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異世界の姫さまが空から降ってきたとき  作者: 杉乃 葵
第一章 ニーナ

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第一話『衝撃の出逢い』

 いつもそこに在ったはずの日常が変わってしまったのは、あの日からだ。


 特別変わったことのない学生生活の中で、普段と同じように購買部でパンを買い、屋上でそれを食べる。俺の中でありふれたお昼休み。ドアを開けて数歩行った先。そこで全てが変わってしまった。

 

 思い描いていた高校生活は、その後まったく違うものになっていった。

 その時のことは、今でも鮮明に覚えている。絶対に忘れないし、この緑色の『石の欠片・・・・』を見る度に、いつも心が締め付けられる。


 もう十年近く前の話だ。




   ※※※   ※※※   ※※※


「次は、遠波高等学校前」


 次の停留所のアナウンスに目が覚めた。

 これは俺の特技である。

 どんなにバスで熟睡していても、ちゃんと自分が降りる停留所に着く前に目が覚めるのだ。

 降車ボタンを押して、通学定期券を準備する。 

 それはいつもの通学の風景だ。

 バスの窓から見える風景も、いつもどおり。海の上を一本道が学校へと続いている。

 そう、私立遠波高等学校は、なんと海の上にあるのだ。

 

 停留所に着き、バスを降りる。

 外気を吸うと気持ちいい。海の上なので風が強く潮の匂いがする。温かい風で、まだ春なんだなぁっと感じる。今は五月。ゴールデンウィーク明けである。まあ、ゴールデンウィークといっても、俺は何もすることなくだらだら家でゴロゴロしてたんだけどね。家の手伝いはしたよ? 一応。風呂掃除とかモロモロ。


 「よう! やまねこ」


 正門を抜け、校舎へ向かう途中、俺をやまねこと呼ぶ聞き覚えがある声がした。俺の名前は山根耕一(やまねこういち)。だから、あだ名がやまねこなのだ。

 声の主は、ヤマゲンだな? ああ、ヤマゲンとは不幸にして同級生になり、この学校で初めて会話した相手である。単に席が後ろだっただけなんだがな。まあ、そんなもんでしょ? 最初に友だちになった人とかってさ。友達って言っても女友達なんだけどな。

 ヤマゲンなんて呼んでいるのは、そいつの名前が、山依元子(やまよりもとこ)だったからだ。山と元からヤマゲンだ。ひどく馴れ馴れしいやつで、女の子というより、男友達に近いノリのやつだ。運動神経のよい、ショートカットの体育会系だ。といってもガタイがいいわけではない。ぱっと見は、目がぱっちりとした身長百五十八センチぐらいの普通の女の子。胸も普通サイズだ。それは余談だけど。


 声がした方に振り向くが、誰もいない。噴水があるだけだ。噴水の水音に気を取られていた時、


 「とうっ!」


 不穏な黄色い掛け声とともに、上空から黒い影が迫る。


 ガスッ

 

 人間というものは、わかっていても咄嗟に動けないものだ。上から降ってくる何かをそのまま凝視してしまった。もろにダイビングボディプレスを食らってしまい、そのままエビ反り状態で後頭部から地面に激突した。


 ゴリッ


 少々嫌な音。後頭部を抱えながらのたうち回る。頭が割れそうに痛い。耳鳴りがゴワンゴワンとしていた。


 「おい、大丈夫か?」


 大丈夫か? じゃねぇよ……おまえのせいだろうがぁぁぁ。


 頭を擦りながら身体を起こすと、脇に神妙な顔をしたヤマゲンがいた。そんな顔するぐらいなら最初からつまらんことをするな! って思う。本人は、こんなに痛がるとは思ってなかったような顔してるけどな。なんで俺の方が気を使わねばならぬのか?


 右手で鼻の下に触れ、鼻血が出ていないか確認。


 うん、大丈夫だ。鼻血は出ていない。ん? そういえば、こいつ、謝ってないな。大丈夫か? とは聞かれたけど。


 「ヤマゲン」

 「なんだ?」

 

 「なにか言う事はないか?」

 「ひさしぶり(にこ☆)」


 違うわー!


 「ヤマゲン、おまえ、人にボディプレスかまして、後頭部強打させといて、なにか言うことはないかと聞いてるんだぁぁぁ!!」


 「いやぁ、あんなに見事に決まるとはびっくりだよ。オレ、才能あるんじゃねえ?」


 もういい、わかった、こいつに普通の人間の反応を求めたのが間違いだった。


 あ、ちなみに、こいつは自分のことをオレと言う。なんで? って聞いたことあるが、そのときの答えは、わたしとかあたいとか似合わないでしょ? だった。まあ、たしかにオレって言う方がしっくり来るんだけど、それは慣れなのかもしれないが。


挿絵(By みてみん)


 ヤレヤレな気持ちで、教室に向かう。ヤマゲンは静かについて来て、なにやらそわそわしている。


 よくわからん奴だ。


 めんどくさいから、知らん振りをして教室に入った。

 時間が始業五分前ぐらいなので、それなりに教室は同級生たちで賑わっていた。その中を、特に挨拶をするでもなく俺の席に座る。俺の席は廊下と反対側の窓側の席だ。


 ホームルームのチャイムが鳴るまでの間、窓の外の景色を観る。俺が今いる教室は、校舎の二階。この学校の校舎は、十階建。一階は、職員室やら校長室やらばかり、二階から四階まで、順に一年から三年それぞれの学年の教室があるフロアになっている。五階から上は、図書館やら室内プールやら体育館、室内競技場等、また、被服室やら理科実験教室とかやらがある。


 窓の外は、グラウンドと、その周りを囲む木々、そしてその向こうの海が見えるだけで、別段いつもと変わりがない。なにか面白いものが見えないかとちょっとばかし期待したが、そんなものがあるわけがないことを俺はよくわかっていた。何か、こう心が湧き立つような事が起きないだろうか……。

 

 さすさす


 ん?


 さすさす


 んんん??


 さすさす


 朝に強打した後頭部を誰かがさすっている。まあ、誰か考えなくてもヤマゲンなんだろうけどな。


 「ヤマゲン、なにしてる?」

 

 「あ、あの……朝は、その……ごめんね」


 謝るぐらいならやらなければいいのに。まったくこいつは。


 さすさす


 さすさす


 さすさす


 イラッ。なんだかわからんが無性にイライラしてきた。いつまでさすってるつもりなんだこいつは。

 

 「おい。もういいから」


 「うん……」


 そっとさすっていた手を引っ込めるヤマゲン。なんだろう、この微妙な気まずさは。


 ここは、もっと明るく、なぁに大丈夫さ! 気にすんな^^ とでも言ったほうが綺麗にまとまったのだろうか?とてもそんな気になれない。もしかして俺は怒っているのだろうか。だとしたら小さい男ってことか。


 まあいいや。考えるのがめんどくさくなってきた。


 キーンコーンカーンコーン


 時代の先端を行くことを謳っている学校にしては、旧来通りのチャイムで笑ってしまう。まあ、チャイムの音なんてどうでもいいんだろう。あ、ちなみに、昼休みのチャイムな。


 授業は半分寝てたら、いつの間にか終わっていた。


 お昼はいつも、購買部でパンを買って食っている。

 母親が弁当を作ってくれているはずだけど、たいてい弁当を鞄に入れる暇なく家を出るので、未だに弁当を持参したことがない。作られていたはずの弁当がどうなったのかは知る由もない。母親は何も言わないしな。お昼代を別途貰っているわけではないので、俺の小遣いから支払わないとならないので、痛手ではあるが、朝の貴重な睡眠時間の方が俺にとって重要なのだ。


 購買部でパンを買うのは楽だ。よくイメージされているような早い者勝ちなパンの取り合いはなく、ほとんどの学生は、食堂でランチなどを食べているからだ。


 俺は、どうも食堂が馴染めない。食堂のせいではなく、他の学生がたくさんいる中で落ち着いて食事ができないのだ。静かに独りで食べたい派なのだ。


 ヤマゲンと一緒では? っと思われるかもしれないが、あいつはあいつなりの女子グループがあり、それはそれで大切にしているようなので、昼はそっちのグループで食べているようである。別にあいつと一緒に食べたいわけでもないしな。なので、俺はパンを買って屋上とかで食べている。

 

 ここの校舎は十階建てなので、屋上からの眺めはなかなかに素晴らしい景色である。今日もいつもどおり、カツサンドとクロワッサンと焼きそばパンとコーヒー牛乳を買って屋上へ向かう。


 この校舎には、エレベーターがある。階段だったらさすがに屋上まで行こうとは思わない。そして、このエレベーターは高速である。こういうところは未来を感じる。二十人乗りの大型エレベーターが四機もある。


 スウィーン


 乗ったかと思うとすぐに十階に着く。この速さはさすがだなあっと思う。エレベーターは屋上まではないので、十階で降りて、後は階段で登る。

 屋上は、たまに学生が放課後に遊んでいるみたいだけど、昼休みには利用されていない。おそらく昼休みはみんなで食べているから、屋上に上がるのがめんどくさいのだろう。


 屋上には入れないような学校がほとんどみたいだけど、ここは自由らしい。それが良いことなのかどうかは知らないし、俺が判断することでもないだろう。多くの場合、転落事故や自殺に使われたときの責任問題を回避したいから侵入禁止ってことなんだろうっと思うけどね。何が正しいかなんて、俺レベルで判断なんかできるわけない。専門家に任せておくのが一番である。


 ガチャリ


 屋上への扉を開く。相変わらず風が強い。見渡す限り三百六十度、ほぼすべて海だ。水平線しか見えない。空を見上げると、澄み切った五月の青空が綺麗だった。


 真っ青な空に、白い雲。そしてピンクのパンツ


 え?


 パンツ?


 というか脚?


 一瞬思考が停止した


 見上げた青空に、女の子のものと思われる生脚と、その股に履かれたピンクのパンツが見えた。

 人間が空から降ってくるなんて、そんなバカな――。


 そう思う間もなく、俺の視界をピンクのパンツが埋め尽くした。


 ガスッ!


 顔面にぶち当たった彼女の落下の勢いで、身体がエビ反りになり、コンクリートの床に後頭部を強打。今日は、これで二回目だなっと瞬間考えたものの、その後、なにも思考することができなくなった……


 意識が遠のく中で、ふわりと甘い香りがした。


挿絵(By みてみん)

序文を新しく追加いたしました。


1話の最初のインパクトが少ないように感じましたので、最初にドーンと出そうと思いまして。

以降の話も随時加筆修正していきます。

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