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異世界の姫さまが空から降ってきたとき  作者: 杉乃 葵
第五章 観季

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第七十二話『regret』

 ニーナは、一通り話し終えると、ふうっと一息付き、空を見上げた。


 夕焼けの空を見上げるニーナの横で観季は嗚咽を漏らしていた。

 中央公園に三人で集まり、さっきまで、ニーナの話を聴いていたのだ。夜も近いので、人影はまばらだった。ニーナが観季を寮から半ば無理矢理に連れ出して、ここまでやって来たのだった。


 むせび泣く観季の背を、ニーナが優しく撫でていた。話したニーナより観季の方がひどいことになっている。観季は感受性が強いのか、すっかりニーナに感情移入しているようだ。


 ひっぅひっぅ


 呼吸困難になりながら観季は肩を震わせ泣き続けていた。ニーナの方はというと、割とスッキリした顔をしていた。その様子を見ていると、違和感を覚えた。何かが引っかかったのだ。この様子は、まるで観季がニーナの代わりをしているように見える。


「まさか、観季、おまえ」


 そう言いかけたとき、ニーナが手で制した。私に任せてと、その碧い瞳で語っていた。


「観季さん、あなたはその能力の本当の意味がわかってないです」

「ほんとうの……いみ?」

 まだ涙で打ち震えながら、観季は応えた。そんな観季を優しい目でニーナは見詰めた。

「あなたの能力は、相手と分かち合う力です。相手の代わりになることじゃない。あなたは相手の苦しみをすべて自分に移してしまっているけど、本当は、それは分かち合うために在る力なんです」

「分かち合う?」

 観季は、ニーナを見上げて問うた。

「うん。私から取ったものを半分返して。辛い気持ちも私にとって大切なものなの」

「返すって言われても、取った覚えもないし、返す方法もわからない」

「意識しないでやってるのね。うーん。じゃあ、訓練思い出して。ほら、私と繋がって」


 二人は立ち上がり、向き合って共に両手をかざし合った。


「呼吸を合わせて、ゆっくり」


 しばらくそうしていた彼女たちを、俺はぼんやりと眺めていた。二人の呼吸が合い始め、一体となっていくように感じられた。気が付くと自分も同じように呼吸を合わせていた。そうすると、ニーナの哀しみやら苦しみやらの一部が流れ込んでくるような、そんな気持ちになった。


「訓練してたから、私と観季さんは共感しやすくなってたのかもね」

 そうか。観季の能力は、赤部専用というわけでは無かったのだ。相手のことを思うあまり、相手の状態をそっくりそのまま自分に移してしまう。そういった能力だったのだ。観季は特に赤部に対して強い感情があったのだろう。そして今は、ニーナにも似たような感情を抱き始めているのかもしれない。それ故に、ニーナに共感しニーナの辛い気持ちを自分に移し取ってしまったのだろう。単に訓練で共感しやすくなっていたのではないと思う。


「観季さん、私にも渡して」

 ニーナの問いかけに対して、観季は困惑していた。どうやったらいいのか本当にわからないのだ。観季は、自分が身代わりになってでも相手を助けようという気持ちが強いのだと思う。そんな彼女が、相手に痛みや苦しみを渡すなんておよそ想像できないことだろう。でもそんな身代わりは、赤部が話したように決して相手を幸せにはしない。


「なあ、観季」

 勝手に口が開いた。何を言うべきか分かっていたわけではない。なぜか自然に観季に話しかけていた。突然話しかけられた観季は、驚いて俺を見た。ニーナも俺が何を言うつもりなのかと、俺の言葉を黙って待っていた。


「赤部の奴、自分自身の力で成し遂げたかったって言ってたぞ。それに、観季が代わりに苦しむのなんて耐えられないとも」


 きっと、この二人の関係を思うに、赤部の奴は観季に自分の思いを伝えていないはずだ。きっと伝えれば観季を傷つけると思うはず。そうだとするならば、赤部の思いを知っている俺が伝えるしかない。そしてそれは今このタイミングをおいて他に無いはずだ。たとえ観季を傷つけたとしても、これは伝えなければならない。そう思った。


「わたし、余計なことをしたってこと?」

 観季は戦慄いた。


「別にお前を責めてるわけじゃない。勝手にそうなったんだろう。俺が言いたいのは、身代わりになろうなんて思うなってことだ」

「わたし、別に、そんな風には……」


 自覚なかったのか。まあ、そうだろうなあ。こいつには分かち合うなんて無理な気がしてきた。少しでも相手に苦しみを与えるようなまねはできなさそうだ。自分が苦しむことが相手を苦しめるとか言っても、きっと相手に気づかれないようにするんだろうなあ。


「ニーナ、観季には分かち合うとか無理みたいだ」

 そう素直に感想を述べた。ニーナはそれを聞くと、残念そうに肩を落とした。


「そういえば、ニーナ、おまえなんでマルニィの話を観季に聴かせたんだ?」

 ニーナがマルニィの話を観季に聞かせ始めたとき、観季が抱く赤部への気持ちと共感するためだと思った。ただ、まだ他に何かニーナに思惑があるような気がしたのだ。


「あ、そうだった。えっと……」

 ニーナは何かを思い出そうとして口に手を当てて、空を見上げた。



「観季さん、赤部さんにはまだ会える可能性がある。だから、それを無駄にしないで」


 柔らかい笑顔で、ニーナは観季に語りかけた。



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