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異世界の姫さまが空から降ってきたとき  作者: 杉乃 葵
第五章 観季

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第七十三話『departure』

 数日後、観季は旅立った。


 赤部の実家を訪ねるつもりらしい。赤部が居るとしたら、おそらく実家だろうということだ。確かに、他に行くところなど無いだろうし、まず最初に考える居場所だ。だが、赤部の実家は遠かったし、一回会うだけでどうなるともわからなかった。ただ、観季の実家と近いらしく、しばらくは実家暮らしをするつもりらしい。観季と赤部は幼馴染なのだそうだ。小学生の頃からずっと一緒にいるような仲らしい。学校はその間休むとのこと。本当は学校を辞めるつもりだったそうだが、親に猛烈に反対されたらしい。そりゃあそうだろうなぁ。むしろ、しばらく学校休むことを承諾したのが意外なぐらいだ。そう言うと、観季は、ふふふと、いたずらっぽく笑った。

 笑うと結構可愛い。いつも、なんか辛そうな顔しか見たことが無かったので不意をつかれた感じだ。

「なんだ。親を泣き落としたか?」

「ふふふ、そんなところです」

 意外とこの子は、したたかな奴なのかも知れない。


「ニーナさん、山根さん、たいへんお世話になりました」

 そう言って観季は、深々と頭を下げた。


「真知に会って、いっぱい話して来ます」

 その言葉には、力が宿っていた。上手くいくことを願わずにはいられなかった。本当は、一緒に付いて行ってやりたいけど、俺は何かと学校サボり過ぎてるからさすがにこれ以上授業に出ないわけにはいかなかった。それに、これは赤部と観季の問題であり、他が立ち入っていい筈がなかった。


 重そうなリュックを背負い、キャリーカートを引きずって歩いて行った。バス停まで見送ると言ったのだが、観季の希望で学校の正門前で別れた。


「バスで見送られるのは苦手なんです。それに……わたしが独りで歩いていくところを見送って欲しいんです」


 去り際に、観季はそんなことを言った。


 俺とニーナは、その小さな後ろ姿を見えなくなるまで眺めていた。



「ねえ、コーイチ?」

 隣で一緒に見送っていたニーナが俺を見上げた。


「私……役に立った?」

「充分役に立っただろう。観季もなんか元気になったみたいだし」

 ニーナは首をふるふると振った。金髪がそれに合わせてふるふると揺れた。

「そーじゃない。コーイチの役に立った?」

 俺の? 俺は自分を指差して確認した。ニーナは、うんうんと首を縦に振った。金髪もそれに従って揺れた。


「私は、コーイチの役に立とう思って、いままで頑張ったんだよ?」

 どういうことなのか、わからなかった。ニーナの真意は測れなかったが、役に立ったのは事実だ。

「うん。役に立った。ニーナ、ありがとう」

 そう素直に告げた。


 ニーナは、すこぶる嬉しそうに破顔し、顔を真っ赤にしてくるくると廻った。そして、最後はガッツポーズを決めて気合いを入れた。

「これからもずっと、コーイチの役に立つね。nullさんには、負けないから!」


 こいつもしや、nullさんに妬いてる?!


 あー、そうなのか。こいつの最近のおかしな行動の裏にはそういった事情があったのか。

 やたら強引に、観季に関わって能力のコントロールトレーニングさせるのに熱心だと思ったら、そーいうことだったのか。

 こいつ、もしかして、すごいヤキモチ焼きなのか?

 それは、喜んでいいやら、怖がった方がいいやら……

 というか、プロポーズが誤解だってことが尚更言いづらくなったじゃないか。


 ◇◇◇


 観季の件が解決――とはまだ言えないが、一応の一区切りがついてほっとしていたら、夜にヤマゲンからの電話が鳴った。

 なんだよう、人がせっかくゆっくりとした時間を過ごそうという時に。そう思いながら、スマホに出ると、ヤマゲンがけたたましく喚いた。

「え? なんだって? なんて言ったのかわかんねえよ!」

 アイツの声のでかさに釣られてこっちもつい大声で返してしまった。

「だぁ〜かぁ〜らぁ〜!! やつが来たの! やつがぁ!」

 やつってなんだ?! 怪物がまた出たのか?!

「おい、ヤマゲン、お前無事か!」

「無事じゃない! 助けて! やまねこぉぉ!」

「どこだ?! どこにいるんだお前!」

「寮。オレの部屋」

「え? 寮にやつが出たのか? 部屋に?!」

「そうだよ! やつがルームメイトだって! 信じられない!」

 は? ルームメイト? やつが? ヤマゲンの奴、何言ってやがる。

「オレっ娘ちゃん、誰に電話してんのよ〜。わたしの歓迎会は無いの?」

 ヤマゲンの電話の向こうから、麗美香の声が聞こえた。


 ああ、麗美香がルームメイトになったのか。ん?


「ヤマゲン、ちょっと麗美香に代わってくれ」

 ヤマゲンは、素直に麗美香と交代したようで、すぐに麗美香が話しかけてきた。

「なになに? だれだれ?」

「麗美香、おまえ、何やってんだよ?」

「ああ、なんだ、ポチか」

「なんだとはなんだ? おまえ、家から通学してただろ? どうしたんだよ?」

「あー、朝早いから辞めた。今日から寮から通うことにしたの。すごいよ。八時半まで寝れるよ」

 八時半まで寝てたら、寮でも遅刻だ。

「やー、ちょうど部屋が空いたって聞いたからさ、即申請したよ」

 そうか……美霧の寮契約解除されたからか……。

 そのことにズキリと胸の奥に痛みを覚えた。


 しかし、よりによってヤマゲンと麗美香がルームメイトになるとか。

「あ、まだ片付けあるから切るね。ばいば〜い」


 プツ


 ツーツーツー


 あいつ勝手切りやがった。


 ヤマゲン、元気でな……なむぅ〜


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