イベント -ワクワク-
僕はレイサンダーが召喚したモンスターを警戒する。
(究極召喚…囁き合う妖精の一種だとしても何か特殊な効果を持っている可能性はある…だけど警戒しすぎは良くないか。相手の手札はもうゼロ。今攻めれば確実に勝てる…)
そう考えていた。僕より速くレイサンダーが動き出した。
「まずは仕切り直しだ!やれルル!!その声を響かせろ!!ボイスハウリング」
「ラ―ラ―!!」
その言葉と同時にルルが歌う。それは衝撃波となって僕を襲った。
(音が質量を…ダメージは無いが吹き飛ばされる…!!)
「うわ!!」
踏ん張りが利かず大きく吹き飛ばされた僕はレイサンダーから距離を離される。
そしてレイサンダーはその間に演唱を始めていた。
「っく僕も…!!」
負けじと僕も演唱を始める。
『風よこの手に、自由と希望を乗せて…。集まれ僕の魔道!!僕のターンドロー!!』
そして一枚カードを引き、レイサンダーがカードを同じようにして引いたことでモンスターを多数召喚している分、不利だと判断して回復に努める。
『風よこの手に、自由と希望を乗せて…。集まれ僕のモンスター!!僕のターンドロー!!』 『風よこの手に、自由と希望を乗せて…。集まれ僕の道具!!僕のターンドロー!!』
『風よこの手に、自由と希望を乗せて…。集まれ僕のアビリティ!!僕のターンドロー!!』
四枚のカード引く。ちなみにカードはこれらだ
<M-スライスウィンド…敵を切り裂く風を作り出す。スパパパン>
<C-風の踊り子…風と共に踊る妖精、気流を操作できる。レッツ!ダンシング!!>
<I-ウィンドフック…風の勢いで飛ばし、アンカーを飛ばす。アンカーを利用して移動できる。フック!フック!フックショット!!>
<A-風塵舞…回転して相手の遠隔攻撃を防ぐ技。ぶんぶん回るぜ!!>
(準備は整った。だがどう攻める?相手も同じように回復している…さっきのようには攻められない…いや、だがまだダメージ数はこちらの方が有利。多少のリスクは我慢してでも一気に攻めるしかないか)
「ふう、行く!!」
僕は走り出した。相手は既に五枚の手札を回復させている。最大限に警戒しつつも僕は歩みを進める。
(モンスターが三体になってしまった…多少手間になってもまずは先にモンスターを潰す!!)
「スライ…」
「させないよ発動!ア…」
「くっ!?」
その言葉を聞いた僕は危険を感じて別の場所に移る。だが鷹の目で見ても何の陣が出来ているのかわからない。
「一体何の…」
「残念嘘だよ!」
「な!?」
「これも作戦の内ってね…さあそこだ行け!ルル!ボイスハウリング!!」
再び衝撃波が飛んでくる。僕は吹き飛ばされないようにそこで踏ん張るがそれはレイサンダーの狙い通りだった。僕が動けない間に周りを囲まれ始める。
「まずい…ここに縛りつけるのが狙いか…なら!」
俺は勢いに任せ吹き飛ばされる。だがその瞬間、光が僕に襲い掛かってきた。
「残念!もう一手打っている!矢の陣!!」
横一列に並び、真ん中にレイサンダーが待機する。すると矢のように陣が光だしレイサンダーが飛び出した。
空中で身動きの取れない僕は躱し切れずにレイサンダーの攻撃を受ける。
「く!!」
(ダメージを受けてしまった…これで条件は同じ…いや不利だ。何とかしないと…)
焦りだけが募る。何か手を打たないといけない。でもどうすればいい。
(考えろ考えるんだ。まだ条件は同じだいける!)
「風の踊り子!気流操作!!…妖精の位置をずらせば陣形アビリティは使えないはずだ!」
「考えたねだけどそれすらも飲み込んでここは俺の領域だよ!!」
風でずらしたそばからそのずれを利用して新たな形を作られる。そのどれが相手がもっている陣形アビリティか僕が把握するすべはない。
そうこうしている間にレイサンダーが僕の元へとやってきた遅い来る剣玉の攻撃を僕は必死にダガーで防いでいく。
「スライスウィンド!!」
僕はレイサンダーの攻撃を凌ぎつつティファ―を狙う。何とかしてこの状況を打開しないといけない。
「甘い!キャスリングチェンジ!!」
後ろに飛び退いたレイサンダーはそのままティファ―と位置を入れ替える。そして剣玉でスライスウィンドを凌ぐ。
「なら此奴を…」
「残念~そんなに簡単にはやられないわよ」
僕の攻撃を躱し空へとティファ―は逃げる。僕はそれを追うために攻撃を仕掛けようとするが…
「ウィンドフ…」
「ボイスハウリング!!」
「またか!!」
その攻撃を横からの衝撃波が防ぐ。転がりながらも起き上がった僕は再び陣形を確認する。一瞬このままで大丈夫だ…と判断して。そのまますぐに間違いに気づき走り出した。
(く、危なかった四体の位置がずれていたから何もないと思ったが三体や二体では陣が出来ていた…!!)
「惜しい気付かなければ決まっていたのに。どうだいモンスターが一体増えれば二次元に三体になれば三次元に四体になれば四次元に増えるば増えるほど多様性は増していく。これが陣形アビリティの神髄だ!」
「うるさい!!」
数が増えれば増えるほど陣は複雑になり、そしてできやすくなる。画面を皆が戦っている僕は一種の論理パズルでもプレイしている気になった。どこからどこまでが陣として機能するのかどう使ってくるのかわからない。
(何よりもあのボイスハウリングが厄介だ。攻撃を止められるし、陣に無理やり押し込まれる…)
「ウィンドフック…!!」
僕はルルの周りの岩にマーカーを付け、そこまでの距離をフックを利用して飛ぶ。だがルルの元にたどり着く前にそれは止められる。レイサンダーがトラップを仕掛けたのだ。そしてそのままそれを発動させた。
「トラップ発動!ブロックウォール!!」」
ブロックの壁が出来て道が塞がれる。僕はその前で止まることを余儀なくされた。
「トラップは相手に当てるだけが全てじゃない。こうやって障害物としても使えるのさ…そして発動!カ」
「同じ手は二度は喰らわない陣なんてできてないはずだ!!」
「ふ、カーブの陣」
「そ、そんな!?」
カーブを描くように現れた光の線が僕を襲うそれを躱し切れずに喰らってしまう。地面に叩きつけられた僕が見たのは未だに健在なレイサンダーと三体のモンスターだった。
(まさか、本当に発動するなんて。これで逆転された…勝っていたはずなのに!!今、追い詰められているのは僕だ!!)
立ち上がり、レイサンダーを見る。その目を見たレイサンダーは少し残念そうな顔をして僕に質問してきた。
「セナ君そんなに焦ってもいいこと無いよ?どうせならデュエルを楽しまなくちゃ。ホラ、あれだよわくわくを思い出すんだって奴だよ」
「ふざけるな!!負けている状況で!追い詰められている状況で!ワクワク何て出来るもんか!!」
そうだ、どんなときだって敗者にワクワクする権利なんて楽しむ権利はなんてものはない。電脳アレルギーとして期待もされず、追い立てられるように勉学に励んだあの日々に楽しさなんてなかった。追い込まれて!負け犬だと言われてへらへらと笑って!人生なんて楽しめるものか!
そんな思いがつい言葉として出てしまう。大きな事柄が掛かっていることと店長を見かけたこと、そしてこうして追い詰められていることが僕の冷静さを奪っているのかもしれない。
そのことに気付いた僕は一度、深呼吸をして冷静になるように努めた。このままでは勝てる試合も負けてしまう。その間にレイサンダーは言葉を放つ。
「さっきも思ったが、負けてるときだって人はワクワクはするさ。気の持ちようだろう?逆境ほど人が燃え上がるように、強い相手ほど楽しめるように、どんなときだって人は物事を楽しむことができる。それが人の力になるって俺は知ったからこそ、こうやって憧れているのさ」
「…詭弁ですよ。そんなに負け犬で世の中楽しめるなら目指すということに意味がなくなるじゃないですか。人が何かを目指すのはそこが嫌だからでしょう?そこを抜け出したいからでしょう?なのにその状況を楽しめるだなんてそんな人間居るはずありません。ドロップアウトボーイと呼ばれた彼だって底辺の扱いだがデュエルの腕という他に代えられない者があった。現実にはそんなものすらない人の方が多いんですよ」
「確かに人は嫌だからこそ、抜け出したいからこそ、何かを目指すのかもしれない。そしてそこに楽しさは存在しない…ある意味そう言ったこともあるのかもしれない…でもそれっておかしくないかな?人はどこまでも満足せずに生き抜く生き物だ。誰だって日々何かを目指して努力をしている。勝ち組と言われている人だって負け組と言われている人だってね。…もしその理屈が正しいのならこの世にワクワクするものなんてない。楽しみなんてない…そう言っているのと同じことだよ?」
「そ、それは…ただの屁理屈です!!」
僕は大きく声をあげてそういう。論点のすり替えだそんな理論いくらでも言える。
だが、僕のその返答にもレイサンダーは冷静に返す。
「まあ屁理屈かもね。だけどこの世の多くが屁理屈だ。…単純な話、理屈じゃないんだ気持ちなんだよ。…人が誰かを楽しませようと、何かを思い行動する限りそこにワクワクは生まれるんだ。あとはそれを受け入れられるか認めずに生きるか…結局はそれだけのことだよ。この世界はゲームだ。ゲームは元来、人を楽しませるために生まれたものだ。そこにどんな問題があれ、どんな事情があれ、本質は変わらない…ならこの世界には、今この場所にはワクワクが溢れている。あとはそれを認めることができるかそれだけの話だよ。…それにどうせならどんなことでも楽しんだ方が良いだろう?苦しんだり、焦ったりしたところで結果や行動が変わることは少ない。なら楽しまなきゃ損だよ、お互い楽しんだ方がエンタメになるしね」
「ゲームは人を楽しまるために生まれたもの…?」
僕はその言葉で兄さんが言っていた店長の理想を思い出した。現実に浸食し、色を失うのではなく。遊びとして様々な色を見せる世界。店長が目指していたのは、作りたかったのは彼の言うワクワクに満ちた世界だったのかもしれない。
…いや、作れはしていたのか。大勢の人たちにそれを理解されることなく認められなかっただけで、気づいた小数が彼のようにこの世界を楽しんでいるんだろう。
そしてそのことに気付いた時、僕はタクティカルコントローラに目を向けた。僕自身も同じだ、あんなに毛嫌いしていたVR…でもタクティカルコントローラを使い始めて自由に冒険した時のワクワク。それは確かにあった。だからこそ今もこうしてゲームに残り、この場所でそれを守るために戦っているのだ。
「…そうか…電脳アレルギーのような人を生み出さないためって戦っていたと思ったけど、結局僕はこの自分の居場所を、この皆の理想のVRを崩したくないだけだったんだ…」
レイサンダーにも聞こえない小声で僕は喋る。レギオンが出来て、皆で一緒に冒険して楽しかったワクワクした。このVRは、店長の理想は、しっかりとそれを与えてくれていた。だからこそ今回の件を聞いた時、それが壊されてしまうような気がして、この場所が奪われたくなくて必死に戦っていたのだ。
子供っぽい理由だと思う。だけどこれが正直な気持ちだ。そして自分の気持ちを理解した時に見える世界は変わってきた。
奪われたくなくて必死に戦って…自分で奪っていたんだ。今ならわかる。確かにワクワクしてきた。レイサンダーがこれからどうするのか、自分はどうやって逆転するのか、この戦いの結末がどうなるのか…どうせやるなら楽しんだほうが良い確かにその通りだよレイサンダー!




