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異世界の姫さまが空から降ってきたとき  作者: 杉乃 葵
第五章 観季

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第六十四話『a letter』

「訓練、上手くいってるみたいね」

 赤部が教室に入って来た。

「どうしたんだ急に? ここ数日、無視してたくせに」

「別に、無視なんかしてない。顔合わせ辛かっただけ」

 赤部は、それだけ言うと黙り込んだ。だが、口元はまだ何か言いたそうにもごもごと動いていた。

「なんだよ? 言いたいことがあるなら言えよ」

 彼女は、ぎゅっと口を結んでこちらを睨んだ。なにも睨まなくたっていいだろう……。怖えよ。

「別に。何も無いし。じゃあね」

 そう言って、さっさと教室を出て行った。

 顔を合わせ辛かったって、なんでだ?


 いまの時間は、1時限目と2時限目の間の休憩時間。クラスの中がまたざわついていた。やれやれだ。傍から見たら、俺と赤部が痴話喧嘩していたように見えなくもない。後ろを振り向くと、ヤマゲンがニヤニヤと笑っていた。

「いつの間に、赤部さんと仲良しになったの?」

「仲良しじゃねえよ」

「ニーナの様子も変なんだよねえ。いつもあんたの後ろ付いて廻ってる感じだったのに、最近、放課後は別行動って感じだし」

 よく観てやがんなあ、このやろう。

「なに? もしかしてあんた達別れたとか?」

「別れてねえ……じゃなくて、そもそも付き合ってるのか?」

「オレに訊くなよ。でもなんか、あんたが告ったって聴いたけど?」

 ニーナの奴、よりによってこいつにそんなこと話やがったのか?!


「まあ、その話はいずれちゃんとしてやるから、今は忘れてくれ。取り敢えず、ニーナとは今まで通りだ。何も起きてねえよ」

「そっか……」

「なんで、そんなに残念そうなんだよ」

 こいつ人が不幸になると喜ぶタイプなのか? いや、俺限定か。まったくとんでもねえ悪友だなあ。


「別に。ただつまんないなあって」

「俺は、お前を愉しませるために生きてるわけじゃねえ」

 そう言うと、ヤマゲンは微かに笑みを漏らした。その笑みは、何故か儚く見えた。その儚さが、例の話を思い出させた。


「なあ、ヤマゲン?」

「なに?」

「美霧の件。落ち着いたか?」

 俺に何が出来るわけでもないが、あの時の電話だけで終わって良いとは思ってなかった。


「まあね。初めはつい、あんたにあんな電話しちゃったけど、ごめんね。だいぶ慣れてきた。慣れてきた自分が嫌だけど」

「慣れるのは普通だろう。いつまでも引きずってたら生きてけねえよ」

「うん。そう思うことにする」

 ヤマゲンは席を立ち、教室を出ようとする。

「おい、どこに行くんだよ。授業始まるぞ」

「花つみ」

 ああ。ヤマゲンらしからぬ表現だと思ったが、口にはしなかった。



   ※※※



 放課後、ニーナはいそいそと観季を連れてトレーニングに向かった。観季も素直に受け入れている感じなので、このまま順調にいくのかな。赤部の口ぶりから、おそらくは何らかの効果が出ていると思われる。それはつまり、赤部は人並みに疲れたり痛みを感じたりしていることを意味する。でも、そうなると、観季が素直に受け入れそうに無いんだが……。


 それともう一つ。nullさんからの宿題。ユニーク枠についての調査だ。調査といってもなあ。何をどう調査すればいいか。順当に考えれば摩耶さんに訊くのが一番なんだが、摩耶さんって敵じゃないけど、学校側の立ち位置っぽいから本当のこと話せない感じだしなあ。そうすると残るは、麗美香か。そういやあ、最近、麗美香と話してないな。


 麗美香は、相変わらず昼休みに俺の教室に来てニーナとお喋りをし、ヤマゲンと喧嘩しているらしい。俺はすぐに外で昼食を取っているので麗美香と入れ違いになる。その結果、話す機会がないのだ。


 今度、麗美香と話してみよう。


 そうなると、今日はもう学校に用事がないので、とっとと帰宅の準備をして、下駄箱に向かう。

 すると下駄箱の前に佇んでいるヤマゲンの姿があった。声を掛けようとしたとき、その手に手紙を持っていることに気付いた。


 ヤマゲン……お前まさか……ラブレター貰ったのか……?! 

 そんなチャレンジャーな奴がこの世に居るとは……。

 ヤマゲンもびっくりしたのか、手紙を持って固まっている。一体誰が?

 ヤマゲンに気づかれないように、そっと後ろから近づく。ヤマゲンは手紙を読むのに熱中して俺に気づいていない。なにもこの場で読まなくてもいいのに。よっぽど内容が気になったに違いない。

 うんうん、わかるぞ。ヤマゲン。俺がヤマゲンなら、一体どんな物好きが何を書いてきたのかって気になるからな。


 しかしヤマゲンの顔は青ざめている。そんな怖い相手からのラブレターだったのか?

 気になりすぎて、すっと手を伸ばして手紙を取る。ヤマゲンは、びっくりし過ぎたのか、無反応のまま固まっている。からかうつもりで手に取った手紙だったのだが、無反応なら仕方がない。誰が書いたのかだけでも見てみよう。

 手紙には差出人の名は無かった。じゃあ、中身の方か。山依元子様で始まった手紙は、大学ノートを四枚破って綴じたような手紙だった。ラブレターを大学ノートって。便箋使えよ。中身は後回しで、最後の行を確認する。そこに差出人の名があるはずだ。


 ヤマゲンが固まった理由がわかった。

 そして、俺もきっと、しばらくは固まっていたのだと思う。


 差出人のところには、 琴之葉 美霧 と書かれていた。


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