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異世界の姫さまが空から降ってきたとき  作者: 杉乃 葵
第六章 朱堂アリス
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第八十一話:Roar

 すごく気分が悪い。

 最近特にそうだ。

 段々と気分の悪さ加減がひどくなって来ているような気がする。

 頭がひどく痛む。

 まるで鈍器で殴られた後、奇跡的に一命を取り留めて助かったものの後遺症の様に頭痛が続いている。そんな感じだった。

 いつもは、能力が発動した後に感じる様な状態だが、何故か今は能力が発動していないにも関わらず、ずっとこんな状態が続いている。


 放課後いつもの様に、実験室へ向かう。寮から出されて数ヶ月が経つ。突然の協力要請。それはほぼ強制の様なものだった。

 まあ、入学の際、その話は聞いていたし、別に不満は無いのだけれど、こう数ヶ月にも及ぶとさすがに心身共に疲れてくる。


 実験が始まってからこの数ヶ月、ずっと私、朱堂アリスは実験室で生活している。

 実験室で眠りに就き、実験室から学校に向かう。

 一応元ルームメイトやクラスメイトには、特別な場所にて研究に協力していると告げられている。その内容については極秘扱いになっている。他の人に話した場合の罰則については何も聞かされていない。それに話す気もないけど。話す程の事もないし。


 実験室のある建物は学校の敷地内の奥のほう。

 普段は誰も来るような事はなく、研究員ぐらいしか行き来しない場所にある。

 こじんまりとしてた四角い5階建ての建築物。特にデザインにも凝ってなく、ただの直方体って感じで味気がない。白い壁に窓が各階に幾つかあるぐらい。他に目立った特徴はない。


 建物に入ると地下へ向かう。この建物は地下3階まである。

 私の住んでいる実験室は地下2階。

 エレベータは使うなと云われているので、階段でいつも降りている。

 地下1階と地下3階に何があるのかは知らない。

 階段とフロアは扉で隔たれているため、どんなフロアか扉を開けないとわからない。

 気にはなりながらも、勝手に扉を開いたら怒られるのがわかるので開かない。


 薄暗い階段を地下2階まで降りて扉を開く。

 重い鉄の扉がギィギィと嫌な音を鳴らす。

 毎日聞いているが全く慣れない。


 ふぅ・・・


 自然に溜息が出る。


 まっすぐに延びている廊下を進む。

 ホテルの様な感じに部屋が幾つか並んでいる。

 部屋の鍵を鞄から取り出し、B202の扉を開ける。

 表札なんて無い。この部屋が私の部屋だと外から解るものは何もない。

 此処が今の私の部屋だ。

 私物等全てこの部屋に運び入れてある。


 もう寮に戻れないのかな、っと不安が少し過る。


 部屋の中には監視カメラが幾つか配置されていて、私の行動は一々記録される。

 カメラが捉える範囲は同意の上決められている。

 どうしてもカメラに写りたくないプライベートな事がある場合の為、映らない場所も用意されているが、なるべく使うなと云われている。

 まあ、監視カメラが動いていると思うと、映らないと云われてても気になるものだけれど。


 机の引き出しを開けて、実験用の器具を取り付ける。

 輪っかになっててなんか電極なのかコードがいっぱい付いたものを頭に被る。

 後なんかリストバンドのようなものを両手首に装着する。

 これが毎日の日課。

 私の能力がいつ発動するか自分でもわからないため、常に器具を付けておかないとその時の状態を計測できないという事らしい。私にはよくわからない。


 最後に私の能力が発動したのは、そう、確か『美霧』って方から受信したときだ。

 あれを最後にして、まだ発動していない。

 幸か不幸か、その時はまだこの実験は始まっていなかったので、寮の部屋で発動したんだった。

 今思えば、実験が始まる前で良かったと思う。

 実験が始まっていたなら、あの手紙を渡す事は出来なかっただろうし、渡す事が出来てもその内容が他に知られてしまっただろうから。

 その事だけは幸いだった。


 だからこそ思う。また発動したとき、その内容が怖い。

 私は誰の、どんな事を書き記すのか?

 そして、この状態なら、内容を隠す事は出来ないだろう。

 出来れば、当り障りのないものを受信する事を望むばかり。


 私の能力で、誰かに迷惑を掛けるような事はしたくない。


 私が本当に望んだ事は、この能力を上手くコントロールする事が出来る事。もしくは、この能力を消し去る方法。

 その望みを掛けてこの学校への入学を承諾したのだ。


 私の能力。自動書記は、亡くなった方の思いを他者に伝えるもの。

 でも同時にそれは、無関係の私が、その方たちの秘密を知ってしまう事でもある。

 今はその重みに耐えられない。


 『美霧』さんのあの思い、受け取ってしまったからには無かった事にも出来ず、『山依』さんに手紙として渡す事で自分の役目を終えた。いや、終えた事にしたかったのだ。『山依』さんに丸投げして逃げたんだ。


 でも結局忘れてしまう事は出来ていない。

 あの内容は、ほとんどが『山依』さんの『山根耕一』さんに対する思いについてのメッセージだった。その事は私が関与する事ではない。また、『山依』さんの能力についても私にはどうでもよい事柄だ。


 問題は、『ニーナ』さんの事。


 私は『美霧』さんが書き記した『ニーナ』さんについての事を知ってしまった。


 私は・・・・・・何もしないでいいのだろうか・・・・・・



 ガスッ!!


 そんな音が聞こえたような気がした。

 ずっとベッドに腰を下ろして物思いに耽っていたところを、今まさに鈍器で頭を殴られた様に感じ、視界が明滅した。

 急激な嘔吐感があり、そのまま床に倒れ伏した。

 床に敷かれたオレンジ色の絨毯に顔面が擦れる。


 「はぁああっ」


 ずっと息を止めていたのか、思い出したように呼吸を始めた気がした。そしてその息がどんどん激しくなっていく。


 何者かが私の身体と同化していく感覚があった。

 これは・・・・・・きっと、能力の発動だ。


 ぐわんぐわんと耳鳴りが激しく鳴る。すぐそこの机までの距離が異常に遠く感じる。


 「あぁぁぁがぁ、、、あぁぁぁがぁ」


 何かの動物の鳴き声のようなものが聞こえてくる。

 気持ち悪い。

 すごく悍ましい声だ。

 聞くものを不快に、そして恐怖を感じさせる。怪物を思わせるような鳴き声だ。


 「あぁぁぁがぁ、、、あぁぁぁがぁ」


 何故そんなものが聞こえてくるのか? という疑問が湧いたけど、あまりの気分の悪さ、頭痛、そして耳なりのせいで、考えが纏まらない。


 机に辿り着き、ペン立ての中のものを荒々しく引っ掴んで、ノートに殴り書きを始める。

 もはや勝手に身体が動いていた。

 いつもは意識が無いのに、今はまだ在った。いや、もしかしたら、いつも意識が在ったのに、忘れてしまっているのかも知れない。


 書き殴っているノートには、観たことも内容な物が書かれていた。おそらくこれは文字なのだと感覚的に理解は出来るけれども何処の国の言葉とも知れず、まったく観たことも無い文字だった。


 「あぁぁぁがぁ!!!!」


 絶叫を聴いた。

 部屋が振動するほどの叫び声だった。


 薄れゆく意識の中で、その咆哮が何処から聴こえるのか気が付いた。


 その出処は、私の口だった。

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