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プロローグ 『次元転移』

 平穏な日常が崩壊するのは一瞬の事だ。晴天の空に、突然降り始める豪雨のように。


 ついさっきまで、親友と笑い合い、語り合っていた。明日の授業のこと、好きな人のこと、将来のこと――。

だが、そんな日常はもう戻らない。今、目の前に広がるのは、血と叫びに染まった終焉の光景だった。


「ニーナ様! 失礼いたします」


 呆然と立ち尽くしていた私の身体を抱え上げた近衛兵は、城の最上階へ向かって石造りの螺旋階段を大急ぎで駆け上がっていた。私は彼に抱えられるがままに、両手両足が力なくぶらぶらと揺れている。

 螺旋階段の窓からチラチラと見える光景は、人のような体躯をした四つん這いの怪物、私たちが『屍魔(しいま)』と呼ぶそれが城壁を越え、庭園内に雪崩込んでいる様子だった。庭園を溢れんばかりに埋め尽くす屍魔の赤く光る目が、蠢く蟲の群れに視えて(おぞ)ましかった。

 

 城を守る衛兵の身体が至る所に転がっている。喰われて残骸に成り果てた人だった者の一部や、押し潰されて赤色の押し花になった者たち。それらを見ると、血の臭いや死臭がここまで伝わってくるような気がした。

 日々訓練に余念のない、この国の優れた衛兵たちが、いとも簡単に屍魔に飲み込まれて消えていく。この国が今、終わるのだ。終焉のときが、間近に迫っているのだ。

 

 最上階に辿り着いた近衛兵は、私を丁寧に床に降ろし、そこにいたお爺様に報告した。

 ずっと震えていた脚は、ついに私を支えきれず、ふらついた私はそのまま近衛兵に抱きついていた。

 彼は私をその両腕でしっかりと支え、ゆっくりと床に座らせてくれた。

 私を運んでくれたお礼の言葉をと、顔を上げようとするが、先ほど観てきた光景による恐怖のあまり、声も出ず、口だけが動いて、彼には何も伝えられなかった。


 「入口を固めよ! 決して奴らをここへ入れてはならぬ。術式が完成するまで持ち堪えよ」


 遠くでお爺様の声がする。

 周りを見渡すと、この最上階の広場にたくさんの人々が避難してきていた。その中には、城下町から逃げてきたんだろう人々がたくさん居た。きっと、もうこの国で無事な場所は、ここだけなんだ。

 彼らは青ざめた顔で所在なさ気に、周りをきょろきょろと見渡している。逃げては来たもののどうすることも出来ない事がわかっているんだ。みんなここで最後の時を迎えるのだろうか?

 

 「次元転移の魔法・・・・・・?」

 「そんな事出来るのか?」

 「まだ実証されてないんじゃ?」


 周囲のざわめきが聞こえる。


 突然、広場の空気が変わった。少し温度が下がった気がする。そして身体が軽くなるような、浮き上がっていくような感覚がした。全体的に視界が青味がかってくる。

 広場の中央付近で、お爺様が、掌よりも大きい碧い『魔法石』を右手に掴んで呪文を詠唱しているところだった。

 お爺様は何をするつもりなのだろうか?

 お爺様とは幼い頃によく遊んでもらった記憶があるけれども、お爺様がどんな魔法を使えるのか、私はよく知らない。

 魔法の話なんて、一度もしたことがなかったと思う。


 王位をお父様に譲った後、お爺様は魔法の研究に没頭していたと聞いている。次元転移魔法の研究者として有名らしいけど、私はその辺はよくわからない。


 ドーンという、大砲の様な轟音が振動と共に広場中に響き渡り、入り口を護っていた近衛兵たちが壁石と共に宙を舞ったのが見えた。

 木の葉のように宙を舞う近衛兵を目で追ってしまったが故に、彼らを突き飛ばした原因、『屍魔』の群れの侵入に気づくのが遅れた。それは、広場に居る人々や近衛兵、そしてお爺様も同じだったのだろう。


 数十匹にもおよぶ屍魔の群れが、広場の人々に襲いかかるのを、スローモーションの様に私はぼんやりと眺めていた。その視線がお爺様と重なる。お爺様は、右手に持っていた碧い『魔法石』を私の足許に向かって投げつけた。

 投げつけられたその石は、床で砕け散ると閃光した。あまりの眩しさに目が眩んだ。その光は瞼を閉じても私の周囲を真っ白にした。


「ニーナ、生きろ。おまえがこの国を――」


 お爺様の声が、途中でかき消されると同時に、身体をそのまま真横に吹き飛ばされるような感覚が襲った。まるで濁流に飲まれたかのように、身体があちこちの方向に回転した。自分の身体がどの方向に向いているのか、どっちに向かって飛ばされているのかすら判別できなかった。身体を無理やり引き伸ばされたり、拗られたりする感覚があった。それに必死で抵抗する。

 しばらくその状態が続いていたが強い耳鳴りとともに、壁にぶつかるような衝撃が全身を走り抜け、身体が砕け散ったかと思われる反動で目を見開いた。


 そして、私は見た。

 

 青い空と白い雲。そして海。

 

 私の身体は――急速に落下していた。

 

 私が落ちていく先には、見慣れぬ、直線で構成された白い建物があった。

 そして、そこに人が独り、此方を見上げていた。


 その視線が私を捉えた瞬間――

最初の方に書いたものを、順番に加筆修正しております。

特に最初の方は勢いで書いたせいか荒が目立つので。

ストーリーには変更ありませんので、いままで読んでくださっていた方には特に影響ありません。


後、この場をお借りしまして、読んでくださっていらっしゃる方に感謝を。

そして、ブックマークや評価ありがとうございます。



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