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放課後の出来事 後編

 不知火と男二人は路地裏の奥まで進み、二人は不知火が逃げられないように、不知火を挟む形で立っている。


 「それじゃまずは一発」


 奥にいる男、ここでは仮に男Aとしよう、不知火の顔面を思い切り殴りつけた。不知火は退路を塞ぐように立っている男めがけて、倒れこんだ。


 「こいつマジよえー、パンチ一発で倒れるくせに格好つけんなよ」



 「なー、もうやめておかね」


 退路側に立っていた男、右に同じく男Bとする、は青ざめた顔で若干震えており、今すぐにでもここから逃げ出してもおかしくない様子だった。


 そんな二人のやりとりを気にする様子もなく、不知火は、何事もなかったかのように起き上がり、殴りつけた男Aの目の前まで無言で歩みを進める。


 「おい、なんだお前、まだ殴られないのか」


 そう言って、不知火の顔面を再び殴りつけようとした所で、男Aは異変に気がついた。


 確実に鼻の骨が折れていたはずなのに、目の前で、何事もなかったかのように、元の状態に戻っていく。


 男Aは背筋に電気が走ったように、直感的に嫌な感じがした。


 さっきまでは、獲物だったはずの目の前の男を狩っていたはずなのに、気がついたら自分たちが、獲物なってしまったような、突如沸いた命の危機に、男Aは拳を振り上げたまま動けなくなっていた。


 「君は私の日常にとって害悪みたいだ。だから無害に変えることにするよ」


 不知火は普段とは全く違うどこか機械的な声でそう呟くと、いつの間にか不知火の右手に、細長い白い何かが握られていた。


 いつの間にか不知火の手に握られている何かに気づいた男Aは、何かよく分からない存在に対する恐怖心から、訳も分からずに怒鳴り散らす。


 「お、お、お、お前、一体何なんだよ、ぶ、ぶっ殺してやるからな」


 そういって振り上げたはずの拳を、不知火めがけて振り下ろそうとした所で違和感に気づいた。


 「あ、え、俺の腕……え、え、なんなんだよ、俺の腕……お、お前が持ってるの骨えええ――」


 男Aはあまりに理解不能な事態に、悲鳴のような声を張り上げる。


 拳を振り上げていたはずの右腕は、いつの間にか、ダランと力なく下がっており、中身のない革袋のような、よく分からないものに成り下がっている。


 不知火の手に握られていたのは、肩から先の手の骨であった。


 「次」


 不知火がそう呟くと、左手には右手同様のものが握られている。


 「あ……え……なんで」


 男Aは数瞬後に何をされたか気づくが、理解はできていない。


 「次」


 不知火は両手に握られた骨を手放すと、次の瞬間には、両手にはそれぞれの足の、膝から下の真っ白な骨が握られていた。


 「あ……ア……ギ……」


 男Aは崩れ落ちるように倒れると、心が限界を迎えたのか、言葉にならない声でうめき声をあげている。


 仲間のありえない事態に震え上がっていた男Bは、崩れ落ちる仲間の姿を見て、搾り出すように声をあげる。


 「な、なんで骨が、意味わかんねーって、し、し、死んじまうって……」


 「なんだ、動けなくしただけで死ぬのか……それは知らなかった。以前読んだ漫画で、骨を抜かれた人間は生きていたはずだが、実際は死ぬのか。また一つ弱くなってしまった」


 不知火は背後の男に振り返り、その無表情さと機械的に淡々と話す口調が、男Bの恐怖心を一層にかきたてた。


 「ゆっ、許してくれ。俺はもともと乗り気じゃなかったんだ、だから、な、な」


 仲間のようになりたくない男Bは必死の思いで不知火に自己弁護をする。


 「分かった。許す」


 「え……あ、ありがとう、ありがとうございます。もう二度とこんなことはしません」


 男Bは予想外の言葉に歓喜し、感謝の言葉を述べながら後ずさり、少し距離を空けると後ろを振り返り、この場から走って逃げようとする。


 しかし次の瞬間、男Bは崩れ落ちた。


 「な、な、な、なんで、許すって言ったじゃねーか」


 何が起こったのか理解できない様子だ。


 「言った。そして許した」


 「じゃあなんでだよ、なんでこんなことするんだよ、絶対おかしいだろ」


 「お前は許してほしいといった。だから許した。何もするなとは言ってない。だからやる」


 そう言って不知火は足同様に手の骨も抜き取り、男Bの方へ放り投げた。


 男Bも脳に限界を迎えたのか、考えることを放棄し、その場で気を失った。


 不知火は、動かなくなった二人を一瞥し、何事もなかったかのように路地裏の外へと向かった。


 路地裏から出た不知火は先程まで纏っていた異様な雰囲気は霧散し、いつも通りの、近寄りがたい程度の不知火に戻っていた。


 無事な不知火の姿を見た歩夢たちの表情には、安堵の色が見られる。


 しかしこの場に残った男は予想外の出来事に声を荒らげた。


 「おい、お前、二人はどうしたんだよ、なんでお前が戻ってきてんだよ」


 「そこで寝てる」


 そう言うと男は不知火を睨めつけながら、一目散に路地裏の方へと駆けていった。


 「歩夢さんたちは大丈夫だった」


 「うんっ、不知火君のおかげで全然大丈夫だった、それにしても不知火君こそ大丈夫、怪我とかしてない」


 「僕は大丈夫、無傷だからそんな心配してくれなくても大丈夫だよ」


 不知火の言葉に歩夢たちは安心した。


 「あのー助けてくれてありがとう、連れてかれちゃうかと思った」


 「あたしも怖かった、ほんとにありがと、それにしても神様って凄い強いんだね、びっくりしちゃったよ」


 歩夢の後ろにいた未来と絵里が、おずおずと不知火に感謝を述べる。


 「たまたま助けただけだから、そんなに気にしないで」


 「それでも凄くほっとしたから私たちは感謝感激だもんねっ、それよりここにいたらあいつらまた戻ってくるかもしれないから、急いでここから離れよっ」


 歩夢は不知火の裾を引っ張って駈け出し、未来と絵里もそれについて走る。


 不知火はあの二人に対する罪悪感は一切無く、自分の日常を守れて良かったと、ただそれだけを思っていた。





 路地裏にて無残な仲間の姿を見た男は、あまりに無残な状況から、声にならない呟きを発しながら、思考が停止してしまっていた。


 「なんだよ……おかしいだろ、ありえないだろ、なんでこんな人間がこんなんになるんだよ……」


 「なぜか、それはなーぜか、なぜだろうねー、疑問を抱くことは素晴らしい。私は君を拍手で称えよう。パチパチパチ」


 耳に粘りつくような男の声が辺りに響いたと思ったら、拍手の音と共に、路地裏の闇が一層に濃くなり、どこか現実とは違う別世界のような空間へと変わっていく。


 男は周囲を見回すが、声がするだけで人の姿は見当たらない。


 「そんなに辺りを見回して、何か探しものかな」


 紳士というには少し奇抜過ぎる、どこか道化のような格好をした長身の優男は、突如男の目の前に現れた。


 「おっおっお前、今ど、ど、どっから来やがった」


 男は驚きのあまり尻餅をついた。


 「うーん……疑問を抱くことは素晴らしい。でも質問に質問で返すのは良くないなー、良くないよー。これはお仕置きが必要みたいだ」


 「なんなんだよ、さっきから意味分かんねーよ。ツレの奴らはなんか骨が抜けてるし、分けわかんねーやつが目の前に出てくるし、もうこれ夢だろ……」


 男は恐怖のあまりに涙目になり、うずくまって喚き散らす。


 「君のお友達は、私と同じ何かにやられたんだね。おぉーそれは可哀想に……彼らの輝かしい未来が失われてしまったと考えると涙が止まらない……そうだ、私が助けてあげよう」


 紳士のような男が涙を流しながら腕を横に振ると、気絶している男二人の姿が始めからなかったように消え去った。


 「ほーら、これでもう大丈夫。もう彼らが苦しむことは二度と無い。私が存在ごと食べちゃったからねー。良かったねー良かったよ。もう悲しくないね」


 ケタケタケタと紳士の男の笑い声が辺りに響き、うずくまって叫ぶ男の声となんとも言えない不気味なハーモニーを作り出している。


 「さっきからちょっと五月蝿いですよ」


 紳士の男は貼りつけたような笑顔から、突如怒りに顔を歪ませた。


 次の瞬間うずくまって叫んでいた男の姿が跡形もなく消え去り、紳士の男は再び笑い出した。


 「それにしてもここは面白そうな街ですねー、僕と同じような違うような不思議な香りがしますねー。この街で開く社交界は実に面白くなりそうです。うーん、背筋がぞくぞくしてきました。あー早く踊りたいですねー」


 そう言って高笑いをあげながら、紳士の男の存在は次第に希薄になっていき、路地裏には三人組の男も、紳士の男も始めからなかったように消え去った。


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