チュートリアル -タイマンバトル-
…そして…第一訓練場…そこでユーリとセナは互いに戦いを前にお互いを見つめていた。俺はそれを少し離れた場所から目撃している。
「あの…この間は…」
セナがユーリへと話かける。だがユーリが全てを言い終わるより先に言葉を返す。
「気にしてないからいい。それよりも…今日も負けないよ」
悪意の無い笑顔を浮かべながらユーリは言葉を放つ。その表情で全てを理解したのかセナも笑顔を浮かべて
「いや、今日は私が勝たせてもらう!!」
そう言った。
(結局戦って示す…か。相変わらずの戦闘狂だこと。でもユーリらしいか)
俺も笑顔でそれを見つめた。
☆☆☆
「「デッキオープン!!」」
二人は同時にデッキをオープンさせる。
セナはユーリから距離を取ろうとし、逆にユーリは距離を詰めようと動き出した。フィールドはセナと俺が戦った青天の草原だ。
「最初から全力で行く。僕にカードの可能性を示した彼のように僕も僕を無価値だとする意志に屈すことなく、その価値を他の何ものでもない僕自身の行動で示して見せる。究極召喚!!吹きすさぶ風に生み出されしカゲよ!!方向を示す風を見極める鳥よ!!今その姿を現せ!!風影の風見鶏!!」
吹きすさぶ風が見覚えのある鳥を形づくる。敵として二人を苦しめた風見鶏は一人の味方となって一人の敵として対峙した。
(いきなり召喚するか!やるな今二人の手札はどうなっているんだ?)
そう考えた俺は手元の端末を操作させて二人の手札を表示させる。
ユーリ
<I-氷冷の太刀…氷でできた太刀…切れば凍る叩いても凍る>
<C-ウルフ…群れで敵を狩る草原の支配者。かっこいいこと書いてあるけど基本冒険序盤のかませ役>
<S-アイスゴーレム…氷でできたゴーレム。氷層の守護者。門番の仕事が暇でやってきました>
<M-アイスストーム…氷でできた竜巻。回る回る回る…>
<T-アイスフィールド…氷で地面を覆う。即席スケートリンク!!>
セナ
<M-ウィンドボール…風の弾を三発打ち出す魔法。基本中の基本の魔法。とりあえずファンタジー小説はこれを出しておけば大丈夫。第三弾>
<I-風切の弓…風を纏った矢を放つ弓。弾数は5。風を切るってどんだけ速いんだ?>
<M-ポイズンクラウド…毒の雲を召喚する。触れるとカウントが始まり。10立つまでに状態異常回復カードか通常演唱をしないとダメージ1。この雲は乗れません!!>
(…バランスはユーリのほうが良いがさてどうなる?)
「そっちが究極召喚をするならこっちも!!氷で閉ざされた宮殿を守る永遠の門番!現れよアイスゴーレム!!」
ユーリはウルフのカードをコストにアイスゴーレムを召喚する。そしてアイスゴーレムを風見鶏の元へ向かわせた。
「読み通りだよ!」
セナはアイスゴーレムが迫る前に風見鶏を地面の中へと逃がす。カゲとなった風見鶏にアイスゴーレムは決定打を与えられない。
(これはユーリの選択ミスだ。属性魔法でできたゴーレムの攻撃じゃ嫌がらせはできても影の実体を攻撃することはできない物理系のウルフの方がまだまともだったか)
「スペシャルはスペシャルでしか対応できないと考えた君のミスだ!!」
セナは風見鶏をあえて戦わせず、その補助効果のみを利用する戦術を取った。空へと自由に舞い上がった。そしてその状態で風切の弓を現出させる。
「はっ!!」
放たれた矢がユーリを襲う。様々な角度からくる攻撃にユーリはついに一発のダメージを受けてしまった。
「っアイスストームが!!…アイスゴーレムで倒せないのなら!!発動アイスフィールド!!」
ユーリはアイスフィールドを使い風見鶏が飛び出すであろう地面を氷漬けにし、動きを封じた。それと同時にアイスゴーレムをセナの元へと向かわせる
「な、地面と空気との間に層を作って風見鶏を無力化したのか!!」
驚きと同時にセナは飛ぶ力を失い地面へと落ちていく。彼女の元にアイスゴーレムとユーリが向かっていた。
『風よこの手に、自由と希望を乗せて…。集まれ僕の魔道!!僕のターンドロー!!』
『蒼天よ氷よ。相手を凍らせる絶対的な力を私に貸せ!!来い私の魔道!!』
二人同時に演唱を行いお互いに手札を増やす。
<M-クイックサインレス…相手が言葉を発せなくなる。演唱やカードの発動ができなくなり、なおかつ演唱中に使用した場合、演唱を失敗させリキャスト時間を通常より伸ばす。あ、れこえがきこえなくなってくるよ…>
<M-氷魔反転鏡…攻撃を反射する鏡を作り出す魔法。身だしなみチェックにも使えるぞ>
「来た!!忍び寄る毒の雲…発動!!ポイズンクラウド!!」
セナは迫りくるユーリの近くに毒の雲を発生させ、効果を与える。ユーリの頭上に10のカウントが発生した。
「それは毒のカウントだ!!状態異常回復カードか演唱を行わなければ0になった時手札を一枚失う!!」
「!!なら蒼天よ…」
「そう簡単には演唱させないさ!!その言葉を止めよ…発動!!クイックサインレス!!」
「…!!」
ユーリの言葉がクイックサイレンスによって止められ演唱が止まる。
(それだけじゃない。演唱失敗によるリキャスト時間の増加、そしてカードの発動の不能。ダメージを防ぐといった目的で演唱をさせるようにしてからのコンボ…なかなかだな)
「まずは邪魔なゴーレムを潰させてもらう!!」
『風よこの手に、自由と希望を乗せて…。集まれ僕の魔道!!僕のターンドロー!!』
<M-風影斬…カゲから大きな風の刃を出現させる。風と影ってなんか似てるよね>
残っていた風切の弓を利用し、ユーリをけん制しながら
「発動!!切り裂け…風影斬!!」
「ごおおおっぉおおお」
氷でできたゴーレムが真っ二つに両断される。だがゴーレムはその生命力でまだその身を保っていた。
「追撃だウィンドボール!!」
そこへ風の弾が当たり今度は完全に粉砕される。攻撃で全ての手札を消費した彼女は今だカードを発動できないユーリから距離を取り再び手札を回復させる。
『風よこの手に、自由と希望を乗せて…。集まれ僕のモンスター!!僕のターンドロー!!』
<C-軍隊グモ…群れて戦う蜘蛛。軍隊ってつければなんか強そうに見える>
「やっと終わった!!」
ユーリのカード発動不能時間が終わる。まだ演唱はできないがユーリは果敢にセナへと突撃をする。
「行け軍隊グモ!!」
「蜘蛛…!!」
ユーリはセナが呼び出した蜘蛛に顔を引き攣らせた。だがそれでも足を止めず進む。その間セナは演唱を続ける。
「このまま相手に演唱させたら不利になる…ここで終わらせる!!」
かけていくユーリ、軍隊グモはそれを止めるために得意技である。糸を吐き出した。
「させない氷魔反転鏡!!」
攻撃を弾き返され糸ダルマになった軍隊グモを無視しセナへと切りかかる。ちょうど彼女は演唱を終えたところだ。だが…。
「この距離は私の距離!!発動…」
その時セナは薄く笑った。
「あ、このパターンは…」
俺がそう言った瞬間。
「氷冷の…!!「ブロウオフ!!」」
その言葉と共にユーリのカードは封じられ。近づいた距離を逆に利用されダガーで貫かれた…。
☆☆☆
あの激闘から数日。俺はいつものように家でアプリの開発を行っていた。あの後、自身を付けたセナはそれまで自分を捨て去りトラウマを克服した。まあそれはいいのだがあっさりと俺と同じ形で負けたことがショックだったのか落ち込んだユーリを励ますのにはなかなか骨が折れた。その後も三人で冒険したり、ユーリとセナが仲良くなり二人で冒険しに行くのを見守ったりなんだりして今になる。
「ふう」
疲れた目を揉んで休んでいると突然チャイムがなった。
(うん、この時間の配送は依頼していないはず…なんだセールスか…あれ前にもこんなことがあったような…)
ピンポーンピンポーンピピピンポーン
いつかと同じようにリズムを刻むように連打されるチャイム。俺はため息を吐きながら近づき扉を開けた。
「合鍵もってんだろう優理。チャイムなんか鳴らさなくても…」
そういって俺は扉の前に立つ人物を見る。その人物は優理ではなかった。
「優理ちゃんがこうするのがいいって言っていたんです。お久しぶりです。今度から隣の優理ちゃんの部屋でルームシェアすることになりました瀬那です。これからよろしくお願いします」
ぺこりと礼儀正しく頭を下げた彼女を見て俺は驚く
「瀬那!?」
「はい、そうですよ中に入りますね。あ、優理ちゃんはお菓子買ってくるから遅くなるそうです。先に二人で始めちゃいましょう」
そういって瀬那は病院で戦ったときにも使ったカードを取り出した。
「始めましょうって…まあいいか」
こうして今日も流されるようにして幼女たちのデュエルの相手をするのだった。
おしまい。