く、ムスッと口を尖らせて大きな瞳で睨んでいた。


 「や、動物と話が出来るんだろう。そうなんだあっていう感想だよ。うん。そのまま」


 顔を美雨から逸らす。両肩に彼女の掌の暖かさを感じた。


 「なんか、今まで、というか、最近だけど、いろんな人に在ったんだよ。だから、お前のその、動物と話しが出来るとか聞いても、別に驚かないよ」


 肩を掴む手が強くなった。


 「そういう人がたくさん居るんですか?」


 美雨の方が驚いていた。美雨にしてみたら、自分の能力は普通の人には出来ないもので、信じてもらえない類のものだ。だから、あっさりと信じられるもの意外だろうし、ましてや他にも似たような特別な能力を持った人が居ることは驚く値するのだろう。


 「話が長くなるから、その話は後にしよう。まずは、美雨の話を聞こうか」


 なにか言いたげな視線を此方に向けていたニーナを眼と言葉で制して、美雨に先を急がせる。


 「そうですね。わかりましたです」


 美雨が肩から手を離して元通りに座り直したのを見届けてから、視線を元通り何も無いただの壁へと戻した。


 「あのとき、中庭でニーナさんが襲われたときです。止めに入ろうと思いました。でも……」


 美雨は、そこまで云うと言葉を途切らせた。

 しばらく沈黙が流れる。

 彼女から発する緊張した空気に口を出すのが憚られ、彼女の言葉を待つしかなかった。


 「怖かったんです。あの子が人じゃない何かに感じましたです。本能だったのかもしれませんです。いえ、それは言い訳かもしれませんです。ただ、言葉は通じない気がしましたし、それにわたしじゃ、その、お二人を引き離すとかそんな力ありませんですし。とっさの判断でしたです。わたし、動物と話しが出来るから、ひょっとしてこの子と動物と話すように話せるんじゃないかと思ったんです」


 背中を通じて、後ろの美雨が身動ぎしているのを感じた。

 言い難い事を云う時の癖なのかも知れない。

 またしばらく沈黙した後


 「本当は、人に対してやってはイケない事だと思っていますです。人の心の中を勝手に覗くのとは違いますが、その人が意識できない領域での会話になるので、やっぱり勝手に覗くのと似たり寄ったりだと思いますです」


 今度はニーナが身動ぎした。

 ニーナなりに自分の能力行使し対する引け目を感じたのかもしれない。

 美雨の語調にはニーナを責める意図を感じない。

 話の流れ的に出てきた言葉なのだろう。しかし、ニーナには刺さった様だった。


 「わたし、動物と会話するときは、その子の心と対話するんです。同じ様な方法で、彼女と対話しましたです。そしたら、マルニィさんって方がいらっしゃって」


 「「いらっしゃって?」」


 ニーナと同時に反応した。

 二人でほぼ同時に美雨の方に向き直った。彼女は向こうを向いたままだったので、そのうなじを見つめる事になった。

 美雨の言い方はおかしい。

 いらっしゃってとはどういう意味なのだ。


 「言葉通りです。あの子自身の意識は混濁していて何人もの人がいっぱい混ざり込んでいましたです。その中の人、一番強い意識が在ったのがマルニィさんって方でしたです」


 「えっと、つまり、あの子はマルニィじゃないと?」


 うんうんと、ニーナが代わりに返事をした。

 

 「あの子はマルニィじゃない。でも、あの子は、マルニィの言葉を話した」


 そうつぶやくニーナの表情は後ろ向きの為、観ることは出来なかった。


 「あの子には、たくさんの人の意識が在りましたです。十数人はいらっしゃったです。そして、マルニィさんと拮抗していたのが、その……」


 美雨の身体が震えた。

 その震えが此方まで伝わってくるようだった。


 「今までたくさんの動物と話しましたです。でも、あんなのは居なかったです。普通、どんな動物でも、人と一緒とは云いませんが、それなりに理解できる感情がありますです。でも、あれ・・には、あれ・・には、、衝動しか、人を喰う衝動しかありませんでしたです!」


 声が震え、美雨は立ち上がっていた。

 その周りを心配そうに連れて来ていた子猫がぐるぐると廻る。


 「心での会話は言葉じゃありませんです。感覚です。五感です。言葉に置き換えられる事もありますが、わたしの場合は、主にイメージです」


 立ち上がった美雨は、此方に背を向けたまま大きく両手を広げて語り出した。

 その口調は段々と熱を帯びていった。


 「わたしはマルニィさんと対話しましたです。マルニィさんを通じてそのイメージを受け取りましたです。あんなの――」


 「そうなのね。」


 いつの間にか、美雨の正面に立っていたニーナが彼女を抱きしめて落ち着かせていた。


 「あなた、『屍魔』を視たのね」

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